(5)騒動の中身

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 マクネアー家の当主であるフィリップに挨拶をしてからヘディンへと拠点を移動した。

 俺自身はほとんどカーライルに滞在していなかったような気もしなくもないが、来ようと思えばいつでも来ることができるので大した問題ではない……と思う。

 パーティメンバーたちはしっかりとダンジョンの探索ができたようなので、ここまで来た意味は十分にあっただろう。

 それにトワを含めた年少(?)組にとっては、色々な経験を積むという意味でも役に立っているはずだ。

 というよりもほとんど関わることがなかった俺を除いて、それぞれが良い経験を積めたと喜んでいた。

 それからフィリップへの挨拶もそうだが、スイへの挨拶も忘れずにしておいた。

 カーライルにいるときはべったりだったので離れることを伝える時にはごねられると考えていたのだけれど、意外にあっさりと納得してくれていた。

 スイは公爵級の地位にいるのでもしかすると支配領域から出ることができるようになるかもと伝えたら、張り切って訓練すると言っていた。

 

 各方面への挨拶を終えてヘディンへと戻った俺たちは、以前の時のようにクランハウスの庭に自分たちの拠点を用意した。

 これからはまたしばらくヘディンに滞在する予定にしたので、本格的な拠点として利用していくつもりでいる。

 今起こっている問題が長引くことになるかは分からないけれど、折角なので本格的にダンジョンの攻略をしたいという希望があったので長期間の滞在を決めた。

 子供たちもそうだけれどアンネリたちもかなり実力が上がっているのでランクアップも勧めてみたが、今以上のランクアップはあまり興味がないようで適当に流されてしまった。

 

 ランクに関しては自分も人のことは言えないので、特に深く突っ込むことはしていない。

 個人ランクがBになっていれば冒険者として大抵のことは出来るようになるので、あまり上げる必要性を感じないということもある。

 逆にAランクになれば貴族階級からの依頼も増えて来るということで、敢えてそのままにしているという冒険者もいるくらいだ。

 アイリはともかく、アンネリに関しては過去のことがあるのでAランクになりたくないという気持ちもあるのかもしれない。

 

 拠点の用意が終わってある程度落ち着いたあとは、アンネリとアイリ、それからハロルドを伴ってクランハウスの会議室的な部屋に向かった。

 そこでは『夜狼』のラウとラナが待っていた。

 余談ではあるが『朝霧の梟』の面々はヒノモトに出向いているので、今回の話し合いに参加することはない。

「わざわざ済まないな」

 立ち上がりながらそう言ってきたラウに向かって、首を左右に振り返した。

 

「気にしなくてもいいよ。例の件のこともあるのは確かだけれど、そろそろ移ってもいいかなと考えていたからね」

「そうか。それならいいんだが……本来ならカールと二人でどうにかできたかもしれないんだがな」

「そう考えるとヒノモトへの遠征はちょっと考えたほうがいいのかな?」

「いや。それこそ人を育てるために必要なことだろう。今回のことは俺が力不足だったということだけだ」

「ラウだけじゃなくて、あたしたちもちょっと甘く見ていたからなあ……。気付いた時には遅すぎたよ」

 

 ラウと共にラナまで反省するのを見て、やはり来て良かったと思えた。

 二人ともまだ精神的にどうこうなるところまでは来ていないようだけれど、もう少し追い込まれるとどうなっていたか分からないように見える。

 

 今回クランで起こっている問題というのは、一言で言ってしまうとクランメンバーによる不満の爆発といったところだろうか。

 もっと細かく言うと、ダンジョン探索している冒険者組が報酬アップを求めているということになる。

 そもそもクランに入る時にはしっかりとその辺りの説明をしているはずなのに、今になって文句を言っているという。

 一パーティだけだったり個人で文句を言ってきているのであれば流して終わりでいいのだけれど、今回は集団になって不満を申し出ているのでラウたちも困惑しているということだ。

 

 クラン『大樹への集い』の給与は、個人なりパーティなりでギルドから依頼を受けた場合はそっくりそのままそれぞれのものになる。

 これはどこのクランでも同じような扱いになっているので、不満を言っているメンバーたちもこれについては何も言っていないそうだ。

 問題なのはクラン全体として受けた依頼なり素材報酬の扱いになる。

『大樹への集い』の設立当初からの目的の一つにサポーターの地位向上があるので、その分戦闘職の報酬は他のクランよりも低めに見積もられている。

 それでも構わないという約束を取り付けてからクランに入ってもらっているのだけれど、そこについて集団になって文句を言ってきているそうだ。

 

 早い話が前の世界でいうところの労働組合的な動きをしているわけだが、残念ながら今の給与体系を変えるつもりは全くない。

 クランに入る時にそれで構わないと約束して入ってもらっているので、今更文句を言われてもというところがクラン運営側の言い分だ。

 元の世界だと労働者側の言い分をある程度聞いて給与アップということもありえるのだけれど、そもそもの事情が違っているので参考にはならないと考えている。

 

「それじゃあ、とりあえず問題のメンバーに会ってみようか」

「済まないな。本来なら俺が対処すべきなんだが……」

「いいのいいの。元々ラウが目をかけていたこともあって、言い出しづらいというのもあるんだよね?」

「やっぱりそれも分かっていたか。こういうことがあるからこそ、カールがいた方が良かったんだが……いや、ヒノモトへの出張をなくせと言っているんじゃないぞ? むしろあれは必要だと思っているからな」

「分かっているよ。だからこそここまで来たということもあるからね」

「本当に、済まないな」


 問題を起こしているパーティは、もともとラウのパーティメンバーが目をかけていたということもあって、中々注意がしづらかったという側面もある。

 本来であれば気付いた時点で注意なりをすればよかったのだろうが、相手のパーティの方が一枚上手だったらしく、気付けばパーティメンバー以外のクランメンバーも巻き込んでの騒動になりかけているといったところだ。

 

「今騒動に加わっているメンバーは二十人くらいかな?」

「十五、六くらいだが、さらに増える可能性もありそうだな。それだけ不満がたまっているということかもしれないな」

「逆にそれだけで収まっている方が驚きだけれどね。今だと総数で八十人くらい?」

「サポーターも入れるとあと十人くらいは増えそうだが、そもそもサポーターにはあまり受けが良くないからな」

「自分たちの給料がどこから得ているのか理解しているということかな」

「だな。子供たちだけならともかく、大人の引退組から話を聞いたりしているんだろうな」

「なるほどね」


『大樹への集い』に所属しているサポーターは、冒険者登録ができない子供だけではなく冒険者を引退した大人組もいる。

 そうした大人組の中にはクランに所属していた者たちもいるので、そこからサポーターに対する給与が恵まれているということを聞いているのだろう。

 それを知っているからこそ、今回の騒動に賛同しているサポーターは少ないということだ。

 逆にいえば加わっているサポーター(特に子供)は騙されている可能性もあるのだけれど、それを含めて今後のことを考えなければならない。

 もっとも取るべく対応は一つしかないと最初から考えているので、あまり悩む必要はない。

 それを伝えるべく、今回の騒動を中心になって起こしているクランメンバーに集まってもらうことになった。




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m(__)m

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