(7)どっちが悪い?

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 宰相から約束を取り付けた王国にある禁書の確認は、例の会談から数日後には連絡が来た。

 それによれば三日後には予定が取れるので、その日の都合が良ければ城を訪ねて来るといいと書いてあった。

 勿論そんなぞんざいな文章ではなく、貴族らしく丁寧に修飾かつ非常に分かりづらく書いてあったけれど。

 そこは一応まだこの国の貴族籍に属しているアンネリにも確認を取ったので、読み間違いということはないはずだ。

 指定された日はこちらの予定がないのは勿論のこと、予想よりも日時が早かったのですぐにその日で構わないと返事をしておいた。

 普通に考えれば一冒険者から一国の宰相のところにまで手紙が届くまでは時間がかかると思うのだけれど、そこは向こうも考えていたらしくきちんと手が打たれていた。

 わざわざ向こうが用意してくれた封筒にこちらが書いた書面を入れて届ければ、限りなく早く宰相の元に直通で届くようになっているらしい。

 そんな便利なものがと思わなくもないが、宰相ともなれば一日処理している手紙だけでもかなりの量になるはずなのでそうしたものが用意されているのは当然のこととも思える。

 

 宰相との次のやり取りが正式に決まって数日空いたわけだが、その前に予想もしていなかった次のイベントがやってきた。

 来るならアンネリに対してパーティの招待状なりが届くと考えていたのだけれど、その予想を超えてとある人物が王都の空き地に用意していた拠点にやってきたのだ。

 余談だけれど、この空き地はきちんとした(?)不動産用のもので借地として貸し出されている。

 本来は家庭菜園をするために貸している場所になるらしいけれど、冒険者がテント暮らしをするために借りることもあるらしい。

 

 王都の土地事情はともかくとして、そんな場所にまでやってきたのは身軽な動きやすい服装にご立派な片手剣を手にしたご令嬢だった。

 いや。後から話を聞いた時には既に結婚していると分かったのでご令嬢と表現していいのかは分からないが、とにかくアンネリと同じ年頃の女性が拠点を訪ねて来た。

 確かに貸し土地に大きめの馬車を置いて拠点を用意している冒険者なんて珍しいのだろうが、全くいないというわけではない。

 それでもピンポイントでこの場所を探し出してきたということは、最初からこの場所にがいると分かっていて来たのだろう。

 

 そんな推測が当たっていたと宣言するように、当のアンネリが嬉しそうな顔になってその女性を出迎えた。

「ヘッダ! まさか、いきなりあなたが来るとは思っていなかったわ!」

「何を言っているんだ。何年か前に行方をくらましたという友人が王都にいると聞いたんだ。訪ねて来るに決まっているだろう」

「それは嬉しいけれど……行方をくらました、はないんじゃない?」

「ここ数年、実家に連絡を入れてもなしのつぶてで、全く音沙汰がなくなった奴が言うセリフではないな」

「えっ!? 音沙汰がないって、まさか手紙とかも出していなかったの!?」

 改めて知った衝撃の事実に思わず口を挟んでしまうと、アンネリが何かを言うよりも先に女性――ヘッダが我が意を得たりと言わんばかりに頷いていた。

「そうなんだ。そのせいで学友たちにはどこかに幽閉とかされているんじゃないかと噂にもなったりしたんだが……この様子を見る限りでは全くの見当違いだったようだな」

 半分は冗談だが半分は本気だという顔をしているヘッダを見ると、その噂がまことしやかに囁かれていたのが事実だということが分かった。

 

 それはともかく、俺の知るアンネリは知人レベルはともかく友人と呼べるような人物にそんな不義理をするとは思えなかった。

 だからこそつい不思議そうな視線を向けてしまったわけだが、同じような視線を向けているヘッダと合わせて、居心地が悪そうな顔になって答えてきた。

「――だって、そもそもしばらく国を離れる理由がだったわけでしょう? 迷惑をかけるどころじゃ済まなさそうだったから控えていたのよ。……そうしていたら、あとはズルズルと」

「気まずくなっている家族関係はともかくとして、友人関係に手紙を送るくらいしたところで咎められることはなかっただろうに……」

「そうなのか!? アンネリ、それは随分と薄情じゃないか? ……いや。例のあのバカがいるから避けたかったというのは分かるが……」

「えっ!? あ、そ、そうね。あのバカのせいよね!」

 アンネリがヘッダの言葉に一瞬何のことかという顔をしたが、すぐに取り繕って頷いていた。

 ……のだけれど、流石にそれは遅すぎだというべきだろう。

 アンネリの友人というのはその言葉通りだったようで、取り繕ったのはすぐに見破られていたようだった。

 

「――これは、後でしっかりと問い詰めるべきだろうか」

「まあ、ほどほどのしてやってください。一応言っておくと、王家が関係していることもあるので話せることと話せないことはあるでしょうから」

「それはまた。なるほど、確かにアンネリの顔を見る限りではそのほうがよさそうだ。助言に感謝する。――ところでここまで脱線させておいてなんだが、アンネリ、そろそろ紹介をしてもらえないか?」

「……あなたがいつものように暴走したせいでしょうに」


 ジト目になりながらも小声で反論したアンネリだったが、それは見事に封殺されていた。

 それが立場などによるものではなく昔ながらの関係性から来るものだと分かったので、こちらも助け船を出すことはしなかった。

 こんなアンネリが見ることができたのは、間違いなく目の前に突然やってきたヘッダのお陰だったからということもある。

 他の面々も珍しいアンネリの様子に興味津々な様子で見ているだけで、ヘッダを責めようとする者はいないようだった。

 

 そんな周囲の生暖かい視線が分かったのか、アンネリは一度だけ誤魔化すように咳ばらいをしてからヘッダの紹介をしてくれた。

 彼女はとある男爵家の三女で、王都にある貴族が通う学園で騎士コースだったそうだ。

 アンネリとはクラスが違うけれど、専門コースに別れない年少組の頃に知り合ったそうで、そこからはずっと友人として仲良くしているらしい。

 ちなみに多くの貴族令嬢と同じく、学園を卒業した後のヘッダはすぐに婚約をして今は結婚もしているそうだ。

 

「――それで、ヘッダさんはアンネリと旧交を深めるために来たのですか?」

「旧交って、そもそも友人を止めたつもりはないのだが!? ――コホン。それはいいとして、そんなわけがないだろう。予想は出来ていると思うが、社交パーティのお誘いだ」

「お誘いって……普通に招待状を送るだけでよかったでしょうに」

 少しばかりキョトンとした様子のアンネリに、ヘッダは「それだと先にアンネリに会えないじゃないか」と宣っていた。

 

 いい笑顔で宣言したヘッダに若干うんざりした様子のアンネリだったが、すぐに気を取り直してパーティの日時を聞き出していた。

 そこで分かったのが――、

「パーティが開かれるのが三日後……しかもパートナー同伴が望ましい、ね」

「む……? 何か問題でもあったのか? 君たちの様子を見る限りでは、同伴者の相手には困らないのだろう?」

「確かにキラには同伴してもらえるように頼んであるわよ。でも肝心のキラがその日に予定が入っていてね」

「何だ。パートナーの女性を困らせるくらいの用事なのか?」

「そのパーティが、宰相の予定に穴を開けるくらいのものなら良いのだけれどね」

「宰相って……あの宰相か!?」

「そうね。ヘッダが予想している通りだと思うわ」


 目を大きく見開いてアンネリに確認を取ったヘッダだったが、その答えを聞いてさらに驚いていた。

 いくら何でも見た目は冒険者でしかない俺が、まさか宰相と予定を取り付けているとは想像もしていなかったのだろう。

 とにかく見事に予定がかぶってしまったことについて、アンネリと二人で頭を悩ませることになるのは確定するのであった。




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m(__)m

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