第20章

(1)懐かしの

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 ラッシュが壁を越えた翌日からは、少し気になったことがあってこれまでと違った訓練をするようになった。

 このころになるとアルさんからもよほどのことが無い限りは事故が起こることはないと言われていたので、安心して新しいことに挑戦できたということもある。

 勿論だからといって、何でもかんでも好きなことができるわけではない。

 マナは魂を作るための元のエネルギーであることから、下手なことをすれば自分自身の魂を崩壊させる可能性もある。

 そうなった場合はプレイヤーであっても通常の輪廻の輪に戻ることになるので、完全に今いる世界からおさらばすることになる。

 さすがにそれは勘弁してほしいので、アルさんから習った基本からは外れないようにしつつ色々なことを試してみる。

 アルさんを含めた運営側もプレイヤーがマナを使って何をするのかは期待しているらしく、とにかく事故のないように出来ることは試してみるようにと言われている。

 もしかすると運営がこんな大げさな舞台を用意したのは、このことがあってのことかもしれないと考えていたりする。

 

 その推測が合っているかどうかはともかく、まずは真っ先に思いついたひらめきを試してみることにした。

 そのひらめきとは、今現在ヒューマンの身体で活動している身だがほぼエネルギー(魔力)の塊だった世界樹の精霊に戻ることができるのではないかということだった。

 そのためにもまずは世界樹の傍に行くべきだろうと考えて、今は麓にある例の小屋に来ていた。

 まずは世界樹の中に入って、そこから一周目の時のように世界樹の精霊になることができるのではないかと考えたからだ。

 

「マナは魔力の元となっているエネルギーというのは間違いのない事実。だとすると出来てもおかしくはない……はず」

 そんなことを呟いてから精神(魂)を世界樹の中へと移した。

 この辺りは既に何度も行っている作業なので、特に戸惑うことなくいつも通りに世界樹の中へ入ることができた。

 世界樹が進化したことによって中にある魔力の量がこれまでとは段違いになっているけれど、地脈の中を長い間ウロウロしてきたので大した問題にはならなかった。

 

 世界樹の根と葉にマナが集まっていることも以前と変わらないので、まずはそちらに移動する。

 これからやろうとしていることはマナを直接利用しないといけないので、できる限り多く集まっているところで試したい。

 慣れてくれば空気中に漂うマナだけでできるようになるかもしれないけれど、今は不安しかないのでその場所で試すにこしたことはない。

 今回選んだ場所は地中にある根ではなく、空気に触れている葉のある場所にした。

 

 世界樹はマナを吸収して魔力にしているわけだが、既に葉の中に入って来ているマナを使うと何かの影響があるかも知れない。

 それを考慮して葉の中ではなく、周辺に集まっているマナを利用することをまずは試みることにした。

 世界樹も周辺にあるマナを全て利用しているわけではないので、それなら大きな影響を与えることはないだろうと考えてのことだ。

 問題は世界樹の中にあるマナではなく外にあるマナを利用することができるのかどうかだけれど、何はともあれ試してみることにした。

 

 幸いにして葉の周辺に集まっているマナは、すぐに使えることがわかった。

 あとはそれらのマナをこれまで訓練してきたとおり、魔力操作ならぬマナ操作をしながら一定量を集める。

 問題なのはそのあとで、集めたマナを変化させて世界樹の精霊を形作らなければならない。

 魔力からできていると言われている魔物もそうだが、それらの生物(?)は魔力ではなくマナから作られた魔石をもとに誕生している。

 それを参考にして、なじみ深い世界樹の妖精を形作ることになる。

 

 そう考えることは簡単だけれど、実際にやってみるとなるとやはりすぐに上手く行くわけもなく。

 そもそもマナをどう変化させれば妖精の身体を作ることができるか、全く分からない。

 精霊の身体は魔力の塊だということは分かっているので、まずはその身体を作るための魔力に変化させるところで躓いてしまった。

 

 そこから先は中々進むことができずに、試行錯誤すること二日後。

「魔力そのものを使って体を作ろうとしても駄目ってのがなあ……。――そういえば、一周目の時はどうやって作っていたんだろうか?」

 世界樹の中から妖精になるときは、特に何かを意識して作っていたわけではない。

 強いていうなら目や耳がない状況から体が欲しいと願ったら自然と体ができたという感じだった。

 

 その時の感覚を思い出しつつ、今度は魔力ではなくマナで体を形作るように意識してみた。

「……おや? 何となくできそうな感じが……した?」

 粘土をこねるようにマナを形作ること数十分。ジグソーパズルの最後のピースがはまるような感覚が生まれ……たように感じた。

 その感覚を大事にしつつ、さらにもっとも上手く形が作れるように粘土遊び、もといマナ操作をどんどん試して行く。

 

 そんなマナ遊びを試行すること数十回、結局お昼ご飯の時間になってしまったので試行作業は一旦中断してホームにある建物の中で昼食を取ることにした。

 アンネリたちはダンジョン探索に出ているので、ヘディンの拠点に戻っても誰もいないことは分かっている。

 なんだかんだで一人で取る(眷属は除く)昼食も久しぶりだったので、何となく懐かしい気分になることができた。

 そのお陰かどうかは分からないが、ふと思い出したことがあった。

 

「――考えてみれば、一周目の時はマナなんて意識せずに精霊の姿に成っていたよな。ということは、マナのままで体を作ろうとしていること自体が間違いってことか、な?」

 マナを使うこと自体は間違っているとは思えないけれど、マナそのものを使うのではなくそこからどうにか魔力に変換しなければ精霊の身体として『固定』出来ないのではないか、と。

 マナがエネルギーそのものだと考えれば、いくらその場で形を作ったとしても『固定』できなければ霧散してしまうのは当然だろう。

 となるとやはり魔力に変換して『固定』する作業が必要になる――という推測が頭の中を巡った。

 

 すぐにでもその思い付きを試してみたかったが、折角眷属に用意してもらった食事を中途半端な状態で無駄にすることは出来ない。

 というわけでしっかりと残りの分を体の中に取り込んで、胃の中が落ち着くまで待ってから再び世界樹の中へ。

 葉のある辺りまで移動するのは変わらずに、今度はマナで精霊の形を作るだけではなく、そこからさらに魔力に変換するようにイメージしてみた。

 ただしマナから魔力への変換はやったことがないので、完全にぶっつけ本番となる。

 

 ――はずだったのだけれど、何故か特に躓くことなくあっさりと魔力に変化できたという手ごたえを得た。

 一応しばらく待ってみたが、先ほどまではすぐに消えていたその体は形作られたまましっかりとその場に残っていた。

 敢えてそのままの状態で数分待ってみたけれど結果は変わらず、放置していても意味がないのですぐに魂ごとその作った体に移動してみた。

 すると特に抵抗もなく、すんなりと作った体に魂を移動することができた。

 

「……うん。これは、成功かな?」

 作った体の中に入ってみた感じは、一周目の時のものと全く変わりがなかった。

 といっても精霊の身体に入るのは久しぶりのことなので、どこか細かいところで違っているところがあるかも知れない。

 それは追々確認していくことにして、とりあえず今は初めての成功ということでその場で静かに喜ぶことにした。




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★ギフト、ありがとうございます。


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m(__)m

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