(7)常識問題

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 < Side:キラ >

 

 子爵との話し合いは、予想以上に上手く行ったとアンネリから報告を受けた。

 なんでも子爵の孤児たちに対する扱いが思った以上に普通で、余計なやりとりが少なく済んだらしい。

 貴族にしては柔軟な考えを持っているようで、これならあまり心配する必要はないとのことだった。

 勿論トップと現場との考えがずれることは往々にしてあることなので、油断することは出来ない。

 だからこそきちんと契約という形を取ることにしたのだし、どちらかといえば子爵側に縛りを設けることになる。

 それでも受けることを前提に話を進めているということは、それだけ子爵もサポーターという存在を無視できなくなっているということだろう。

 

 子爵の場合は別にして、正直なところ契約と称してクランとの約束事を決めたとしても他の貴族が正直に守るとは考えていない。

『領地のため』になるならある程度の保護がされているのが貴族という身分になる。

 平民なんぞとそんな契約を結んで領地のためにならないと言ってしまえば、こちらから不履行を訴えたとしても何の痛痒も感じないはずだ。

 もっともこちらとしては契約を守らなかったことを理由にしてその後の契約を打ち切りにすることは出来るので、ただただ泣き寝入りすることになるわけではない。

 ――というよりも、そのために今回わざわざガチガチに内容を決めた契約を作ろうとしている。

 子爵もそのことが分かっているので、孤児たちのことを考えながらも領地にとって不利にならないような契約にしようとしているといったところだろうか。

 

 とにかく契約の細かい内容についてはアンネリに任せているので、俺自身から何か細かいところにまで口出しをするつもりはない。

 最近ではアンネリが主体となってダンジョンの潜ることが多いので、むしろ俺がどうこう言うよりも適任だと考えている。

 何よりもアンネリ自身がやる気になっているので、変に水を差す必要もないだろう。

 あとは最終段階になったところで確認をするくらいで問題ないはずだ。

 

 子爵へのサポーター貸し出しの問題はアンネリに任せることにして、自分自身は以前から考え続けている世界樹の精霊への変化後の問題をどうするか試し続けていた。

 魂の抜けた体をどうするのかという問題は、下手をすると殺人事件系の事態になりかねないので慎重に事を進めて行かなくてはならない。

 周囲の者たちは魔法を使った結果だと理解できるかもしれないけれども、知らない者が見つけてしまったらただの遺体が残っているだけのように見えかねない。

 どうあっても体のことを片付けないと安心して精霊体にはなれないので、早急に片づけたい問題でもある。

 

 他のプレイヤーと話をしたが解決せずに、一週間ほどかけて問題が片付かなさそうだと判断したところで最後の手段を取ることにしてみた。

「――というわけで、何かいい方法はないでしょうか?」

 そう問いかけた俺の前には、以前よりは頻度が少なくなったけれど未だに教師をしてくれているアルさんがいた。

「そうですね。幾つか思いつくことはありますが……」

「えっ、あるのですか!?」

「勿論ありますよ。話を聞く限りですが、今回の場合はキラさんが生理的嫌悪を出来るだけ避けたいというところから始まっているように思います」

「……確かに、その通りですね」


 アルさんの言う通りに、早い話が魂の抜けた状態で放置をするとご遺体を放置しているようにも見えるので、できる限りどうにかしたいというところから始まっている。

 それに加えて、精霊体になるたびに眷属に体を守ってもらうのも本末転倒になっているのではないかということもある。

 魂の抜けた体を魔法でがっちりと守るようにするという手段もなくはないが、魔法防御は絶対ではないという問題がある。

 結局のところ出来る限り生理的嫌悪を避けたいというのが最終目標であることは、今のアルさんの言葉で改めて認識することができた。

 

「生理的な嫌悪感は生まれながらに身についてしまっているので避けることは難しいですが、これをどうにかしないと恐らくこの問題をクリアするのは難しいですよ?」

「それはつまり、魂の抜けた体をアイテムのように扱うことに慣れるように、ということですか?」

「それも解決方法の一つとしてあります。ですが、もっと根本的なところで勘違い……というか認識不足を引き起こしているように見えます」

「どういうことでしょう?」

「簡単なことです。精霊の身体の場合は簡単に『無くす』ことができているのに、何故人の身体だとそれができないのでしょう?」

「えっ……!? いや、だって、人の身体は……あれ?」


 アルさんから言われたことをもう一度考え直してみると、すぐにおかしいことがあることに気付いた。

 精霊の身体を作っている時には人の身体から魂が抜けているという状態だけれど、戻る時には精霊の身体が残ったままにはなっていない。

 今の状態だと少しおかしな言い方になるけれど、人の身体が『本体』だという認識があるため残しておかなければならないという意識になっていた。

 だがそんなことはあくまでも思い込みであり、一周目という時を過ごしてきた記憶がある俺にとっては『どちらも本体』という認識が正しいはずだ。

 それもこれも魂の存在をきちんと認めることができていて、あくまでも身体は魂の入れ物だという考え方ができるからこその認識になるだろう。

 少し回りくどくなってしまったが、要するに妖精の身体を消すことができている以上は人の身体も同じことができるはずという指摘だった。

 アルさんに言われて、ようやくこれまで散々常識外れと言われながらもまだまだ常識に縛られているということが理解できてしまった。

 

「言いたいことは分かりました。……ですが、本当に出来るのでしょうか?」

「その辺りの不安が、やはり先ほどもいった生理的嫌悪というものに繋がっているのだと思います。当然ですが人はどうしても身体という物質的存在に固執しますから」

「その固執が嫌悪感に繋がっているというわけですか。いえ、嫌悪感というか拒否感というべきなのかもしれません」

「それを乗り越えることができれば、恐らく問題は解決できるのではないでしょうか。やり方はもうすでに精霊の身体で成功されているのですから」


 そうあっさりと宣うアルさんをチラリと確認した。

 この世界に案内された時から相変わらず美形なのは変わらないままだが、今となっては人と考えてもいいか怪しくなっている。

 姿かたちだけ見れば人族のヒューマン寄りに見えるのだけれど。

 もっとも『そんなことはどうでもいいか』と思えるくらいに、この世界に順応している自分がいることも確かだったりする。

 

 それはともかくアルさんが言っていることは、少し飛躍すると人の身体はあくまでも仮初の姿でしかないとも考えられる。

 人生を周回できるプレイヤーだからこそできる考え方ともいえるが、どこかで納得している自分がいることも確かだったりする。

 あとはどこまで自分の中にある『常識』で固められた意識を解きほぐして、人の身体を『処理』するように意識を誘導できるかにかかっている……と思う。

 それはまるで人であることを止めろと言われているような気もしなくもないが、そもそも一周目二周目と言っているだけではなく、それ以前の記憶がある時点で常識外の存在だとも言える。

 

 とにかく人族から精霊、もしくは精霊から人族への変化についてはアルさんのお陰で光が見えて来た。

 あとは自分がどこまで色々な『覚悟』を決めることができるかどうか、ということにかかっているわけだ。




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m(__)m

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