(9)マナのお話(説明回・後編)

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 物理法則を足蹴にするような性質を持っているマナだが、基本的に直接的にできることは少ない。――というよりも出来ることはないといっても過言ではない。

 マナがエネルギーそのものだと考えると、エネルギーとして存在していてもそれを取り出して何かしらの動力として使わなければ意味がないということと同じだ。

 今いる世界の場合だと魔力に変換しないと世界に対して様々な『現象』を起こすことができないというべきか。

 マナから出来ている魂が生命のための器だとすると、魂そのものは物体に対して直接的な影響を与えることはなく何かを仲介して色々と働きかけているということも同じだそう。

 何とも抽象的でわかりにくいが、ざっくり言ってしまえばマナを使って直接何かをすることはできないと覚えておけばいいとアルさんからは言われている。

 マナから魔力に変換して魔法という現象を起こすことはできるが、わざわざ二段階の変換をするのは手間になるためそれだったら地脈から魔力を拝借したほうが手っ取り早いとのこと。

 逆にいえば、この世界においては地脈の中央にあるあの壁で作られている魔力が世界に対して大きな影響を及ぼしているともいえる。

 ちなみに世界樹を含めた『爵位持ち』によってマナから変換されている魔力の量は、全てを足しても壁には遠く及ばないとのことだ。

 

 ここでマナを使って世界に対して何も影響を与えることができないというのであれば、何のためにマナを行使する方法を覚えているのかという問題が出て来る。

 これに対してアルさんは、少し言葉を区切った上でこう返してきた。

「――そもそもマナを扱えなければ、世界を『知る』ことができませんから」

「世界を知る?」

 これまた曖昧な言い方だったので首を傾げたけれど、答えを知っているはずのアルさんは困ったような顔になっていた。

「なんと説明したほうがいいでしょうか……。魔法は世界を構成している物質(空間)に対して影響を与えることができますが、魔力は世界の根幹ではありません。それはあくまでもマナになります」

「……なるほど。それで世界を知る、ですか。世界を形作っている基礎エネルギーになっている大元であるマナのことを扱えないと、世界の根幹も知ることができないというわけですか」

「そうですね。おおよそその理解で間違いではありません」

 何とか伝わったと思ったのか、アルさんの表情がホッとしたものに変わった。

 

 マナが世界の根幹をなしていることは既に聞いた通り。

 だけれど世界に対して直接の影響を与えることはない。

 世界に対して影響を行使するためには、少なくともこの世界では魔力に変換する必要がある。

 さっくりまとめるとこんな感じになるだろう。

 

 ただここまで聞いた話ではたくさんの疑問が湧いて来る。

 そもそもマナが世界の根幹であるならば、世界を満たしている物質はどうやって作られているのか。

 マナが世界に対して直接の影響を与えないということは聞いた通りだけれど、そもそも世界を満たしている物体はどうやって作られているのか。

 単純だけれど真っ先に浮かんできた疑問に対する答えは、非常に簡単なものだった。

 

 マナが世界の根幹をなすというのは物体の『動き』に関するものであって、世界の構成要素の一つでしかないとのことだった。

 もっとも大地などを含めて世界などを作っている物質を結び付けている『力』もまたマナが無ければ発生しないので、世界の根幹という表現は間違っていない。

 マナは世界のすべてを作り出しているというわけではなく、世界を作るための元のエネルギーになっているというべきか。

 それらを突っ込んでいくと、アルさんでも理解できていない所にまでに踏み込むことになるらしい。

 

「――アルさんでも分からないことがあるのですね」

「勿論です。むしろすべての事柄を理解している存在などいないのではないでしょうか。あの上司を含めてです」

「それはまた。そんなことを言っても大丈夫なのですか?」

「構いませんよ。普段から『全知全能の神などいない』と公言されている方ですから」

「それはそれで問題があるような……いや、無いのかな?」

「あの方のことは気にされても仕方ないかと。本っ当にご自身の好きなように生きておられる方ですから」


 普段の苦労がにじみ出てくるような笑顔で言われてしまっては、それ以上上司のことに触れるのはためらわれてしまった。

 言葉通りに人間離れした美しさであるために、そんな視線を向けられると背中がぞわっとしてしまう。

 

 とにかくマナ――というよりも『世界』のことに関しては、運営の管理者でもまだまだ分かっていないということがわかった。

 とはいえ運営が多くの世界を管理していることは分かっていて、さらに世界自体も自分たちで作り出しているのではないかという予想もされていた。

 もしその予想が正しいのであれば、今聞いた話以上のことも知っているということになるはず。

 だが今はそこまで突っ込んだ話を聞いたとしても理解できる気がしないし、何よりもそこまでの説明を頭の中に詰め込める気がしなかったので、とりあえずここまでの話で今は一区切りとなった。

 

 これまでの話を座学で学びつつ、マナ操作についてもしっかりと進めて行った。

 とはいえマナは魔力のように操作できるようになったとしても、座学で学んだように特に何か変わったことが出来るわけではない。

 ただし魔力珠を作った時のように、マナを利用したりマナを使って作れるものは沢山あるらしいので、魔力操作と同じようにマナの操作は基本的かつ重要な技術だそうだ。

 マナを使って何を作ることができるかは、また追々教えていくことになると濁されてしまった。

 

 本当ならもっと突っ込むべきだろうとは思ったのだけれど、魂なんかも作れますよとにっこりと微笑まれてしまうとそれ以上を聞くことができなかった。

 魂など簡単に触れて良い存在ではないと分かっているので、まずは基礎をしっかりと学ぶという方針に自分自身が納得したということもある。

 その話を聞いた時には、なるほどアルさんがわざわざ直接出てきて話をするだけのことはあると思ってしまった。

 世界の根幹をなす存在であるために、作ることができるものも想像以上のものがあるのではないだろうか。

 

 そんなことに怯えつつ訓練を進めていたある日、様子を見ていたアルさんがふと思い出したようにこんなことを言ってきた。

「そういえば、お友達の方が明日にでも壁を越えることができそうですよ」

「お友達――ってラッシュのことですか。そろそろとは聞いていましたが、ついにという感じでしょうか」

「どうでしょう。キラさんから話を聞いてもこれまでのやり方を変えなかったのはさすがと思いましたが、少し予想よりも遅くなりましたね。もっとも一日程度の違いなので誤差といえば誤差ですが」

「そうなんですか? どちらにしても待ちに待ったという感じでしょうか。ようやくあの掲示板が役に立ちますね」

「ラッシュさんと話をするのであれば、広場を使ったほうがいいのでしょうけれど」

「運営の一人がそんなことを言ってもいいのですか?」

「構いませんよ。いずれ使われることは確定しているのですから、無駄にはなりません」

 笑いながら返してきたアルさんを見ながら、確かにそれはそうだと笑いながら頷いた。

 

 たとえ文字だけであっても違うサーバー間のやり取りがどれだけ大変な事なのかは推測することしかできないけれど、今の自分自身では想像もできない技術が使われていることはわかる。

 このままマナのことを学び続けていけば、いずれはそんな技術の一端に触れることができるのだろうか――そんなことを考えてしまった。




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m(__)m

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