(6)パーティメンバー

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 今回の騒動を起こしているパーティと対面する前に、クランの事務を担当している眷属からの報告に目を通した。

 それによるとこの件は今までのような国などの大きな組織をバックにした陰謀のようなことは何もなく、ただ単に成長著しいクランを狙った冒険者による計画らしい。

 給与について文句を言いだしてから仲間が集まるまでに随分とスムーズに事が運んでいるという気がしたけれど、もともと計画を立てていたのであれば納得できる。

 クランの乗っ取りまで狙ったのかどうかは分からないが、それなりの人数は集められているので効果はある……と考えているのだろう。

 もっともこちらとしてはカールやラウなどの初期メンバーが抜けられると痛手にはなると考えているが、そうでなければ全く問題ない。

 むしろカールやラウが抜けるほどの事態にならなければ、今までどおり継続して続けるつもりでいる。

 そもそもこのクランを立ち上げた目的は、町にいる孤児たちがサポーターとして生きていけるようにするということと、サポーターの地位向上を目指しているので規模自体にはこだわっていない。

 最初の頃からいるメンバーはそのことを理解したうえで入っているので、今回の件はむしろ呆れて見守っているという状態になっているようだ。

 

 そんな情報を仕入れたところで件のパーティと対面と相成ったわけだが、なんというか、当の本人たちは完全にこちらを舐め切ってかかっていることがすぐにわかった。

 彼らからすればこの数か月の間、ほとんど顔を見せることのないトップという印象しかないだろうからそうなるのも仕方ないとは思う。

 とはいえ仮にも自分たちが入っている組織のトップにそんな態度をとって、通用すると考えていること自体が凄いと思う。

 敢えてそう見せているということもあり得るけれど、見ている限りではどうやらこちらが素だということが分かるような視線だった。

 

「――あんたがうちのトップか?」

「ああ、そうだけれど?」

「随分となよなよしいな」

「それは仕方ない。俺は前衛ではなく後衛の魔法使いだからね」


 俺がそう言うと内情を知っているラウが『お前のどこが後衛だ』という視線で見て来たけれど、それは軽く無視をした。

 肝心のパーティリーダーはといえば、ラウのそんな視線のことには気付いていないのか、こちらを見たまま分と鼻を鳴らしていた。

 挑発したつもりが軽く受け流されてしまってつまらないという顔をしている。

 それでも普段からダンジョンに潜っているだけあってさすがに後衛の重要さは理解しているのか、それ自体を馬鹿にしてくるようなことはなかった。

 

 ここでふと視線をずらすとリーダーの横に座っている魔法職らしき男と目が合った。

 その男は一周だけ不思議そうな視線を浮かべていたが、すぐに両目を見開いていた。

 それを見てすぐに、俺自身の中で渦巻いている魔力のことに気が付いたらしい。

 これまでの訓練の甲斐があったのか、魔力操作が拙い前衛の面々には見抜かれていないがその男はすぐに気が付いたようだった。

 

「まあ、それはいい。普段引っ込んでいるあんたが出て来たということは、こちらの要求はのむということでいいな?」

「何故、そうなるのかな。ラウからも聞いていると思うけれど、クランとしては今の給与体系を変えるつもりはないよ。それをはっきりと断言するつもりでここに来たんだ」

「へえ。随分と馬鹿にされたもんだな。このままだと今のメンバーの大部分が抜けることになると思うが?」

「別に構わないけれど? 抜けたメンバーで新しいクランを作るなりしてやるというなら好きにすればいいと思うよ。こっちはそれについてあーだこーだと文句を言うつもりもない」

「へえ。本当にそれでいいんだな?」

「だから構わないって。ラウはこれまでの付き合いがあるから言えなかったみたいだけれど、クランとしては別に抜ける者は好きにすればいいというスタンスだからね」

「随分と軽く見られたもんだな」

「それはないよ。実際、君らの実績から考えれば、クランを抜けたとしてもかなり稼げるだろうしね」

「それが分かっているなら何故――」


 こちらの言い分を聞いてくれないのかと不満そうな顔を浮かべるリーダーだったが、それに対する答えは変わらない。

 いかにパーティとしての能力が優れていたとしても、目の前にいるパーティだけ特別扱いするつもりは全くない。

 そもそも実力順に特別扱いをするならカールやラウのパーティが上に来る。

 カールやラウはクランを運営することの意味をしっかりと理解できているので、給与体系を変えろなんてことを言って来ることはない。

 

「――そういうわけだからこれからも分配率を変えるつもりはないよ。不満ならさっきも言ったとおりにクランを抜けて自分たちで稼げばいい」

「ほ、本当にいいのか!? 十人以上が抜けるんだぞ!?」

「だから構わないって。そもそもこのクランはスタートしたばかりだからね。数年前の状態に戻る……いや、違うか。皆も成長しているから以前よりもいい状態で運営できると思うよ」

「クッ……!!」


 どうということはないという顔で話すと、リーダーは悔しそうな顔でこちらを睨みつけて来た。

 さらにさりげなくリーダーの右手が腰にぶら下がっている剣の柄にのび……ようとしたところで、隣にいた男の魔法使いがその手を止めた。

「――止めておけ」

「何故止める!?」

「こんなことで暴力沙汰になったらギルドから何を言われるかわからんぞ。それに、どうあがいてもこの人には勝てん」

「何を言っているんだ? こんな奴に俺が負けると?」

「ああ。負けるな。もっといえば、この場にいる全員で立ち向かっても勝てないだろう。お前の不意打ちなんてとっくに見抜かれているよ」

 その言葉にリーダーは「まさか、そんな」と呟いていたが、仲間のことは信頼しているらしくそれ以上は何もしてこなかった。

 どうやらこの魔法使いが、パーティの戦略なんかを担っているのだと分かった。

 

 リーダーは魔法使いに抑えられて動いていないけれど、まだ睨みつけている。

 さすがにそれは居心地が悪すぎるので、魔法使いへと問いかけた。

「それで、これからどうする? うちにいてもいいけれど……正直居心地は良くないと思うよ?」

「そうだろうな。少し考えてはみるが、俺たちはたぶん抜けることになるだろう。――他の奴らは分からないが」

「居心地が悪くなるのは同じだろうから、しっかりと責任を持って面倒をみたらどうかな。とういうのは余計なお世話かな?」

「どうだろうな。それはあいつら次第だろう。俺たちについて来るなら拒まないさ。とりあえず最初の内は」

「それならいいんじゃないかな。それ以上は冒険者らしく、自己責任の範疇だろうしね」

 俺のその言葉に、魔法使いの男はほっと安心した表情になっていた。

 どうやら自分たちに同調して動いていたメンバーを無理やりにでも引き取れと言われると考えていたらしい。

 

 どうにもリーダーの態度と彼らのやっていることがチグハグに見えなくもないが、裏にこの魔法使いがいてどうにかバランスを保っていると考えれば何となく納得ができる。

 このままクランから抜け出たとしても普通に冒険者としてやっていけるだけの実力はあるので、いきなり野垂れ死にしたり野盗に堕ちたりするなんてことはないと思う。

 少なくとも目の前にいる魔法使いがいる限りは、おかしなことにならないはずである。

 そんなことを考えながら、彼らが部屋から出て行くのをラウと一緒に見送ることになるのであった。




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m(__)m

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