第21章
(1)調査開始
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他サーバー間用の掲示板で宇宙開拓者さんと話をしているときに気が付いたのだけれど、過去の文献を調べることはあちらだけではなくこちら側にも意味があるのではないかということだった。
そのことを早速ラッシュにも確認してみたが、確かに否定は出来ないという言葉が返ってきた。
ここで言葉を濁しているのは、過去にもマナのことを探るために色々な文献を探しているので今更新しいことが出て来ることはないのではないかという懸念があったためだ。
それは確かにその通りだったので、文献探しを他のプレイヤーに押し付けるつもりはない。
宇宙開拓者さんのサーバーでこんなことがあったので、もしかするとこちらでも何か見つかるかもしれないと掲示板で伝えただけに抑えておいた。
紙が高いので文献そのものが地球と比べてはるかに少ない世界ではあるものの、簡単に調べられるほどの量というわけではない。
各国に分散して保管されているということもあるので、目的のものを探すのは簡単ではない。
本探しも何を目的にしているかによって変わって来るので、目的さえ明確になれば探しやすくなるという利点もある。
そうした事情から『大樹の頂』の面々を引き連れて、ノスフィン王国の王都へと来ていた。
王国でどこに一番文献が集まっているのかとアンネリに問いかけると、王都だという答えが返ってきたためだ。
なんだかんだでこちらの世界に来てから初めてのノスフィン王国の王都になるので、拠点の場所を決めたあとはアンネリの案内の元で王都の色々な場所を散策した。
もっとも観光という文化が発達した世界ではないので、一国の王都であっても数日もあれば観光地といえるようなところは見終わってしまうのだけれど。
数日かけてゆっくりと王都散策を終えたあとは、それぞれの目的に向けて動き始めた。
アンネリやアイリたちは、基本的にこちらの目的に合わせて移動しているが特に不満を言うことなくそれに付き合ってくれている。
以前申し訳ないと考えて振り回していることを謝ったのだけれど、むしろ勝手について回っているのは自分たちだと笑われてしまった。
それ以来、あちこち移動することについて自分から何かを言ったりすることは止めている。何かあれば向こうから言ってくるはずだと考えて。
ノスフィン王国の王都は近くにダンジョンがあるわけではないので、冒険者としての活動は基本的にフィールドで行うことになる。
トムや子供たちはダンジョン探索の経験はあってもフィールドでの活動は少ないので、教えるのにちょうどいい機会だ。
それに合わせてサポート組が何ができるかも確認するとのことだった。
冒険者としての活動はほとんどアンネリに丸投げしつつある状況になっているので、その辺りのことは彼女にお任せすることにしている。
そして俺とアイリ、それとアイリの護衛役として着いて来ているダークエルフのお姉さんズは、王都にある図書館を訪ねていた。
アイリは、俺自身が過去の文献に興味があると話をしたところ、こちらの歴史や神話に興味があると言って着いて来ることになっていた。
そもそも『この世界』の過去がどういう扱いになっているのかこれまであまり触れてこなかったのだけれど、ここらできちんと調べておく必要がある。
その内容によってはプレイヤーとしての今後の活動にも影響するのではないか、というのが今のところの考えだ。
ノスフィン王国の王都にある一般に開放されている図書館は、二階建ての日本的な一般家庭の一軒家を三つほどくっつけた大きさになっている。
それでも紙が高い=本が高いこの世界においては、かなり大きな図書館になる。
持ち出しなどの制限もそれなりに厳しくて、基本的には持ち出しは禁止となっている。
町で生活をしていて金銭に余裕があると認められる場合には例外などもあるようだけれど、今のところ俺たちには関係のない話になる。
「――分かっていたことだけれど、やっぱり歴史はこの国の成り立ちが中心かな。あと各種族関係はそこそこといった感じだね」
「そうですわね。あとは神話関係がそれなりに集まっていると言っていいのではないでしょうか」
「なるほどね。そっちは神殿とか行かなきゃならないとか思っていたけれど、案外なんとかなるかな?」
「どうでしょう。そもそも比較する対象がありませんから、ここに集まっている書籍が全てかどうかはわかりません」
「確かに。当面、ヒノモトとの比較は任せるよ」
「はい。そのつもりで来ていますから」
ヒノモトにも当然ながら神話というものは存在しているので、東西にかけ離れた国同士でどこまで違いがあるのかは中々に興味深い。
そもそもかつていた世界のように宗教によって違いがあるのか、あるいは一つの世界観(?)のようなものを元に広まっているのか、もしくはさらに別の方向性があるのか、各地で調べてみないことには分からない。
もしこの世界の過去に運営が関与しているのだとすれば、何かしらの共通した大元があるのが自然だと思える。
プレイヤーのために用意されたと思われるこの世界の成り立ちを調べることによって、何かしらの目的が見えて来るのではないかというのが今回の目標となる。
……もっともここの運営の場合は、何かあると思わせてから空振りさせる可能性があることにも注意しておきたい。あえて誰がとは言わないでおくけれど。
というわけでアイリは、この辺りに伝わる神話や伝承を主に調べることになっている。
俺自身はといえば、色々と知っておいたほうが便利だろうということでこの国の建国記辺りを中心に調べるつもりでいる。
正直なところ王都にある図書館ということで、ここに置かれている建国紀には王国にとって都合の悪い事実が書かれているものはほとんどないだろう。
というよりもこの国の成り立ちを正確に知りたければ、まさしく生の情報を見聞きしてきた眷属辺りに聞いた方が早い。
それでもなおこの図書館で調べるのは、どういう意図をもってこの国を成り立たせているのかということがわかると考えてのことだ。
それ以外にも調べる価値があるものは色々とあるはずなので、頭から嘘だと決めつけて調べること自体しないなんてことはナンセンスだと考えている。
昼食休憩中の会話でお互いの方向性は決まったので、午後からも適当な書物を見繕ってからその内容に目を通す作業を行った。
図書館の中は静かにするというのはこの世界でも共通の認識だったようで、館内は非常に静かだった。
もっとも真昼間から図書館で調べ物ができるというのはそれなりに時間を持て余しているか、逆にすることがなくて暇な者だけなのでもともと人が少ないというのもあるのかもしれない。
とにかくその日は特に大きな発見があるわけでもなく図書館での作業を終えて拠点に戻った。
「――こっちは今のところ思ったよりも無難な内容だったかな。そっちはどう?」
「こちらも似たようなものです。何か地域差のようなものがもっとあると思っていたのですが、考えていたほどではありませんでしたわ。はっきりいえば拍子抜けでした」
「うーん。もしかするとユグホウラが関与したことで、一般に伝わる伝承なんかも改変があったのかなあ。そんなことを指示したことはないと思うけれど」
「そうなのですか? ……確かにヒノモトも昔ながらの神話や伝承は残っていましたね」
一瞬考えるような顔になったアイリだったが、過去に見たこのあるおとぎ話や伝承のことを思い出したのか、すぐに納得していた。
一周目のユグホウラがヒノモトを抑える時には、できる限り昔ながらに伝わる話などは保存するように指示していたことも大きいのかもしれない。
少なくとも今のヒノモトでは過去から伝わる伝承は、きちんと保管されているようだった。
とにかくまだまだ結果を得るには調査が必要なので、これからしばらくは図書館に入り浸りになるのだろうと改めて決心していた。
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※いつもギフトありがとうございます。
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