(2)ユグホウラの拡張

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 アンネリやアイリ曰くだだ漏れているという魔力を押さえるためにホームで訓練をしていた間のこと。

 成長した世界樹のステータスを確認しながら、眷属たちとあることを話していた。

 そのあることというのは、現在のユグホウラの勢力圏(魔力のみ)の確認とこれからについてであった。

「――ということは、南極とかオセアニア辺りは全く手つかずってことでいいのかな?」

「はい。以前主がいらっしゃったときと変わっておりません」

 ラックからの返答を聞きながら「なるほど」と頷いていた。

 眷属たちは俺がいないからと領域を広げるということを敢えてしてこなかったということもあるけれど、どうも世界樹の限界というものも存在していたらしい。

 二周目が始まってから二回の進化をしているので、その辺りは問題が無くなっている……はずだ。

 

「一応確認だけれど、まだ人族の進出はないんだよね?」

「ええ。それは間違いございません。領域化はしておりませんが、探索は行っておりますので」

「それはよかった。あとは……人員には余裕はあるのかな?」

「それも問題ございません。むしろ暇を持て余している者たちが多いくらいですから」

 それはそれで組織としてどうかと思うのだけれど、今はその余裕が有難い。

「そう。それじゃあ、まずはオセアニア辺りから攻めてみようかな」

「畏まりました。やろうと思えば、二方面でも攻め込めますが?」

「そうなの? だったらちゃんとオセアニアで拡張ができることを確認してから南極にもいってみようか」

「確かに、そのほうがいいでしょうね。では、その方針で進めます」


 現状、オセアニアや南極は領域化が進んでいるところと進んでいないところがある。

 人族がいないので領域化は進めやすいはずなのだけれど、以前もあったように精霊樹を植えても領域化しないという状況が発生していたそうだ。

 明らかに世界樹の進化の度合いが足りていないからということが分かってからは、領域化を進めることを控えていたそうだ。

 もっとも俺が一周目を終えてから領域を広げること自体を抑えていたらしいので、それが世界樹の能力限界だからかどうかまでは調べていなかったらしい。

 

 これは元世界樹の精霊としての特性なのか、今なら領域を広げても問題ないと感覚的に分かっている。

 なので、このまま二方面同時に領域化しても問題ないはずだ。

 ただしいきなり試して駄目だったとなったら無駄足になるので、まずはオセアニアから確認するということにした。

 領域化に関してはラックだけではなく他の眷属も関わることになるので、これから第一世代の全員を集めて話をすることになっている。

 

 その話をする前に、ラックと別れてからシルクの所へ向かった。

「シルク、ちょっといいかな?」

「どうしました?」

「今夜の会議で南極とオセアニアについて話をしようと思っているんだけれど、南極の冬の植物の状況ってどうなっているかな?」

「あそこはもともと不毛の大地でしたから冬の植物を植えるなり繁殖が進んでおります。今ではほとんどが冬の植物で埋め尽くされておりますわ」

「なるほどね。ということは、蜜の採取も進んでいるってこと?」

「そうですね。ただ全てを集めると作り過ぎてしまうことになるので、今はほとんどを無駄にしております」

「あらら。まあ、魔物とか眷属だけだと消費する分が少ないからそうなるのも当然か。うーむ……」

「生産量を増やすだけなら今すぐにでもできますわ」


 シルクのお陰で、生産量を増やすこと自体はさほど問題ないことはわかった。

 問題は、増やした分をどうやって消費するかということになる。

 今はほとんど人族との交流をしていない状態だが、敢えて交易をして交流を増やすという手もなくはない。

 あとは、そこまでする必要があるのかどうかというところだろう。

 

 今更ながらに悩んでいるのは、世界全体の戦闘能力を引き上げる必要があるのかどうかというところだ。

 今までは単にもう少し人族の生息域を広げるためにということで考えていたけれど、万が一他のサーバーと絡むようなことがあるとすれば不安過ぎて仕方がない。

 今のところ同じサーバーでさえ世界間の交流はないので大丈夫……だとは思いたいけれど、絶対にないとも断言できない。

 ……あの上司がいる限り。

 

 ユグホウラが人族の交易に絡んで経済が強くなるかどうかは、正直なところ不確定要素が多すぎると思っている。

 経済は一方に与えすぎても駄目だし、もらい過ぎても駄目になってしまう。

 今の需要と供給のバランスを見る限りでは、どう考えてもユグホウラの側に貨幣が集まってしまう形になってしまうので、あまり輸出をしまくるというのも良くない結果になってしまう。

 だからといって捨て値で売り続けるのも良くないので、中々にバランスを取るのが難しい。

 

「――交易量自体は……今はバランスを崩さないほうがいいかな。やるとすれば、折角クランを作ったからそこから素材を流すくらいかな」

「よろしいのですか? こちらに貨幣が集まることになりますが」

「だからクランを通す必要があるんだよね。集まったお金はできる限りクランで消費するようにするとかね」

「今でもこっそりと流している分があるのですが、さらに増やすとなると消費が追い付かなくなりますよ?」

「問題はそこなんだよね。どうせだったら開発部門とか作ってしまおうか。冒険者に関係のある商品になっちゃうけれど」

「それはそれで問題が出そうな気もしますが……確かに人を雇うのが一番お金を消費しますか」

「そういうこと。もしくはクランの冒険者を金で増やすということも考えたけれど、そうするとろくな人が来ない気がするからね」

「それは研究開発でも同じでは?」

「だから最初の内は小規模に留めておくとかね。――あくまでも構想でしかないから、今度アイも交えてゆっくり話してみようか」


 すぐに結論が出せるような話題でもないので、とりあえずは保留としておいた。

 今すぐにユグホウラに起こせる変化はやはり領域の拡張になるので、まずは確実に出来ることからやっていくことにする。

 世界樹の支配領域を増やしてもあまり状況は変わらない可能性もあるけれど、そこは過去にもやっていた通りやってみるしかない。

 変わらなかったら変わらなかったで、そこはそんなものかと納得するしかない。

 

 ――そんなこんなで細かいことを打ち合わせしている間に、第一世代の眷属が全員集まった。

 既に話す内容についてはある程度伝えているので、顔を合わせて話すのはあくまでも最終確認するためでしかない。

 まず広げるのはオセアニアと南極大陸ということを伝えると、すぐに全員から了解が取れた。

 ファイからは主に管理をしているアメリカ大陸のことを聞かれたが、今のところは拡張するつもりはない。

 というよりもファイが折角色々と他の領域主(守護獣)について試してくれているので、急いで領域を取る必要はない。

 いざとなればいつでも取れるとファイからも言われているので、焦って取る必要がないともいえる。

 

 あとはアジア、中東、ヨーロッパ、そして阿弗利加と残っているが、それらについても今は無理に拡張するつもりはない。

 変に拡張をして人族を刺激したくないということもあるのだけれど、それ以上に今更焦って拡張しても意味がないということがある。

 世界樹自体はすでに領域の拡張によって進化するわけではないと今回の件でもわかったので、一周目の時ほど拡張をする必然性がないからだ。

 とにかく今はオセアニアと南極大陸を領域化して、そこで色々と確認することを優先しておきたい。




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m(__)m

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