(6)面倒な伝言
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お互いに怪しい笑みを浮かべてから握手を交わして契約が成立した後は、軽い雑談になった。
宰相がお勧めした店だけあって料理もきちんと美味しいところなので、難しい話だけで終わって味を楽しめないのはもったいないということになったためだ。
もっとも本命の話はほとんど終わっていて、禁書庫にあるという文献とやらを確認しないとそれ以上の話が無かったということもある。
宰相はさすがと言うべきか、持っている話題も豊富で退屈するということはなかった。
少しでもこちらにいい印象を与えようという意図は感じてはいたけれど、何が何でも国とは仲良くなりたくないというわけではないので構わない。
それに国とは距離を置いたとしても、個人的な関係まで排除するつもりもない。
とにかく宰相との話は中々に興味深く聞くことができたし、お互いにメリットはあっただろう。
そんな宰相だが、話の最後にこんなことを言ってきた。
「そういえば、我が国では社交のシーズンが始まりますので少し留意されたほうがよろしいでしょうな」
「はて? 社交ですか」
「あなたはお忘れかも知れませんが、一緒に行動されているアンネリ嬢は一応今でも我が国の貴族ということになっているのですよ?」
「いえ、それは忘れていませんが……」
「であれば、昔馴染みのご友人に会われることもあるのではありませんか?」
「あ……ああ。確かに、そういうことも考えられますね。一応伝えておきます」
「そうしたほうがよろしいでしょう。あとはご本人次第というところでしょうか」
「そうなるでしょうね」
「出来ることなら我が国にとって厄介ごとにならなければよろしいですね」
笑いながらそう言った宰相だったが、こちらは微笑みだけ返して言葉では返さなかった。
ここで同意と否定どちらの返事をしても巻き込まれる要素にしかならないと感じたためだ。
あとは宰相が言ったように、アイリ自身が考えるべきことで俺が何かを言うようなことではないと考えたということもある。
とにかく宰相との話はこれで無事に(?)終わり、文献調査に関しては許可が出るのを待つだけということになった。
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宰相との話を終えて拠点に戻ったあとは、すぐにアンネリに社交シーズンのことを伝えた。
「社交シーズンね。確かに、言われてみればそんな時期ね。すっかり忘れていたわ」
「この国の社交のルールなんて全く分からないんだけれど、問題になりそうかな?」
「どうかしら? そもそも私が王都に来ているなんて知っている友人知人なんていないんじゃないかしら?」
「うん? それが何か関係するの?」
「ええ。社交というのはパーティを開く主から招待状が届いて初めて行くことになるのよ。王都にいるなんて知らなければ、そもそも招待状を送ることすらできないと思うわ」
「なるほどね。確かに全く知らない人間を招くパーティというのも中々ないか」
どの国でも同じようなシステムを使っているとは思うが、確かにそれならアンネリに招待状が届くなんてことはないだろうと納得した。
とはいえ宰相がわざわざ話題にしたくらいなので、百パーセント関りがないというわけではないだろうと思う。
そのことを聞くと、アンネリも考える表情をしてから一度頷いていた。
「確かにそうなのよね。一般的には招待状があって初めて行くのだけれど、国王や王族が開くパーティの中には貴族であれば誰でも大丈夫というものもあるわ」
「それはそれで警備が大変だと思うけれど?」
「勿論その辺りのチェックはきちんとやっているわよ。ただ王家には人物識別の魔道具が伝わっているからね。それを使ってチェックしたりするのよ」
「ああ~、なるほど。考えてみればギルドにだって似たようなものはあるし、王家にあってもおかしくはないか」
「そういうこと。貴族席から外れたりした場合は、登録抹消が義務付けられているからね」
アンネリはまだこの国の貴族籍から外れているわけではないので、王家が開くパーティは出入り自由ということになる。
もっともそうしたパーティも基本的には招待状が届いてから行くということが基本になっているので、あまり関係ないと言えば関係ないらしい。
だったら何故そんなやり方をしているのかといえば、招待状を送り忘れた場合などを踏まえて最初から飛び込み参加も大丈夫ということにしているそうだ。
どちらにしてもアンネリ自身からそうしたパーティに行きたいと思わない限りは、あまり関係のない話だともいえる。
「とりあえずこの国の社交の参加の仕方は分かった。……のはいいけれど、やっぱり招待状が届かないってことはないと思うんだ」
「どういうこと?」
「だってほら。人の口には戸が立てられないって言うじゃない。子爵や辺境伯が漏らさなかったとしても、どこかから漏れていると考えた方がいいと思うよ?」
「それは……私が王都にいるということが漏れているということ?」
「そうそう。アンネリにだって友達はいるでしょう? そうした人たちから招待状が届いたら?」
「……出来れば行きたいわね」
「だよね? こっちも行くななんて言うつもりは全くないから、そうなった場合のことも考えておいた方がいいと思うよ?」
話を聞いて納得したのか、アンネリは一度大きくため息をついていた。
友達とは会いたいけれども、社交は面倒だとはっきり顔に書いてある。
さらにもう一つ、何故か何か言いにくいことがあるような顔をしてこちらをチラチラ見て来た。
「何……?」
「いや、あのね。非常に申し訳ないんだけれど、そうなった場合キラも一緒に行くことになると思うわよ?」
「はえ……!?」
「言っておくけれど、私の年でパートナーを連れて行かないってことはあり得ないのよ。だから誰かを連れて行くことになるのだけれど、思い当るのは貴方しかいないのよ」
「ええ……」
「それがあったからこそ、宰相もわざわざ忠告してくれたのだと思うのだけれど?」
「……ありそうだなあ…………」
アンネリのパートナーとしてパーティに出席すること自体は、全く問題ない。
貴族の社交の場でパートナーとして出れば、そういう目で見られることになると分かっていても、だ。
ただし貴族の社交の場に出ると、間違いなく政治的な駆け引きに巻き込まれることが予想される。
そうなって来ると非常に面倒だということは、想像するに難くない。
「どうしても嫌なら一人で出ることも考えるけれど……?」
「いや~。それってどう考えてもアンネリにとっていいことじゃないよね。そんなことをさせるくらいだったら出るよ。その代わりと言ったらなんだけれど、置物に徹することになると思うけれど」
「それでいいわよ。むしろ変に口を開かない方がいいと思うわ、あなたの場合。話ができると分かった途端、事情通が群がって来るのは間違いないでしょうし」
「よし。それじゃあ、その方針で行こうか」
「むしろ本当にそれでいいの? ただのひも付きだと思われかねないわよ?」
「今後それほど深く関わることもないだろうし、全く問題ないよ。どうせ王都にいる間だけのことだろうしね」
「そう。それなら私も安心して招待を受けられるわ。きちんと選んで出来る限り少なくするから安心して」
「それはお任せするよ。ハロルドもようやく本領発揮ができるかな?」
「ここに来てからは冒険者関係の仕事しかしていないものね。トムのこともあるだろうからヘリと一緒に頑張ってもらいましょうか」
基本的には断ることを前提に、いざとなったら社交の場にも出るということで話はまとまった。
俺自身が出なくてはならなくなったことは予想外ではあったけれど、アンネリのためになるならそれくらいは喜んで出席させてもらう。
あとは出たとこ勝負になってしまうけれど、そこはいつものことと割り切ってその時がくるのを待つしかない。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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