(4)『一つ』の世界

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 これから話を聞くとなると時間がかかりそうだということで、改めて場所を軽食が取れる店に移動した。

 もっとも相手が相手なのでその辺の気軽に入ることができる食堂というわけにはいかず、宰相のお勧めする店に入ることになった。

 店自体は図書館からそこそこの距離にあったのだけれど、宰相が用意していた馬車で移動したので大した時間はかかっていない。

 馬車の中でも軽く会話はしたが、そこまで本格的な内容は話していない。

 どちらかといえば宰相が王都に関する話をしてくれたので、興味深く聞いていた。

 宰相はさすがと言うべきか、初対面である俺たちで相手であっても飽きさせることなく話をしてくれていた。

 政治的な話はともかくとして、国のナンバー二の視点から語られる町の話は中々に興味深かった。

 しかもこの世界の町としては当然のようにあるスラムに関しても、隠さず話をしてくれていた。

 

 雑談もどきの王都談義を終えて、店の中に入ってから一通りの注文を終えると早速宰相が本題を切り出してきた。

「それで、神話……というべきか過去に関する物語か。そもそも何をお知りになりたいのか聞いても?」

「そうですね。まず確認したいのは、シーオという地域に限定すれば伝わっている話の差異はどの程度あるのでしょうか?」

「話の差異……か。何故そのようなことをと聞きたいところだが、結論から言ってしまうとさほどないと言えるのではないかな。少なくともこちらとヒノモトの間で伝わっている話ほどの差がないことは確かだ」

 宰相は、そう言いながらちらりとアイリを見ていた。

 

 ちゃんと彼女のことも調べているという牽制のつもりなのか、単にヒノモトの話もある程度は知っていると伝えたかったのかは分からない。

 宰相の言葉にどういう意図があったとしてもこちらには関係がないので、特に気にすることなく話を続けることにした。

 

「それは神話関係だけではなく、伝承や物語なんかもでしょうか?」

「そうだな。無論地域による差異はあるにせよ、それは言葉でいえば方言の違いのようなものでしかないといってもいい程度だろう」

「なるほど。ということは一つの話を元に広がっていると考えてもよさそうですね」

「そうだな。学者の間ではそれらの話がどこで発生したのか、という研究が主流になっているくらいだ」

「どこで……我が国こそは歴史の中央だ、ということですか」

「端的にいえばそういうことになるな」


 起源説の主張ではないのだけれど、厳密に分かっていないこと(もの)を自分のものだと主張することはどこでもよくあることなのだろうか。

 そんなことよりも話の広がりの元が一つだということは、図書館での調査を始める前から立てていた推測の一つが当たっていたということになる。

 それにはもう一つの根拠があるのだが……。

 

「一応伺っておきますが、種族による差もないのですね?」

「無いな。過去には種族が違っているのだから違う話が伝わっているのではないかと疑われていたが、今では同じ話が元となっていると言われている。主語や登場人物が変わっていたりしていても話の流れが同じだったりとな」

「そうですか。そこも言葉の違いと変わりませんか」

「うん? 言葉の違いが何故ここで出て来るのだ?」

 

 そう聞いてきた宰相の顔は、政治家というよりも研究者になっているように見えた。

 新しい発見なりをした研究者が思わぬことを聞いて、驚きというか不意を突かれた時に見せるような顔だ。

 それが良いことなのか悪いことなのかはよく分からないけれど、変に政治家然として対応されるよりは好感が持てる。

 もっとも宰相にとっては、そう思われるも計算の内なのかもしれないが。

 

 それはいいとして、この世界に来て一周目の時から気になっていたことの一つとして、言語による差異がほとんどないということがあった。

 元の世界である地球を思い浮かべてみれば、一つの国どころかそれ以上に細かく多くの言語に別れていた。

 それが常識として染みついているからなのか、こちらの世界に来てはっきりとした共通語たった一つの言語があってどこに行っても話が通じるということが何かを示唆しているのではないかと思えるほどだった。

 実際このことについてはプレイヤー間でも共有されている話になっていて、何度も議論の的になっていたりする。

 

 共通語という言葉があるくらいだからそれぞれの種族や民族による違う言語も存在はしているのだが、何故か共通語はどの種族でも使えるというのが当たり前になっている。

 地球の場合を考えるといかにも人為的な要因があると思わせるような状況になっているのだけれど、明確な答えはプレイヤーでも見つけられていなかった。

 この単一的な言語の存在と今回わかった物語の広がり方を考えれば、答えは一つしかないように思える。

 それがなにかといえば、この世界を用意した運営が一気に同じ言語や物語を広めた、もしくは用意したからということになる。

 

 ここで問題になるのは、これらの内容をどうこちらに期待するような視線を向けてきている宰相とアイリに説明をするかということだ。

 さすがにプレイヤーや運営という存在を簡単に明かすわけにはいかない――ということが、俺がこの世界でプレイヤーとして生きていくための方針の一つだ。

 それらの存在を抜きにして二人にこの事実を説明するためには、別の存在を作るしかない。

 とはいえ見当違いの存在を作ったとしても話のずれが生じて来る可能性も考えるわけで――。

 

「――いえ。ごく簡単なことで、神話にあるように『神』がこの世界を創り上げたのだから言語も物語も共通しているのが当然なのかな、と」

「ふむ。そなたもそう考えるのか」

「そなたも? ということは似たような考え方はあるわけですか」

「そうだな。主に神官などの聖職者たちが唱えている説ではあるが、それ以外の学者にも同じことを言っている者はそれなりの数がいる」

「宰相はどう思われますか?」

「そうだな。確かに筋が通っているようにも思えるが、少し単純に考え過ぎているような気もするな」

「そう考えられる根拠は?」

「人族どころか神々でさえも多く存在しているとされているのだぞ? 多様性が当然と言える世界なのに、何故神話や物語に違いがないのは不思議だと思わないか?」

「始まりが一緒なのだから元になる話も一つなのは当然と考えるのではなく、複数あってもおかしくはないと考えるわけですか。なるほど」


 運営という存在を知らなければ、宰相が今言ったようなことを説に上げる学者もそれなりの数存在していてもおかしくはない。

 ましてや何百、何千、もしかすると何万という世界を用意するにあたって、一つの世界の誕生に多くの時間を費やすことができなかったなんてことは想像の範疇に無いだろう。

 後半は完全に俺個人の想像でしかないけれど、普段から忙しそうにしている運営を見ている限りは中らずと雖も遠からずといったところだと考えている。

 広場の中央にある役所に来ている運営さんが、口を揃えて「ここに来るとのんびりできる」と言っているのを見ているからこそできる考えではあったりする。

 

 こうした考えは運営という存在を知っているからこそできる考え方なので、この世界で生きる人々に説明することは非常に難しい。

 だからこそ今も『神々』という存在に押し付けたわけで。

 考えようによっては無理に宰相に説明する必要はないともいえるのだけれど、彼の立場は抜きにして今の『研究者』としての有り様は好ましく感じている。

 その彼に報いるためにも何かしらの説明はしておきたいと考えつつ、どうしたものかと頭を悩ませるのであった。




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m(__)m

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