(8)マナのお話(説明回・前編)
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クランのごたごたを片付けたあとは、たまにアンネリたちとダンジョン探索をしながらマナの研究を進めて行った。
マナに関しては、眷属を除けば周りの誰にも話していない。
マナというモノがあるということくらいは話しているけれど、それ以外のことについては秘密にしている状態だった。
理由は幾つかあるが、そもそも地脈の力を利用できるようにならない限りは知ったところであまり意味がないので、知らせる必要がないと考えている。
地脈の力を利用するためには魔力操作が重要になるので、アンネリやアイリはそこを目指して訓練している最中だ。
もし地脈の力が使えるようになれば、恐らく人族初の快挙となるはずだ。
俺自身に関しては、プレイヤーというチート的な立場なので数には入れていない。
そもそも一周目の力を丸々引き継いでいるようなものなので、この地で生きている人族と比べるのは間違っていると思う。
アンネリたちのことも含めてクラン全体のことを見つつ、俺自身はマナに対する知識を深めていった。
勿論、知識を深めるというのにはマナの扱いに慣れていくということも含まれている。
主に教師役となったのはガイア……のつもりだったのだけれど、何故か気付けば案内人ことアルさんが教えてくれている。
ただしずっと机にかじりついて勉強しているというわけではなく、質問があればそれに答えるといった感じの対応になっている。
マナについては扱いを間違えるとこの世界ごと消える可能性もあるらしく、しっかりとした教師役が必要ということでこれから先プレイヤーがマナに触れるたびに運営の誰かが一人一人つくことになるそうだ。
俺の場合は最初にマナに触れたプレイヤーということで、一番確実なアルさんが担当になったとのこと。
最初の内は運営の中でも位(?)の高い人たちが教師役となってノウハウを貯めていき、あとはそのやり方に習ってそれぞれの担当を決めていくようだ。
それだけマナという存在が重要だということは分かるのだけれど、先駆者がなるべく人身御供というべきか一番に自分がなってしまったのは良かったのか悪かったのかは判断が難しいところ。付け加えておくが、アルさんに不満があるというわけではない。
マナの取り扱いについては、まず魔力操作と同じようにマナ操作(のようなもの)から覚えることから始まった。
プレイヤーとしてのスタートがそうだったのだけれど、この世界では魔力操作が重視されていると常々感じていた。
それはマナの場合でも同じで、しっかりと操作ができるようにならないと変な事故が起こるそうだ。
先に挙げた『世界ごと消える』というのはかなり大げさな表現ではあるが、本当にそんな事故が起こる可能性もわずかながらあるのは間違いないとのことだった。
そんなマナ操作の訓練と同時に、座学ともいえる知識の伝達も行われることになった。
その最初の講義の時に真っ先に言われたことが、『元の世界の物理学的な観点からマナを考えるのは止めて欲しい』ということだった。
魔法なんてものがあるのだから当然だろうと思ったのだけれど、その先の説明を聞いて何故それを最初に言ってきたのかすぐに納得できた。
一言で言ってしまうとマナの世界では物理学では当たり前である『エネルギー保存の法則』というものが成り立たないそうだ。
最初にきいた時には『なんじゃそら』と思ってしまったのだが、マナの場合は無から有が生まれることがあるらしい。
要するに、何もなかったはずの場所にマナが生まれて来ることがあるということだ。
物理学でいえばあり得ないの一言で片づけられてしまう事象が、マナの世界では当たり前のことのように起こっているとのこと。
何故そんなことがと聞いても、それが当たり前の世界なので聞いても意味がない。
科学という当たり前のものに触れて生きて来た身として若干混乱してしまった俺に、アルさんは具体的に一つの例を挙げて話をしてくれた。
今いる世界では、魂の存在がごく当たり前のように認めれている。
その魂が一つの生命としてこの世界に誕生した時のマナの総量は一定のまま一つの生を終えるだけではなく、増加することがある。
その増加する実例として分かりやすいのが、眷属を含めた魔物たちに起こる進化だという。
進化というのは単に強さや姿かたちが変わるのではなく、魂(又はマナ)の総量も増加しているそうだ。
その増加分は、一般的に言われている他の魔物を倒した時や魔石から得た魔力で増えているわけではないらしい。
そもそも増えた魔力を入れるための器が魂(厳密には違うのだけれど、この場合は一括りにする)であるので、その魂を大きくするためにマナの総量が増えているとのこと。
魔力を増やすためにそもそもの器が大きくなっていないといけないのだが、その器を大きくするためのマナは外部から取り込んでいるわけではなく、まさしく無から有で新たに生み出されている。
取り込んだ魔力分の器を大きくするために体の作りから能力まで普通ではありえないほどの能力アップが起こり、結果として魔力が増えるということになるそうだ。
その話を聞いてふと思いだしたのは、運営がプレイヤーだけではなく世界全体の能力上昇を望んでいるのではないかという掲示板内で語られていた推測の一つだった。
世界全体で進化だったり能力アップが起こってマナの総量が増えるのであれば、たとえ一人一人の増加分が微量であっても全体で見ればかなり増えることになる。
運営の目的の一つが『世界全体のマナの量を増やす』ということであれば、プレイヤーに対して世界全体の発展を促している理由も納得ができる。
そのことを思い出してアルさんに聞いてみると、明確な答えは得られなかったけれど優しい微笑みが返ってきたので、恐らく間違っていないのだと思われる。
さらに何故マナの量を増やすことが目的なのかについては、そこまで深く考えなくても答えはすぐにたどり着いた。
マナがエネルギーそのものだと考えれば、単純に使えるエネルギーが増えるということになるのだからメリットは十分にあるだろう。
そもそも運営はショップなんかを通してプレイヤーから魔力を得たりしているので、それと合わせて考えれば魔力を得ているのではなくマナを得ているのではないかということもわかる。
何のためにマナ(エネルギー)を得ているのかまでは分からないけれど……いや、もしかすると元の世界で何のために電気の生産量を増やしているのかと問うくらいの愚問なのかもしれない。
いずれにしても魔物の進化だったり人族の能力値の上昇がマナの増加に繋がるのであれば、全体的に強くするというこれまでの目的は間違っていなかったということになる。
プレイヤーたちがしていた予測は大きくは外れていなかったということにも繋がり、これまでやってきたことが無駄にならずにホッと一安心といったところだろうか。
増やしたマナをどうやって使うのか、または何のために使うのかなど、まだまだ不明なところは沢山ある。
それでもこれまで不明だったことの一つの答えが得られたのは、嬉しい限りだ。
ちなみにアルさんから聞いたマナに関するこれらの話は口止めがされている。
座学の最初に聞いたように、人伝いに話を聞いて間違った理解の元マナの運用をされると事故に繋がりかねないから。
よくよく話を聞けば納得できる理由だけに、俺としても不用意に話をするつもりはない。
もっとも広場や掲示板では以前と同じように規制がかかっていて話せないようになっているそうだが。
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