(10)運営の仕掛け

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 人の身体と精霊の身体への入れ替えが成功した日の翌日はアルさんの講義の日だったので、きちんと報告をしておいた。

「そうですか。まずは成功おめでとうございます。その上で一つだけ注意点があります」

「注意点ですか。何でしょうか?」

「元となる体を分解した際に感じて残したというですが、非常に重要なものですので今後も重々注意して扱うようにお願いします」

「初めて触れた際にそう感じましたが、理由を聞いても?」

「勿論です。というよりも是非聞いていただきたいです。――キラさんが感じられたそれは、一言でいえば魂を入れるための器といったところでしょうか」

「魂を入れるための器……」

「はい。一度触れられて分かっていると思いますが、当然のように物理的に形のあるものではありません。ですが、魂と身体を物理的に結びつけるために必要なものになっています」

「それは確かに重要なものですね。話に聞く限りでは、それを再構成することは出来ないということになりますか?」

「その通りです。その器は貴方をプレイヤーとして維持するためのシステムが組み込まれていると考えていただけるといいと思います」

「それは、また……」

 思った以上に重要な話が出てきて、思わず驚きで何度か瞬きをしてしまった。

 

 魂の存在がいざという時には輪廻の輪に戻るということは、既に周知の事実としてプレイヤー間では当たり前だと思われている。

 プレイヤーの魂が輪廻の輪に戻らず、こうして特殊な状況にあるには何かしらの『仕掛け』がされているのだろうということも言われていたが、まさかここでその答え(の一つ?)を聞けるとは思わなかった。

 プレイヤーがそれぞれの世界で生きるための元となっているホームという特殊な空間で生き続けることができるのは、その『器』があることだということだろう。

 それはあくまでも勝手な推測だったのですぐにアルさんに聞いてみたら、すぐに「その通りです」という答えが返ってきた。

 実は危ない橋を渡っていたのだと一瞬背中に冷や汗が流れそうになるのを感じたが、何故か微笑みながらこちらを見て来るアルさんを見て、恐らく不測の事態に備えるくらいのことはしているのだろうと感じた。

 

「もしあの段階で手を入れてしまった場合はどうなるのでしょうか?」

「そこまで心配されなくても大丈夫ですよ。今回キラさんが『違和感』を覚えたように、いくつかのロックはかけているのでいきなりそれらを解除することは出来なくなっていますから」

「なるほど。きちんと対策はされているということですね」

「そうなりますね。もっとも本人が本気で望んだ場合は別になりますが」

「それは……重い話になりますね」

「本当に。出来ればそんなことにはなって欲しくはないと思います。……この先どうなるかはわかりませんが」


 そう言って黙ってしまったアルさんを見て、何となく何が言いたいのかを察してしまった。

 プレイヤーは何度も別の人生をやり直すことができると言えば聞こえはいいが、プレイヤー本人という視点で見ればほぼ永遠の命を持っているのに等しい。

 プレイヤーとしてどこまで長く生きることができるかははっきりわかっていないけれど、永遠という時間に耐えられるかどうかはまた別問題だろう。

 今はまだやることが多いのでそれぞれの人生を楽しんで生きることができているが、その目標を失ったとたんに『終わりにしたい』と望むプレイヤーが出てきてもおかしくはないと思う。

 出来ることならそんなことにはなってほしくないと、アルさんと同じように俺自身もそう願うことしかできない。

 

「そういえばロックを掛けられているということらしいですが、もしかするといずれはそのロックも外すことができるようになるのでしょうか?」

「やろうと思えば出来るようになりますよ。ですが知識として知っておくことくらいで、実際に手を出すことになるとは思いませんが」

「何故でしょう?」

「先ほどまでの話でも分かると思いますが、身体を形成するためにかけているロックは魂の他にプレイヤーの皆さんを形作っているものですから。早い話がアバターそのものといってもいいでしょうか。ロックを解除してほんの一部でも変質するようなことがあれば、別人に変わるといっても過言ではないのですよ」

「それはまた怖い話ですね」

「ええ。それでも構わないというのでしたら変質させるのもいいでしょうが……私はお勧めは致しません」


 ニッコリと笑いながらきっぱり断言してきたアルさんだったが、こればかりは反論するつもりはなかった。

 さすがにに手を出すのは危険すぎるということは理解できたし、なによりもそんなところを変えてまで別人になりたいとは思わない。

 今回の肉体の再構成で分かったことだけれど、それこそアバターのように容姿を変えることもできるはずなので無意味に本質らしきものを変える意味もない……はず。

 

「今までのお話であれが魂とは別にプレイヤーの『本質』のようなものを形作るようなものだと理解していますが、間違っていますか?」

「そうですね。概ねそのような理解で間違っていません。もっといえば、スキルなんかもそれに含まれていますよ」

「……そうか。だから転生した時にも元の人生のスキルが残っていたりするのですか」

「そうですね。もっともスキルそのものを残しているわけではなく、あくまでも経験のようなものとして残しているという理解で良いでしょう」

「なるほど。そういったものはてっきり魂の方に残していると考えていました」

「魂に残しているものもあるますよ。ですがそちらの方だと、どうしても残せないものも出てきますから敢えてそういう方式を取っています。魂に直接刻み付ける場合は、危険も伴いますから」

「危険……ですか」


 何となく不穏な空気を感じ取ったので確認してみたのだけれど、アルさんから返ってきたのは相変わらずの微笑みだった。

 もっともその微笑みはこれまでとは違って『今は聞いてくれるな』という圧を感じたので、それ以上聞くのは止めておいた。

 

「それ以外に何か注意すべき点はあるのでしょうか?」

「いいえ、特には。ロックにさえ注意しておけば大丈夫ですよ。少なくともホームには帰って来れるようになっていますから」

「……なるほど。そういうことですか」

 いわゆる魔法による『事故』で世界で生きている人生が終わったとしても、プレイヤーはホームに戻ることができる。

 そこさえ大丈夫なのであれば、運営としては特に関与するつもりはないということだろう。

「――以前から聞きたかったのですが、マナを含めて一つの存在に強大な力を与えても大丈夫なのでしょうか?」

「これを言ってしまうと傲慢かと思われるかも知れませんが、キラさんなら大丈夫だと思うのでお教えしますね。はっきり言ってしまうと運営からすれば、たとえ一つの世界が消え去ったとしても大したダメージにはならないので問題ありません」

「それはまた、ぶっちゃけましたね」

「事実ですから。勿論、だからといって粗雑に扱うつもりはありませんが、もうすでに世界の命運はプレイヤーに委ねていますからその行動次第といったところでしょうか」


 何とも重要な話をさらりとされた気がしたけれど、世界の命運とやらに詳しく聞いたとしても無駄だとわかった。

 アルさんが言った以上は、本当にその言葉以上の意味はないはずだ。

 それぞれのプレイヤーが生きている世界がこれからどうなっていくかはまさしくプレイヤーの行動次第で、どう変わっていくかはプレイヤーに委ねられていると。

 恐らくプレイヤーに魂周辺に対してロックを用意しているのと同じように、世界に対して何かしらの保護ロックはかけていると思われるが、それ以外に手を出すつもりはないということになる。

 

 以前から掲示板でも運営はプレイヤーを世界の守護者的な存在に仕立てようとしているのではないかという話は出ていたけれど、まさしくそれが正しいともいえる言葉にも聞こえた。

 とはいえアルさんの顔を見てそれを聞いても答えが返って来ることあないと理解できた以上は、こちらで勝手に推測をしていくしかないだろう。




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m(__)m

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