(6)意識問題

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 < Side:アンネリ >

 

 キラから頼まれて子爵様とのアポイントメントをきちんと取り、約束の日時になったので屋敷へと向かう。

 今回はヘリは勿論のこと、ハロルドやオトとクファにも着いて来てもらっている。

 ハロルドはともかくオトやクファに着いて来てもらっているのは、きちんとした理由があるわ。

 それが役に立つことがあるのかは分からないが、少なくとも二人にとっては貴族とのやり取りの経験を積むという意味においても勉強になるはずよ。

 二人が将来どういう方向を目指すかは分からないけれども、何かの役には立ってくれるでしょう。

 二人ともそれが分かっているのか、多少の緊張も加えて屋敷に向かう道中でも口数が少なくなっていたわ。

 

 屋敷に入ってからはスムーズに事が運んで、すぐに子爵様と面会となった。

 きちんとアポイントを取っているのだから当然のことだけれど、たまに待たせるのが貴族の仕事だと勘違いしている面倒な人もいるから始末に負えない。

 子爵様はそんなことをするような人格ではなかったらしいわ。

 もっともキラの代わりに来ているということも関係しているのだとも思うのだけれどね。

 

 とにかく部屋に入って来るなり子爵様は、挨拶もそこそこに席に座るように促してきた。

 オトとクファに関してはチラリと視線を向けるだけで、邪険にするようなことはなかったわ。

 これで二人を追い出すようにしたなら、今回の件も話が進まなかった可能性もある。

 そういう意味では、まずは第一段階目をクリアしたといってもいいのでしょう。

 

「――さて。子爵家の騎士団にサポーターを派遣してくれる件だと聞いているが、間違いないかな?」

「間違いございません。こちらとしても幾つかの条件を満たすことができれば、前向きに検討させてもらいたいと考えております」

「前向きに、か。まさかここでそんな貴族的表現を聞くとは思わなかったがな」

 

 子爵様は笑顔を浮かべながら言っているものの、言葉の裏には無茶な要求を聞く気はないという意味も含まれている。

 これでも貴族の子女が通う学校に通っていたのだから。それくらいの裏を読み取ることは出来るわ。

 もっともこの程度のことで引いていては貴族社会の中では生きるのが難しくなるので、私も黙ったままでいるつもりはない。


「こちらの提案を受け入れて下さるかは子爵様のご判断になるので、仕方ありません」

「ふむ……まあ、いい。それよりも先に条件とやらを聞こうか」

「そこまで難しく考える必要はございません。一番重要だと考えているのは、こちらが派遣するサポーターに対して差別的な扱いはおやめください、というものになります」

「それだけか?」

「それだけと仰いますが、しっかりと守らせるのは中々に大変だと考えております。何しろ私たちが出すことになるサポーターは未成人の孤児たちが多くなりますので」

「……む。なるほど、そういうことか」


 オトとクファに対する態度を見ても子爵様ご自身には、孤児に対する偏見のようなものは持っていないように見えるわ。

 もっともこの二人は、身なりからしても既に孤児だと見られるような機会は少なくなっているのだけれどね。

 ただ今回『教師役』として派遣することになるサポーターには、どこからどう見ても孤児という言動をする者もいる。

 そうした者を相手に、騎士としてのプライドを持っている騎士団員がきちんとした『教師』だと認識して行動するかは疑問符がつくでしょうね。

 それが分かっているからこそ、私の言葉を聞いた子爵様は何やら考え込むような表情になったのでしょう。

 それに普段の行動だけではなく、サポーターとしての業務を教えているときにも諸々の問題が発生する可能性もあるわ。

 

「仮にも教師として出向くのですからそちらから手を出してくる何ことはもってのほかです。たとえ教えている内容が、騎士団のものと反する場合であってもです」

「……確かに、色々な意味でいい修練の場となりそうだな」

「修練ですか。そうとらえて下さる方がいらっしゃることを願います。受けて下さるのならと付きますが」

「なるほど、事前に調整を行うための場を持ちたいといった意味がわかった。問題が起こる前に場を設けてくれたことを感謝すべきであろうな」

「私たちは、無駄に子供たちを傷つけたくはありませんから」

「そうだろうな。私はキラ殿がクランを作ることになった理由も知っているからな。むしろこのことを思いつけなかったこちらの落ち度だろう」


 さすがに頭を下げて来るようなことはなかったものの、そこまで踏み込んだことを言ってきたことに内心で驚いたわ。

 そのようなことを考慮する必要はないと一蹴される可能性も考えていたので、子爵様の態度はこちらにとってはかなりプラスになったと言えるでしょう。

 私自身は一応貴族の身分にあるとはいえ、今回はあくまでも平民の作っている組織への依頼なので自らの落ち度を認めるようなことはないでしょうから。

 そこまで考えてふと浮かんできた疑問があり、一瞬口にするかどうかを迷ってから言葉にすることを決めた。

 

「――それにしても孤児に対して随分と柔軟な考えをお持ちですね。平民の中にも孤児を蔑む者は多いのですが……」

「それを君が聞くのか」

「……はい?」

 本気で意味が分からずに首を傾げた私に、子爵様ははっきりと一度ため息を吐かれていた。

「私自身が孤児に対してどうこう思わないのは、誰かさんがそうさせたからだ。名前を言わなくとも君なら分かるだろう?」


 そこまで言われてもまだどういうことか分からなかったけれど、少し考えてからすぐにその言葉の意味を理解したわ。

 今目の前にいる子爵様は、私の母であるヒルダとひと悶着を起こしたことがあると聞いている。

 細かいことは分からないけれど、その時に孤児に対する印象も今のような考え方に変わったのでしょう。

 それが母によって変えられたのものなのかは分からないけれど、少なくともこちらにとっては好ましいものなので過去について今以上に詮索するつもりは無いわ。

 

「コホン。いずれにしても今すぐに開始するというのは難しいということがわかった。こちらも色々と調整が必要だからな」

「そうでしょうね。今あげたもの以外にも細かい要求はありますので、そちらも提出しておきます」

「よかろう。……君は今回の件を今後のたたき台か何かにするつもりだな?」

「必要であるならそうなるでしょう。ですが恐らくそうはならないのではありませんか? もしこちらでの運用が上手く行けば、子爵様にご依頼が来るでしょうから」

「確かに、それもそうだな。ある程度こちらで人員を受け入れるにしても……いや、これは君たちには関係のない話か。とにかくそれ以外という話も聞くことにしようか」

「畏まりました」


 一番重要なことは孤児たちに対する扱いではあるけれど、ダンジョンという危険地帯に潜ることになる以上は認識のすり合わせは絶対に必要になるわ。

 貴族だから騎士だからと無茶なことを押し付けられても、本来の目的を果たせないどころか一瞬で窮地に陥ることになる。

 それは普段からダンジョンに潜っている者なら日々実感しているはずなのだけれど、貴族に限らず責任を押し付けることしか知らない輩も残念ながら存在している。

 ましてや今回は騎士という身分的に上の者たちに付くことになるので、トラブルを避けるためにはどうしても細かい規定は必要になって来る。

 子爵様もそのことは理解しているのか、すぐにより細かい具体的な話を聞く気になってくださった。

 今回の話し合いですぐに決定するというわけではなく、お互い内部ですり合わせを行う為にも一度持ち帰って検討するということでなんとか今回の話し合いを終えることができたわ。




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m(__)m

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