(3)南の島

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 オセアニアと南極大陸の領域拡張に関しては、その日の夜に集まった眷属たちに話をして終わった。

 ここ最近は大規模な拡張が行われていないけれど、少なくとも第一世代の眷属たちにとっては慣れたことなので戸惑う声も上がらなかった。

 拡張行為そのものもそうだが、これから拡張を行う領域についてはしっかりと調査が終わっていてどの魔物が領域を支配しているかもわかっているので変に慌てる必要がないということもある。

 はっきり言ってしまえば、第一世代の眷属どころか第二世代、第三世代の眷属も出る必要がないかも知れないくらいだ。

 敢えてその程度の領域主で収まるようにコントロールしていたということもあるのだけれど。

 その辺りのことは眷属たちの方が心得ているので、こちらから口を出すつもりはない。

「よろしく」の一言を言えばあとは任せてしまえばいいだけなので、楽といえば楽なのだけれど物足りないという気持ちも若干ないわけではない。

 それがただの我がままであること自体はよくわかっているのだが、もう少しくらいはやり取りがあってもいいのではと思ってしまうのはまだどこかにこの世界がゲームだという意識が残っているからだろうか。

 

 とにかく領域拡張に関しては、眷属に任せてしまって構わない。

 むしろ変に口出しをした方が、おかしなことになってしまいかねない。

 それくらいにユグホウラの眷属たちは領域拡張……というか魔物とのやり取りに慣れている。

 眷属自体が魔物なので当然といえば当然なのかもしれないけれど。

 

 ということで俺は指示だけ出して、あとはお任せ! ――ということにはならなかった。

 そもそも領域拡張の指示を出したのは、ユグホウラとして益になりそうなことをしようと考えたからだ。

 それを考えるために、駄々洩れているという魔力を押さえる訓練をしながら転移装置を使ってオセアニアにある既に領域化済みのとある島を訪ねた。

「ここに常駐しているのは、地域特化した眷属?」

「ええ。そうなりますね。我々ほどになるとあまり気候の影響は受けませんが、やはり世代を重ねるごとに力は落ちますから」

「うーん。そこは今も変わっていないか。魔物の性質を考えると当たり前なんだけれどね」

「そうですね」

 ラックと話をしながら周囲に集まっている眷属たちを見回した。

 この辺りの領域を維持管理している眷属は主に第三世代以降の眷属なので、ラックたちほどには環境に融通が効くほど進化できているわけではなかったりする。

 

 ホームから遠く離れた領域にいる眷属が環境に適応した魔物になっているのは、何よりも魔物を生み出すコストが低く済むからだ。

 広い領地を維持管理するにはそれだけの数の眷属が必要になるのは言うまでもなく、出現する魔物と相対するために強さも必要になって来る。

 その二つを両立するために、敢えて環境適応した魔物を生み出してコストを抑えて数を揃えている。

 環境に適応した魔物を生み出すのは、その地で取れる魔石を使えばいいのでそれもまたコストを抑える要因の一つに数えられる。

 

 ちなみに眷属の寿命は、世代を重ねるごとに短くなっていく。

 これは眷属として世界樹から受けて(授けられて?)いる魔力の量が関係している――というのがドールたちの研究により判明している。

 世界樹からより多くの魔力を得ることができれば寿命が長くなり、少なくなるほど短くなるという。

 魔力が元となって生まれている魔物らしい結果ともいえる。

 

 環境に合わせて生まれて来る魔物はそれだけ周囲の影響を受けているということになるわけで、今回わざわざオセアニアにある島に来たのはその環境を調べるためだった。

 より正確にいえば、既に領域化している一つの島に生えている植物たちの状況を確認することだ。

 人族が全くいない自然のままの島なのでその分多くの魔物がいるはずなのだけれど、もともとユグホウラで管理していた島なので野生の魔物はそこまで多くはない。

 そういう意味では手つかずの自然だとはいえないのだけれど、魔物が存在している世界である以上、そこを掘り下げるとどこまでが管理されている自然なのかが分からなくなるので敢えて気にしないことにしている。

 

 今回来た島にいる生物たちは、それこそ南国を想像する通りの環境を作っている。

 ただし一周目の時から変わらないように、この星は以前の人生の地球よりも平均気温が低いらしく微妙に生えている植物が違っていたりする。

 この世界の生き物がダーウィンの進化論に沿った進化をしているかどうかは分からないけれど、あまりあてにすると大外れの結果になるとも考えている。

 それだけ魔物……というよりも魔力という存在がこの世界で生きている生物たちにとっても大きな影響を与えているともいえる。

 

「――うーん。やっぱり耐熱性に優れているのは予想通りだけれど、それだけじゃないみたいだね。当たり前だけれど」

「主、当たり前なのですか?」

「それはね。別にここは暑いだけじゃないからね。大雨なんかもふるだろうし、強い風も吹くよね? そうした環境に対する耐性がなかったら生きていけないよ」

「そういうことですか。それでしたら確かに当たり前ですね」

「そうそう。それに普通に魔法を使った魔物だって出て来るんじゃないの? それに対する耐性も持っていないと、長く生き続けるなんてことは出来ないよ」

「魔法に対する耐性ですか。それは考えたことがありませんでした」

「何を言っているの。そういう意味だと世界樹だって同じだよ」

「それは……確かにその通りですね」


 ラックに言わせれば世界樹は違うと言いたいところだろうが、残念ながら魔力に基づいて生まれた植物という意味では同じ存在でしかない。

 俺の魂が宿るまではごく普通の魔力を持った植物として生まれ育った結果、世界樹という存在になっている。

 それは俺の一周目が始まってからアイが誕生した(と思われる)という結果からわかることだ。

 眷属として感情的には否定したいという気持ちは分からなくはないけれど、残念ながら否定できるだけの材料はない。

 もっとも魔石や歪みをもとにしていきなり魔物が誕生する世界だけに、世界樹も俺の魂が宿る直前に生まれて来たと考えてもおかしくはないのだけれど。

 

 そうしたことを確認するためにも、各地に生えている植物を多く観察しておきたいということもある。

 あとは謎の種を作るために色々なバリエーションを増やしたいこととか。

 一周目の時にはあまり赤道付近にまで来たことはなかったので、この機会に色々と見ておきたい。

 勿論、今一番大事な駄々洩れ魔力の調整は、しっかりと行っている。動き回っていても自然な程度に魔力が漏れるようにすることが目標なので、ジッとしたまま訓練していても意味がない。

 

 ――というわけでここの島で数日過ごして、生えている植物をたくさん観察できた。

 プレイヤーとなる前に暮らしていた日本では見ることができなかった植物が多く生えていたので、かなり面白かったし何よりも参考にすべき点が多く見つけることができた。

 新しく謎の種を作るかどうかは分からないけれど、これから先使う魔法なんかの見本としても役立ってくれるはずだ。

 何よりもこの辺りを管理している眷属たちを見舞うことができたのは良かった――と、ラックが言っていた。

 基本的にその土地に縛られている眷属たちは、俺の姿を見ることがほとんどない。

 そのため直接姿を見るだけでも、かなり士気のようなものが変わって来るそうだ。

 その話を聞いて、もう少し色々なところに顔を出すべきかなと少しばかり反省してしまった。




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m(__)m

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