第19章

(1)色々雑談

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 カッポーンという音は残念ながら聞こえてこなかった今いる場所は、広場にある公衆温泉。

 そこに用意されている休憩所で、ラッシュと久しぶりの雑談をしていた。

「――それにしてもさすがだったな」

「運……とは言わないけれど、必要なことさえ出来ればきちんとクリアできるってことだね」

 ラッシュは既に壁まで到達していることは分かっているので、適当に濁しながらも答えに近づけそうな内容で答えてみた。

「なるほどな。思い付きやらひらめきも大事だが、最後は結局地力ってことか」

「だね。ラッシュは次に到達しそうだって言っていたからさぼらなければ何とかなるんじゃないかな?」

「……は? いや。その情報は嬉しいが、言ってよかったのか?」

「いいんじゃない? 言われてさぼるラッシュじゃないだろうし。運営も隠すつもりはないみたいだったよ」

「それは、また……」

 何と答えていいのか分からないのか、ラッシュは何とも言えない表情になっていた。

 

「といっても、残念ながらこれ以上のことは話せないんだけれどね。やっぱり壁関係の話はご法度みたいだね」

「その割には、あっさりと話しているじゃないか」

「いまここにはラッシュしかいないからね。それくらいは運営もお目こぼししてくれると思うよ。――というか、わざと情報を漏らした節がある気がしているね」

「そうなのか?」

「そうじゃなかったら、あんなタイミングで話して来ないだろうしね」

「そうか。掲示板には運営から直接聞いたってあったな」


 当然のように掲示板には情報を落しているけれど、アルさんの言ったとおりに壁に関しての話はしていない。

 それについては以前から同じような状態だったので、他のプレイヤーも深く聞いて来ることはなかった。

 それよりも他サーバーとの交流の方に話題が集中していた。

 現時点で出来ないということは分かっていても、やはり他サーバーの動向は気になるということで様々な推測がいまでも議論されている。

 

「だね。どうもあの口ぶりだと壁を越えたプレイヤーは全員直接話を聞くことになりそうだね」

「そうなのか。それだけ重要ということだな。まあ、状況を考えれば当然か」

「話を聞けば、その理由も分かると思うけれどね。さすがにこれは話せないかな。壁の攻略にも関わって来ると思うから」

「それはそれは。だがまあ、何となく理由も分からなくはないがね」


 さすがに次に攻略するのはラッシュだと運営(アル)さんからお墨付きを得ているだけあって、それなりの感触は掴んでいるらしい。

 ラッシュがどこまでマナに対する理解を得ているかは分からないけれど、ある程度の確証を得るくらいの答えは持っているのだろう。

 もっともマナに対する理解が深まったからといって、すぐに壁を越えられるというわけではないのだけれど。

 そんなことはラッシュも分かっているはずなので、規制云々を抜きにしても言葉にするつもりはない。

 

「俺のことはいいとして。お前のそれは大丈夫なのか? 人前に出たら引かれるレベルだと思うが」

「あ~。やっぱりわかっちゃうんだ。一度向こうの人たちにも指摘されて、いま頑張って訓練中」

「なるほどな。引かれるまえに指摘されてよかったじゃないか」

「本当にね。感謝しているよ。こういう時のためにもちゃんと現地の知人は作っておくべきだと思ったね」

「確かにな。だがお前さんの場合、眷属がいるんじゃないのか?」

「ああ、それね。後から気付かなかったのかと聞いてみたら、同じ魔力だから気付けなかったと言っていたよ。もしかしたら眷属の盲点なのかもね」

「何? それは……俺も気を付けないといけないな。だが同じ魔力だから気付けないか。逆のような気もするがな」

「俺も眷属もそう思っていたから、今回のことはお互いに勉強になったよ」

「ふむ。理屈は分からんが、とにかくそういうこともあると覚えておこう」


 眷属たちは主である俺たちんのような存在の魔力で生きているといっても過言ではない。

 逆にいえば、魔力が近すぎて分からないということも発生するというわけだ。

 今回の件がまさにそのことに当てはまってしまって、皆で一斉に反省をしていた。

 アンネリやアイリからの指摘がなかったらどんなことになっていたのかと、少しばかり冷や汗を流していた。

 

「あと気になることといえば、他サーバーとの交流が始まった後のことだが……どうなると思う?」

「また随分と曖昧な聞き方だけれど、言いたいことは分かるよ。掲示板にもあったけれどSF系なんかとどうやって交流するのかとかだよね?」

「そうだな。ちなみに俺はないと思っているが、そっちの意見は?」

「ないだろうね。そもそもこっちの世界だと科学的に発達させようとする意図がないみたいだからね」

「やっぱりか。それをするなら、そもそも俺たちに規制したりはしないだろうしな」

 

 これまでもプレイヤーがふざけて火薬だったりを使った重火器の開発をしようとしたことがあった。

 ところが運営はそうした火器開発を認めていないのか、絶対に失敗するようになっているということが知られている。

 簡単にいえば火薬を作るのに必要な硝石なんかは見つかっているのに、何故か反応しなかっただとかの報告がされている。

 それにも拘らずユグホウラで開発した船なんかはしっかりと今でも残っているので、何かしらの線引きがされているのだろうというのが定説になっている。

 ファンタジー世界に火器なんかは必要ない! ――そういう運営(上司)の意図が働いているとか、世界ガイアの意思でそうなっているんだとか言われているが、今のところ正解はわかっていない。

 ちなみに個人的には火器は必要ないと考えているタイプなので、今の条件は有難く思っている。

 

「だよね。それに運営が科学を嫌っているというのも懐疑的だと思っているよ」

「ほう? 理由を聞いてもいいか?」

「科学技術が嫌いなら、そもそもSF系なんか許さないだろうからね。キャラクリエイトの時のあれはただの見せかけだと言われればそれまでだけれど……」

「それは交流が始まった時に分かるってことか。どっちにしても俺も運営が科学が嫌いというのはないと思っているけれどな。もしそうならあんな招待の仕方なんてしないだろう」

「招待ね。今となっては確かに招待といわれても違和感なく聞けるかな」

 ラッシュの言い回しに、思わず笑ってしまった。

 

「招待の是非はともかくとして、今は多くのプレイヤーが楽しんでいるのは確かだろう? 他のサーバーは知らないが」

「場合によってはそんなサーバーからも掲示板に書き込んでくることもあるってことかな」

「どうだろうな。そもそもそんなやる気のないサーバーで、マナに触れるところまで行けるプレイヤーがいると思うか?」

「いない……と言いたいところだけれど、こればかりはなあ。上司ならそういうプレイヤーも喜んで見物していると思っちゃうよね」

「それは……十分にあり得るな。そうだとすると色々と面倒になりそうだ。こっちにも伝染してくる可能性も考えないといけないだろうな」

「今まではいい雰囲気で続けられてからなあ。だからといっても、今後もそうだとは限らないということね。確かにそれは面倒だ」


 今のサーバーだけだとプレイヤー間の雰囲気は奇跡的と言っていいほどに良い状態を保っている。

 普通に考えればこれだけの人数が集まれば、いくつかの集団を形成して対立をしていてもおかしくはない。

 それを考えると他サーバーとの交流が必ずしもいい結果を迎えるとは限らないということはわかる。

 とはいえ今からそんな心配をしていても仕方ないと、恐らくラッシュも同じことを考えていると思う。




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突然ですが、少し忙しくなってきたので今章から更新を二日に一度ということにします。次話の更新は一日空けてということになります。

よろしくお願いいたします。



是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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