(7)専門職

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 結局騒ぎを起こしたメンバーの内、一パーティ(六人)プラス四名がクランを抜けることになった。

 実際に抜けるときに怪訝な表情をされたりしたのは、引き留めるのが常識だと考えているからだろう。

 こちらとしては今後も頑張ってという意味合いで送ったのだけれど、それも一部リーダーには反感をかっている可能性もある。

 そんなことは知ったことではないので、仲間内でどうにか抑えてくれればそれで構わない。

 話し合いの時に同席していた魔法使いは、俺の魔力の多さに気付いていたようなので馬鹿なことを仕掛けて来ることはない……はず。

 もっともそうなったらそうなったでギルドに突き出すなりすればいいだけなので、あまり大きな問題にはならないだろう。

 これで彼らに裏があるとかいうのであればそこまで手を伸ばすのだけれど、調査の結果は白だったのでこれで今回の騒ぎは終わりとなった。

 騒ぎを起こした彼らがクランを抜けたことは残りのメンバーにも少なからず影響を与えている……かと思えば、ほとんど普段と変わっていないところが面白いと思えた。

 

「――で、結局ソロの何人かとサポーターの何人かが残ったということろかな?」

「そうだな。残った奴らはしばらく居づらくなるだろうが……」

「変なしこりとかは残さないようにしてね。これで残ったメンバーにいじめとかあると面倒なことになるから」

「ああ。わかっているさ。クラン内にギスギスした空気を作り出すわけにはいかないからな」

「クラン全体でダンジョンを攻略しているときに、そういった空気が残っていると最悪の事態になりかねないからねえ。当人たちも分かっているだろうけれど」

「いざという時に、普段の行動の影響は出やすいからな。そこはしっかりと見張っておくさ」

「お願いね。ラウのことだから言わなくても分かっていると思うけれど」


 この町の孤児出身だったラウは、冒険者になる前にサポーターを経験している。

 その時に大人からの中傷やらを受けていた過去があるので、仲間から外されることの怖さはよくわかっているはずだ。

 ついでにいえば、その逆も。

 ダンジョンという非日常の戦いの場でその時の空気が持ち込まれるとどうなるかは、肌で感じて理解している。

 たとえ一部であっても全体に影響を与えることになるのがダンジョン攻略なので、芽が出る前に潰しておく必要がある。

 それはラウだけではなくクランメンバーも分かっているはずなので、実際にいじめや仲間外れが起こるかは未知数ではあるのだけれど。

 

「――済まなかったな、団長。本当なら俺が解決しなきゃならなかったんだが……」

「うん? ああ、気にしない気にしない。今回の場合は仕方ないよ。というか、そう思ったからさっさと来たんだし」

「それならいいが……」

「気にするなといっても、気にするかな。それなら一応言っておくけれど、こっちに来たのは別にこれが目的じゃないからね」

「……は?」

「いや。別に目的があって、例の騒ぎの解決はついで……というと語弊があるけれど、目的の一つでしかないから」

「そうなのか? 確かにそれなら多少は気が休まるが」

「それはよかった。そもそも転移装置を置いたのだって、あまりクランのことを放置しすぎるのも問題だってわかっていたからね」


 クランを作ったばかりの時ならともかく、今は転移装置があるので比較的自由に顔を見せることができる。

 転移装置がクラン拠点に置かれていることはこの国の上層部には周知の事実となっているので、今更そのことに文句をつけて来ることはないはずだ。

 関税やら何やらの難しい問題については、利用者が少ないということで棚上げ状態になっているけれど、あまり気にしないことにしている。

 正式に国から文句を言ってくることがあれば話し合いの場を設けてもいいとは思うが、今のところそんな打診もない。

 使っているのが少人数なのは国側も把握しているはずなので、細かいことに目くじらを立てても仕方ないと考えても仕方ないと考えているのだろう。多分。

 

「――転移装置のことはいいとして、ラウたちはAランクへの昇格を打診されているんだよね? どうするかを決めた?」

「何故それを……って、それをお前に言っても意味がないか」

「普通に事務さんから手に入れた情報だから特別になにかしたということはないけれどね」

「そっち経由だったか。それはいいとして、ランクアップは……正直悩んでいるな」

「そうなの? てっきり喜んでなると思っていたんだけれど?」

「そうか? Aランクになるといいことも沢山あるが、正直煩わしいことも増えるからなあ。貴族関係とか」

 冒険者ギルドのBランクとAランクの違いは、収入云々が段違いということが上げられるが、それは貴族からの直接の依頼が増えるからということも意味している。

「あー。それか。確かに貴族系の依頼を受けるとなると、この町から離れることも多くなりそうだね。転移装置を使ってヒノモトに行かせている自分がいうのもなんだけれど」

「あれはいつでも戻ってくることができるからな。だが依頼となると違うだろう」


 話を聞けば、ラウたちがランクアップに躊躇している理由がよくわかった。

 確かにヘディンで活動していることを主にしている彼らからすれば、ランクを上げることによって長い期間遠くに行かなければならないというのは悩みどころだろう。

 

「いっそのことヘディンダンジョン専門のAランクでも目指してみれば?」

「確かにそれはあるが、今打診されているのは全部を含めてのランクアップなんだよな」

「ギルドからしたら優秀な人材は出来る限り確保しておきたいからだろうねえ」

「まあな。仲間たちも町から離れることが多くなるのは、と渋っているからとりあえずはそれを言って断ってみた」

「ああ。もう一度は話をしたのか。だとしたらヘディンダンジョン専門もあり得るかな?」

「どうだろうな。そうなったら喜んで受けるが、そこまで上手く話が進むかは……ギルド次第だろうな」


 今のところギルドから新たな打診は無いそうで、未だに内部で話し合いが続いているのかランクアップの打診は諦めたのかのどちらかだろう。

 ダンジョン専門でのランクアップの方が簡単なように思えるけれど、ギルド内でも色々と複雑な事情があるようだ。

 恐らく全ての依頼をこなせるオールマイティな冒険者を増やした方がギルドの利益になるからだとは思うが。

 今いるAランクのバランスなんかを見て、専門ランクを増やすかどうかを検討しているのだろう。

 

「――正直なところダンジョン専門のAランクになったところで、報酬が変わるということはない気がするんだがな」

「ああ~。取って来る素材はあまり変わらないからねえ。ただ指定素材の入手とかだと大分色がつくことになるんじゃない?」

「それは間違いないだろうが、そこまで都合のいい依頼がポンポンと出て来るとは思えないな」

「確かにね。そうなるとなってもならなくてもあまり変わらないってところかな」


 指定された素材をダンジョン内から取って来るという依頼はそれなりの数ギルドに張り出されているが、希少価値が高くなればなるほどその手の依頼は指名依頼ということになる。

 それは信頼されている相手に頼むほうが安心できるからというごく真っ当な理由によるもので、そこまでいくとギルドを通さずに個人的に頼むということもあるはずだ。

 基本的にはギルドを通して依頼を受けることがほとんどなのだけれど、個人間のやり取りで依頼を受ける冒険者もいないわけではない。

 ギルドを通さない依頼は『それぞれの責任の範囲内で』という条件がつくことになるのだけれど、長い間やり取りをしている場合はギルドを通さないということもあり得る。

 

 その辺りのことは特に規定があるわけではないので、ギルド側も特に何かを言うことはない。

 ギルドを通すと何かのトラブルが発生した場合、間にギルドが入ってくれるので冒険者が一々やり取りをしなくても済むというメリットがある。

 大きなクランになるとその手のことを専門で対応する人を雇っているところもあるくらいだったりする。

 もっとも『大樹への集い』ではそこまでせずに、素直にギルドを通して依頼を受けることにしている。




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m(__)m

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