(10)今後のこと

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 マナについての訓練は順調に進んでいる。

 座学については一通りのことを学んだだけで一旦終わりとなったけれど、実技については早々簡単には終わりとならなかった。

 座学で学んだことを鑑みれば、慎重になるのも当然のことだとわかる。

 世界の力の根幹をなすというマナだけに、下手に扱えば世界自体がどうなるのか分からないのだから。

 その理由から実技についてもアルさんかガイアが傍にいる時以外には、訓練すらも駄目だというお達しを貰ってしまった。

 納得できるだけの理由もきちんと教えてもらっているだけけに、反論することなく素直に言うことを守って訓練を続けていた。

 そもそも地脈の中央に行けばアルさんかガイアがいるので、訓練ができなかったこと自体が無かったことも大きいだろう。

 そんなことをしながら日々過ごしているうちに、アルさんからついにラッシュが『壁』を越えることができたという連絡を貰うことになった。

 

 アルさんからの連絡を貰ったその日の夕方、早速とばかりに広場にある温泉施設に顔を出すと当然のようにラッシュが気持ちよさそうに湯船に漬かっていた。

「――やっぱりここにいたね」

「それはな。ようやっと壁を越えることができたんだ。訓練の時以外は、しばらくここでゆっくりするつもりだぞ」

「それが良いと思うよ。ラッシュほどになれば、ダンジョンの最奥まで攻め込まれるなんてこともないだろうしね」

「それはお前も同じだろう?」

「確かにね。ただ俺の場合は立場が微妙に違うけれど。……世界樹が倒されたらどうなるんだろうか」

「さてなあ。基本的には他のプレイヤーと同じように、何も変わらず周回することになると思うけれどな。まあ、そんなことは起こらないだろうから考えるだけ無駄だぞ」

「まあねえ。今の状況で世界樹のあるところまで来られると、逆に驚くよ」

 第一世代の眷属でさえ倒す相手がいるかどうか疑問なのに、世界樹自体を倒すことができる存在がいるとは思えない。

 

「世界樹のことはいいとして、ラッシュはどこまで話を聞いた?」

「どこまでといってもまだ壁を越えたばかりだからなあ。これからのことと掲示板関係の話を聞いたくらいで終わったな」

「最初の内はそんなものか。確かにあまり素の状態で居続けるのは駄目っぽいからねえ」

「地脈に入ったばかりの時と同じってことか」

「だね。まずはそこの訓練からになると思うけれど、座学はここでも出来るから最初はそっちに重点が置かれるんじゃないかな」

「なるほどな。だが、そんなことを話しても大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思うよ。広場での会話の制限は、こっちが話せない、話さないんじゃなくて、聞くことができないようにフィルターがかかっているみたいだから」

「それはまた。無駄に高性能……いや。それだけ重要な話ってことか」

「だね。下手に扱うと世界そのものが潰れかねない……らしいからね。俺もまだそんなところまでは到達していないけれど」


 俺のその言葉にラッシュは「うーん」とうなっていた。

 マナが使えない今の状態でも下手なことをすれば町一つどころか半径何十キロという単位で被害を出すことができる実力があるのだが、それでも世界そのものに影響を与えると言われて実感が沸かないのだろう。

 その気持ちはよくわかるだけに、ラッシュの疑問はそのままにしておいた。

 そんなラッシュも、教師役についた運営から話を聞けば納得することができるはずだ。

 

「あの人からさわりの話を聞いた時も思ったが、運営がプレイヤーを星か世界の管理者にさせようとしているという話は本当だったっぽいな」

「ああ。運営はプレイヤーを神の一柱として育てているとかいう話だっけ? 聞いた時にはまさかと思っていたけれど、ここまで来ればそれもあり得るかなと思えるよね」

「そんな面倒なことやるもんかと思ったりもしたが、結局乗せられているという……」

「ハハハ。運営の用意した『ルート』に乗ったら必然的にそうなるようになっていたのかな? 反発するプレイヤーもいないわけではないだろうけれどね」

「それは勿論いるだろうが、ここまであからさまにルートが用意されていると乗らないはずがないだろう?」

「そうかな? どこまで行っても運営に反発し続けるサーバーがあっても不思議はないと思うよ」

「それは……無いとは言い切れないな。うちらのサーバーは、キラの影響が大きすぎたからな」

「否定はしないけれど、それも最初の内だけだとおもうけれど?」

「その最初の内が大事なんだよ」


 確かに一応の『先駆者』として、掲示板に出没しては色々と助言なり提案なりをした覚えはある。

 それだけでサーバー全体の雰囲気が作られたと己惚れているつもりはないけれど、ある程度の影響を与えたという自覚はある。

 未だに掲示板が殺伐とした雰囲気にならずに活動が続いているのは、初期の頃の影響が続いているからだろう。

 もっともそのほうが自分たちに利益があると考えているプレイヤーが多いからということもあるのだろうが。

 

「一応サーバー内で繋がっているとはいえ、ほぼソロプレイだと思ったから情報を隠しても仕方ないと考えたからなんだけれどなあ……」

「まあな。とはいえ、最初の内は情報を隠しておこうと考えた奴もいると思うぞ? 少なくともショップ機能ができた時にはプレイヤー間での稼ぎの違いは出ただろうし……それも俺の時の『投資』騒ぎで無くなっただろうが」

「あれはなあ……。別に見せつけようという意図があったわけじゃないんだけれど」

「そうだろうな。それでいいんだよ。結果として変な取引をして稼ごうとするよりも、自前で稼いだ方がはるかに稼げると分かったんだから」

「そう考えると、サーバー間の掲示板ができると同じようなことが繰り返される可能性もあるってことかな」

「それはない……とは言い切れないところが何とも。ただそこはあまり心配しても仕方ないとも思うがな」

「その心は?」

「運営がどこまでの交流を考えているかはわからんが、掲示板だけだとあまり大きな影響を受けないだろうから。壁を越えることができたプレイヤーならその辺りのことは理解できるだろう」

「そういうことね。結局個人の匙加減次第ということだろうね」


 幸いにして今いるサーバーの中だけでは良い雰囲気が保たれながらここまでくることができた。

 ただそれがいつまでも続くことなのかは、プレイヤー全員が分からないと答えるだろう。

 何か些細なことがきっかけで人間関係が崩れていくなんてことはよくあることだから。

 それでも出来れば今の状態が続いてくれればいいなんて考えてしまうのは、自分の持っている利益を守りたいという欲から来るのかもしれない。

 

「今から起こるか分からない心配をしても仕方ないとして、俺は明日から始まる座学が憂鬱だな」

「ラッシュは体で覚え込むところがあるからなあ。でもそういうことも考慮して講師役が選ばれていると思うよ?」

「そうなのか? それなら有難い……いや、あの人が脳筋系だったらそれはそれで嫌だな」

「それはノーコメントで。運営さん相手に喧嘩を売るつもりはありません」

「ちょ、待て。それはずるくないか!?」


 珍しく落ち着きをなくしたラッシュを見て、思わず笑ってしまった。

 ここまでの会話だと規制に触れるところもなかったらしく、話が聞こえていたらしい周囲にいた別のプレイヤーもそれを見て笑っていた。

 公共の風呂場で話している内容なんて聞かれているのが当然だと考えて話しているので、聞かれていたこと自体は何の問題もない。

 ラッシュも笑っている周囲に「くおら」とか言っていたけれど、その程度だった。

 とにかくこれからは他サーバーとの交流が始まることはほぼ確実なので、どうなっていくのか慎重に見極めていきたいと考えている。




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m(__)m

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