(2)図書調べ中

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 王都に来てから数日かけて図書館で歴史書を調べた結果、眷属たちが知っているものと大きな乖離があるような内容ではないことがわかった。

 国家に伝わる歴史だとどうしても都合のいい解釈になる場合が多いのだけれど、一応誠実な内容で伝わっているらしい。

 ノスフィン王国には隠すような歴史はないと言いたいのかもしれないが、それはそれで国で暮らす民をコントロールする意味があるのは事実だろう。

 もっとも国同士の戦争が起こった際に、一騎士や将軍たちが大活躍して隣国を追い払ったなどの表現はたびたび見受けられるが、それはご愛嬌で済ませられる範囲だと思う。

 時にユグホウラを相手に立派な立ち回りを繰り広げたりしている場面もあったりしていたが、その程度は許せる範囲だろう。

 一周目の俺が死んで以降のユグホウラは少なくとも西欧方面で領域の拡張は行っていないので、ユグホウラの魔物集団を追い払うことに成功したという表記があってもそうなんだと思うしかない。

 もしかするとその時その土地を治めていた貴族が自己の正当性を主張するために持ち出しているのかもしれないが、真相は闇の中というのがこの国の主張になるのだろうか。

 たとえ当時を生きていた魔物がいたとしても、そこからの情報はまともに受け入れられるはずがないと考えているのかもしれない。

 

 そんな王国の思惑はともかくとして、事実に基づいた歴史が語られていることは間違いない。

 問題は図書館で調べることができる事実をどの程度まで一般市民が把握しているのかというところだけれど、これは知ってもあまり意味がないともいえる。

 王政が発達した世界では結局のところ国が発表している歴史が「事実」になるので、歴史家などの専門家が発現したならともかく、平民たちの言葉は『所詮は噂話程度』で片づけられてしまうから。

 平民に伝わる歴史を纏める力があるならそれは既に学者の呼ばれるような『一般市民』とはいいがたい存在になっているともいえる。

 

「――多分このまま調べ続けても特に目新しいことは発見できなさそうな気がしてきた……」

「国の有り様としては正直でいいと言えるのでしょうが、むしろ隣国などから責められそうな内容ともいえますね」

「確かにね。正直に書いていたとしても、他の国からすれば受け入れがたいなんてことはよくあることだろうし」

「魔物がいるからとはいえ、ノスフィン王国で戦争が少ないのはそうした面もあるのかもしれませんね」

「お互いにそれぞれの歴史を認めているから? どうだろうねえ。――ああ、そうか。それこそ戦力面以外でも守護獣の存在があるのかもね」

「守護獣様がきちんとした歴史を語っているということですか。こちらでは、守護獣様がそこまで『政治』に踏み込んでいるのでしょうか?」

「政治というよりも王家に関与していると見るべきじゃないかな?」

「……なるほど。政治的に上の立場にいる王家に関与しているからこそ、それぞれの国で正しい歴史が伝わりやすいということですか」

「うん。けれどまあ、それぞれの国で都合のいい歴史に書き換えられているところは沢山ありそうだけれどね」


 今回はあくまでも歴史がどう語られているのかを調べることが目的なので、恣意的に改ざんされていたとしてもどうこうするつもりはない。

 むしろ本命である神話や伝説なんかを調べる際に、どう変えられているのかということを知るうえで貴重な資料となることもある。

 ノスフィン王国の場合は、そこまで気にする必要がないと分かっただけでも十分収穫はあったといえる。

 問題はこの時点で国史の調査を終えてしまうかどうかだけれど、はっきりいえばほとんど改ざんがないと分かっただけでこれ以上調べる必要がない気がしてきていた。

 

「――というわけで、とりあえず明日からは神話なんかを調べることにするよ」

「畏まりましたわ。ただ国史ほど資料が多いわけではないのですが、いいのでしょうか?」

「それはね。一般に開放されている図書館で、そこまで多く調べることができるとは考えていないよ。禁書指定されている書物なんかは特にね」

「となるとやはり交渉するということでしょうか」

「まあね。最初からそのつもりだったからきちんと材料は用意してあるしね。ただいきなり禁書を見せろというのは失礼すぎるから、まずは一般図書から調べているだけだよ」

「確かにその方が信頼されそうですわね。とはいえ、神話系に絞るといってもそれなりに時間はかかりそうですが」

「どちらにしても無駄にはならないから大丈夫だよ。そもそも禁書があるかどうかも分かっていないんだから、まずは調べるべきことは調べておかないと」

「そうですね。今この時点でもヒノモトとの違いがあって面白いので、私としては全く問題ありません」

「神話系は地元に根付いたものが多いだろうからね。シーオとヒノモトだと距離的にもかなり離れているから色々と違いは出そうだね」


 国史に関しては早々に引き上げることに決めたけれど、神話や物語に関しては量が多いので調べることはいくらでもある。

 国史は残念ながら日本のように作者の視点によって見方が変わるような書かれ方をしていないので、これ以上を調べたところで目的のものは見つからないと判断した。

 それに対して神話などに関しては、それぞれの解釈による違いなども書かれているようなので調べる価値は高いと考えている。

 本命は最初から神話系だったのだけれど、折角アイリがいるので最初はお任せしたかったという事情もある。

 

「ではキラさんも明日から神話を調べるということですわね」

「そうだね。何も出てこなかったとしても、シーオ辺りで知られている神話というのも興味深いからね」

「私も調べていて色々と発見があって面白いですから。それよりも上に働きかけるのはいつぐらいになりそうでしょうか?」

「どうだろうね。ひと月くらいは待つつもりでいるけれど。それでも何もアクションが無かったらこっちから話を持ちかけようかな。守護獣経由で」

「それはまた。キラさんらしいといえばらしいのですけれど、持ちかけられた方は恐怖しそうですね」

「大丈夫だと思うよ。どうせ伝わるのは王家の誰かだと思うし。ある程度は慣れているんじゃないかな」


 さらりとそんなことを言ったのはいいけれど、何故かアイリは目を泳がせてから「そうですね」と答えて来た。

 守護獣をメッセンジャーとして使うのはどうかと俺も思うけれど、他に良い手段が思いつかないので仕方がない。

 それに繋ぎを取る手段が普通ではないだけで、交渉自体は相手方に不利になるようなことをするつもりはない。

 むしろ対価として用意してあるものを考えれば、得をするのは相手側になるとさえ考えている。

 ノスフィン王国には色々とお世話になっているので、それくらいはしてもバチは当たらないだろう。

 

 まだまだ図書館で調べることがあるので、現状は慌てることなく調べ物を続けるのでいいと考えている。

 国に保管されている神話や伝説は勿論のこと、出来ることなら平民に伝わっている説話なんかも知ることができるとありがたい。

 昔の日本みたいに説話集なんかが作ってあるならば、積極的に調べておきたい。

 アイリは立場上(?)神話に寄って調べているので、俺はそちら寄りに調べるのもいいと思う。

 

 とにかく目的は一つとしても、調べるものは沢山あるので出来る限り時間をかけて調べるつもりだ。

 こういう手間暇がかかる作業は避けたいところではあるけれど、思いついてしまった以上は避けて通ることは出来ない。

 あとは他のプレイヤーの動きにも期待したいところではあるが、掲示板で提案した以上は丸投げするつもりはない。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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