(8)基礎値
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騎士コースを卒業したというヘッダだが、結婚を機に騎士団を辞めて今ではお小遣い稼ぎ程度に冒険者として活動しているらしい。
旦那さんは正式な騎士で稼ぎが足りないというわけではないらしいけれど、基本的に体を動かしていないと落ち着かない性格だそうだ。
旦那さんも一応貴族籍にはいるけれど、彼女たちの子供は貴族にはならない。
貴族家に生まれた当主にならなかった者たちの子供は、皆がそういう扱いになる。
ただし本家で跡取りに恵まれなかった時にはお鉢が回って来る可能性があるので、生まれも育ちも平民という者たちとはやはり一線を画している。
お鉢が回って来るのは、あくまでもヘッダやアンネリのような貴族籍がある者から二世代先くらいまでになる。
これは王国の貴族法にも正式に認められている貴族家の継承法となる。
もっともこれ以外の方法として養子を取るという方法もあるので、王族ほどには血筋というのは絶対の価値観が置かれているわけではないようだ。
そんなヘッダさんは今、宰相との約束を取り付けているという俺を見ながら疑わしそうな視線を向けていた。
「アンネリ……騙されていないか?」
「ウフフ。相変わらずね。でもそのセリフは今回の一度だけにしておいてね。それ以上言ったら私が許さないわよ」
「ウッ、すまん。だが、お前の男運の無さは皆が知っていることだからな……」
「それは……言わないで」
ヘッダの言葉にクリティカルヒットを喰らったのか、アンネリはしょぼくれていた。
出会いの時のことを考えれば、確かに男運がないと言われても仕方ないと思う。
それに俺自身と会ったことも運がないと言えば、そうなのかもしれない。
もっともそんなことを言えば本気で怒りだすことは分かっているので、言葉にすることは絶対にないのだけれど。
「と、とにかく! 今回は私が望んでいるんだから大丈夫! それに、そんなに怪しい人物なら王族が気に掛けることもないわ!」
「アンネリ……」
「あっ……!?」
どうにも久しぶりに友人と会って気が緩んでいるのか、アンネリは先ほどから普段しないような失敗をしている。
俺と国王に繋がりがあることは別に秘密にしているわけではないけれど、巻き込まれることになりかねないため言わないようにしている。
それは俺が決めたことではなく、アンネリ自身で決めていることだ。
手紙のやり取りさえしなくなってしまった要因の一つでもあるだろうと予想できるだけに、何とも残念な気分になってしまった。
勿論馬鹿にしているとかそういうわけではなく、それだけヘッダのことを信頼しているからこそ口を滑らせていると分かるから。
思わずと言った様子で口を押えていたアンネリだったが、ヘッダが口を開くよりも先に真剣な顔になって言った。
「ごめん、ヘッダ。口を滑らせた私が悪いのだけれど、これ以上は聞かないで。私はあなたたちを巻き込みたくはないの」
「そう言われると引き下がるしかないが……どちらにしても手遅れのような気もするがな。私も今わかったことだが」
「……どういうこと?」
「今シーズンに限ったことではないんだが、お前を社交に誘わないかという打診がかなり増えているようでな。何故そこまでとあいつと不思議がっていたんだが、今ので理由の一つは掴めたな」
「それは……確かに間違っていないわね。でもそんな状況だったらキラと国王様が直接の繋がりがあるということは、あの子にも伝えてた方が良い気がするわね」
「確かにな。知っているのと知らないのでは対処の仕方も違って来るからな。その程度であれば国王も許しているのだろう?」
「大丈夫よ。むしろ困ったことがあれば、国王様に相談できるようにしておくのもありね」
そう言いながら本気で考え始めたアンネリを見て、ヘッダは若干顔を引きつらせていた。
宰相という存在にさえ驚いていたのに、気軽に国王に相談するというワードに驚きを通り越したのだろう。
それだけこの世界では、君主制が行き届いているともいえる。
現ノスフィン国王は決して暴君ではないので、国民から慕われているともいえる。
もっともいくら君主制が当然の世界であっても、暴君であればすぐに引きずりおろされることになるのはこの世界でも変わらない。
「――何をどうすれば、そんな雲の上の存在と知り合えるか聞きたいところだな」
「あら。聞きたいの?」
アンネリがそんなことを言いながらこちらをチラリと見て来たのは、ある程度のことなら話していいのかの確認だろうと予想してすぐに頷き返しておいた。
「いや、それはちょっと……」
「もう遅いわよ。別にこれは隠していることじゃないからあなた方も聞いておいて損はないと思うわ」
「……そう言われたら聞いておかないわけにはいかないじゃないか」
「そうよね。というわけで話すけれど――ねえ、キラ。今の私って、どれくらい強いのかな?」
「どれくらいって、そうだなあ……。ヒルダを相手に七から八割くらいは勝てるんじゃないかな」
「「えっ……!?」」
「いや。自分から聞いておいて驚くことはないと思うけれど?」
何故か一緒になってヘッダと同時に驚くアンネリに、つい突っ込みを入れてしまった。
アンネリは未だに地脈ヘの接触ができていないけれど、魔力操作の地道な訓練が身を結んで扱える魔力の量と質が他の魔法使いと比べて段違いになっている。
未だに経験はヒルダの方が上だが、魔法に関する基礎値は明らかにアンネリの方が上なのでその能力差で勝率は上回ることができる。
最初の内は経験で圧されるかもしれないけれど、回数をこなせばこなすほどアンネリの経験が上がって来る。
そうなって来ると下地が違うアンネリが負けることはなくなるはずだ。
もっとも完全に圧倒するためには、まだまだ魔力操作の訓練は必要になってくるのだが。
ダンジョンでの経験は積んでいても、やはり対人戦となれば経験がものを言う。
経験を余裕で上回れるくらいの基礎値があれば話は別だが、今のアンネリだとまだまだそこまでは行っていない。
そんなことをつらつらと説明するとアンネリは納得した様子になり、ヘッダはどこか懐疑的な表情を浮かべていた。
「ヒルダと言うと、あの『激流』だろう? 本当に勝つことなんてできるのか?」
「何度か魔法を使っているところを見たことがあるからね。ほぼ間違いないと思うよ。ちなみに今言ったことは基礎的な能力に関する部分だけなので、奥の手があるとかは関係ないからね」
「そうなのか? 隠している技なりがあれば、ヒルダが負けることはないと思うが」
「うん。それも含めての分析だからね。いくら奥義なりなんなりを隠していたとしても、基礎値が上ならあまり関係ないよ。極端な言い方をすれば、剣を持ったばかりの子供にヘッダさんが負けることはないよね? いくら子供の方に才能があったとしても」
「確かに、それはそうだが……。いや。逆にいえば、キラは『激流』の実力を見切っているということか?」
恐る恐るという感じで聞いてきたので、直接は答えずにニコリと微笑むだけにしておいた。
最終的にはアンネリがはっきりと「母上はキラには勝てない」と断言していたので、それでようやく納得したといったところだった。
もしかするとヒルダを上回る実力があると国王や宰相との面識もあるのだと納得している可能性もある。
そう思わせるように話を誘導したので、結果としてはいい方向に話が進んだといえる。
あとはヘッダが勝手に自分で咀嚼して、友人たちに話を広めてくれる――と良いなと考えている。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
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