(5)大元
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
どう考えても運営が関与して出来ている世界。
だからこそ世界に一系統の話しか伝わっていない不思議という問題にもすぐに答えられるのではあるけれど、それをどう相手に説明するかとなると難しい。
何やら答えを期待して待っているらしい目の前にいる宰相を見ると、ふとちょうどいい答えが見つかった。
「そもそも神々はどういう存在なのでしょうね?」
「……どういうことだ?」
「いえ。話を聞いていて突然思いついたのですが。そもそも神話や伝説などの話の大元になっている神々という集団が、どういう有り様かによって変わって来るのではないでしょうか」
「神々の有り様…………そうか!」
何となくヒントになりそうなことを投げかければこちらが期待する答えを思いつくのではないかと考えての言葉だったが、どうやら宰相はその答えを導き出してくれたようだった。
「――神々というくらいだから複数存在していることは当然だと認識しているのに、神々がどういう集団か――複数あるのか一つでまとまっているのかを考えていなかったということか。いや。考えることを放棄していたというべきか」
「もしかすると放棄させられていたのかもしれませんがね」
「どうだろうな。そこは神々だからこそ出来て当然なのだろうが、実際にさせられているかどうかを我々のような矮小な存在が考えても仕方あるまい」
「確かに。あとは複数いるはずの神々が、何故一系統の話しか伝えなかったのかということでしょうか」
「うむ。普通に考えればそこに意図があるはず……なのだが、神々のやることだけにあまり常識に縛られて考えても意味はないだろうな」
「そうでしょうね」
プレイヤーという存在を送り込むために作った世界だから――という答えを持っているものの、当然ながらそれを教えるようなことはしない。
横で話を聞いていたアイリが意味ありげな視線をこちらに向けてきているのを感じてはいたが、少なくとも今はそれに答えるつもりはない。
「なるほど。――それにしても、こちらが話をするつもりで来たのだが、良い話を聞くことができたな」
「いえ。こちらも色々な考え方が聞けて楽しいですよ」
「そうか。それで聞きたかったのは、話の差異についてだけか?」
「いえ。もう一つあるにはあるのですが……」
「なんだ?」
「正直これに関しては雲をつかむような話でして、答えがあるとは考えていないのです」
「お前の考え方は面白い。何が気になっているのか、是非教えて欲しいものだな」
「では、失礼して。――私の感覚からすれば、高度な魔法が遥か昔からいきなり使えるように見えるのですが、これはどういうことなのでしょうか?」
「どういうことというのは、どういうことだ? ――というなぞかけのような問いかけは無しにして、確かにそれは未だに解けない謎の一つとして挙げられているな。一応、神々から教わったからという答えはあるが」
この世界にある過去の英雄譚などには、勇者や英雄のような存在が出てきて人々を苦しめる魔物を討伐するなんて話がいくらでも存在している。
それらの勇者や英雄は、当然のように師匠に当たる者たちから魔法やら戦闘の技術を教わることになっている。
ところが何故かそれらの師匠に当たる人物たちがどこからそんな高度な魔法を教わったのか、もっといえばどうやって魔法が発展してきたのかということが書かれた物語はどこにも見当たらない。
どんな学問でも過去からの積み重ねがあって初めて高度な知識が生まれて来る……はずなのだが、そうした痕跡が一切ないのである。
「神々から習ったというのなら確かに納得できますが、一体誰が教わったのかというところが疑問ですね」
「その通りだな。実際それがネックとなって、神々から教わったという答えを懐疑的に見ている学者も多いくらいだ」
「そうでしょうね。それに対する反論はどんなものがあるのでしょうか?」
「そうだな。細々としたものは色々あるが……今のところ一番の対抗馬となっているのは、過去に我々の知らない大きな文明があったという説か」
まさかの超古代文明説が出てきたことに、思わず戸惑ってしまった。
今まで調べて来た文献の中には、そうした話は一切出てきていなかったのだから仕方がないと思う。
文献が一つもなかったということもそうなのだが、そもそもそんな話があるのであれば遺跡なりなんなりが出土していてもおかしくないはずだ。
それに、超古代文明の遺跡なり異物なりがあるなら国自体が大々的に探索してもおかしくはないのだが、そんな話は一度も聞いたことがない。
「古代文明ですか。遺跡などが見つかったという話は聞いたことがないのですが?」
「私もないな。だからこそ神々の方が信憑性があると言われているが、どちらも似たり寄ったりではあるな」
「確かに証拠が無いという意味では同じなのでしょうか。ただ……」
「ただ、何かね?」
「いえ。古代に文明があったとして、それらの記述が一つもないのは少しおかしい気がしますね」
「ふむ。となるとそなたは神々からの教示が正解だと考えるわけか」
「さて。さすがにそれを断言できるほどまで詳しく調べられてはいないですよ」
運営の存在を知っている身としてはどちらも違うと断言はできるのだけれど、敢えて言うなら神々からと考えるのが自然だと思う。
もっとも古代文明なんて面白い存在を、運営(上司)が無視するとは思えないという考え方もなくはない。
それに俺自身が知りたいのは、誰から教わったのかということではなく、どうやってどんな魔法が伝わったのかということだ。
「――神々からにせよ、古代文明からにせよ、文献として魔法が伝わったという証拠は残っていないのでしょうか」
「……ふむ。それがそなたの本命か?」
「おや。そう仰るということは、何かしらの心当たりがあるということでしょうか」
「無くはない、といったところか。……いや。はっきりいえば、思い当りはある。だがそれは城の禁書庫の中にある代物でな。いくら私でも、簡単には見せることはできん」
「なるほど。そういうことですか」
ここらあたりで政治的な駆け引きを持ってくるあたりはさすがは宰相と言ったところだが、特に無茶なことを言っているわけではない。
宰相が言う『城』は、間違いなくこの王都にある国王が執務と実生活を行っているはずの王城であり、そこにある禁書庫ともなれば簡単に出入りできるはずがないことは当然だろう。
となれば国に対して何かしらの利益がないと許可は出せない、と宰相の立場で言うことは理解できる。
だからこそ、宰相が来るとまでは考えていなかったけれど、何かしらの対価を要求されることは考えてこちらもしっかりと準備をしていた。
「――知恵の対価としては知恵で応えるべきかと、こんなものを用意してみたのですが――」
そう切り出すと流石に話が早い宰相は、公人の顔になってこちらを見つめて来た。
「そなた……いや。あなたが用意してきたものですか。それは中々に興味深いですな」
「さて。どうですかね。これに価値を見出せるかどうかは、そちらの国次第ということになると思いますよ」
お互いに悪い笑みを浮かべながらの会話にアイリが若干引いたような顔をしていたけれど、それは見なかったことにしておいた。
敢えて興味を引くように言葉を濁した感じで言ってはいるが、絶対に損はさせることがないと断言できるものを持ってきている。
実際用意していたブツを宰相に差し出すと、彼はそれを見てニヤリとした笑みを浮かべていた。
その顔を見て契約が成立したと改めて確信できたのは、改めて言うまでもないことだったと思う。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
※ギフトを頂きました。
いつもありがとうございます。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます