(19)変化と訓練

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 進化を終えて体に戻ると、そこではルフが傍に控えていた。

 体を起こして動かしてみたが、特に不調らしい不調は感じなかったので眷属たちがしっかりとサポートはしてくれていたらしいことがすぐにわかった。

 今はたまたまルフがいただけで、他は何かの用事で出払っているのだろう。

 そのルフはすぐにこちらが起きたことに気付いて、心配そうに視線を向けてきていた。

「大丈夫。何の問題もないよ」

「ワフ」

 尻尾をフリフリしながらの返答は、何度見ても和んでしまう。

 普通の人族から見れば危険極まりない魔物の一体なのだが、俺にとっては可愛い眷属の一体でしかない。

 

 しばらくそこに留まってルフを撫でていると、扉を開けてアイが入ってきた。

「――ルフ。ご主人様は……目覚めていた?」

「ああ、ごめん。一度撫で始めたら止まらなくなって」

 シャワーをしているわけではないルフだけれど、まさしくモフモフという擬音が当てはまるくらいに撫で心地がいい。

 

 数分ほどルフの毛並みを堪能してからアイとルフを連れ立って外に出ると、思わず感嘆の声を出してしまった。

「うわ……。これは凄いな」

 進化をしたことから世界樹が成長しているということは余所していたので、それは予想の範囲内だ。

 その成長自体が予想の範疇を超えていたとしても、そこまで驚くようなことではなかった。

 

 ただまるで写真で見たことのあるような大量の蛍が輝いているように、世界樹の周囲を大量の光の粒が舞っていた。

 思わず目を細めてしまったけれど、その光自体は目を焼くような強さではなく慣れれば目を楽しませる光景だということに気が付いた。

 そしてもう一つは、傍にいるアイやルフにはその光が見えていないということも。

「なるほどねえ。マナが視えるようになるとこんな感じになるのか」

「ご主人様、マナが視えるようになったの?」

「だね。視えるというか、離れた場所にあるのに触れているように感じるというか……なんとも不思議な感じだね、これは」

 蛍のように強い光じゃないからという理由だけではなく、目の前を舞っている光からはなんとも不思議な感触を受けた。

 感覚的にこれがマナだということは分かるけれど、直接手で触ろうとしても触れることができないとわかると益々意味不明な存在だと思った。

 手で触ることができないのに、どことなく『触っている』と感じることができるのだから猶更だ。

 

「――とはいえ、これはちょっと問題かな……」

 神秘的というにふさわしい光景に見入ってしまっていたけれど、我に返った時には現実的な問題が立ちはだかることになる。

 何しろマナの光は大量に見えていて、視界にチラチラと入って来てどうしてもそちらに意識が取られてしまうことがある。

 世界樹から離れた遠くを見るとそこまで多くはなさそうだとわかるけれど、それでもいざとなった時に邪魔になりそうなことは考えなくてもわかる。

 

 どうにかマナを見る視界のON/OFFができないかと試してみたけれど、まだまだその辺りは未熟で訓練が必要だということがわかった。

「……仕方ないか。クイン。ちょっとアンネリたちに伝言をお願いできるかな?」

 俺が外に出て来たことに気付いて近寄ってきていたクインに、元気だけれどもう少しかかると伝えることをお願いすることにした。

 今のままでも通常の生活は送れるだろうけれど、戦闘をすることを考えると何が起こるのか分からないのでちょっと不安がある。

 

 クインへ伝言を頼むと、すぐに了承してから少し不安そうな顔でこちらを見て来た。

「あの……。お体は大丈夫なのでしょうか?」

「ああ。そっちは全く問題ないよ。むしろ見えすぎるのが問題というちょっと贅沢な悩みだからね。ちゃんと区別できるようになるまえに訓練するってところかな」

「そういうことですか。伝言は承りました」

「うん。お願いね。さらに長期間何も言わずにいるとさすがに、ね」

 外に出る前にアイから聞いた話だと世界樹の進化を開始してからひと月も経っているということだった。

 そこからさらに訓練をするとなると、いくら無事だと分かっていても不安になるはずだ。

 一言でもいいから眷属から言葉があれば、それだけで安心してくれるだろう。……くれると思いたい。

 少し不安があるとすればオトの特訓が送れる可能性がある事だけれど、利発に育ちつつあるオトなら自分で課題を見つけて何とかしてくれるとも思う。

 

 伝言のためにすぐに離れていったクインを見送って、自分自身は言葉通りに未だに視界にチラチラ移り続けているマナの光をどうにかすることにした。

 以前はマナなど視えていなかったのだから、その状態に戻す努力をすればいい……はずだ。

 問題は戻したら戻したで、今度はまた振出しに戻ってしまうのではないかという問題はあるはずなのだが、何故かその心配は欠片もしていなかった。

 どういうわけか、一度ことができたものはまた視えなくなることはないという確信があったからだ。

 

 とにかくこの状態をどうにかしなければならないと訓練に入ったのと同時に、眷属たちも嬉々として進化をすると順番に眠りに就き始めた。

 世界樹が進化を果たしたことで、眷属たちもまた一段階上の進化ができるようになったらしい。

 眷属たちはそれを感覚的に分かっているようで、これまでと同じようにユグホウラの活動に穴が開かないように順番を決めて進化を始めていた。

 そして訓練を始めてから一週間後、一人目めの眷属が目を覚ますよりも早くこちらの訓練は目途が立って、ようやくエイリーク王国へと戻ることができた。

 

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「――ただいま」

「お帰り。今回は随分と……っ!?」

 どうにかマナを見るための視界のON/OFF機能を身に着けることが出来て、エイリーク王国の拠点に戻ることができた。

 そしてできる限りいつものようにとアンネリに帰還の挨拶をした――のは良いのだけれど、彼女から返ってきたのは驚愕の表情だった。

 さらに言えば、アンネリの隣に立っていたアイリや、そのほかの面々も似たような表情になっている。

 

「コホン、キラ。元気そうに……いえ。少し疲れているように見えるけれど、それはいいとして。は一体どういうことかしら?」

「はて……? それって?」

 意味が分からずに首を傾げたけれど、アンネリから返ってきたのは呆れと驚きが混じったような顔だった。

 そしていつもはほとんど触れることのないクインに視線を向けて、こんなことを言った。

「クインさん。さすがにこれはないと思うのですけれど」

 ただ言われたクインも意味が分からずに首を傾げていた。

 

 その後、アンネリとアイリから交互に今の俺の状況を客観的に教えてもらえた。

 早い話が、溢れる魔力が巨大すぎて見る者が見れば――言葉は悪いけれど化け物だと見られてしまうと。

 マナに対する視界の改良をすることに精一杯になっていて、そちらの方を気にすることを忘れていた。

 ちなみにクインや他の眷属が気付かなかったのは、世界樹の眷属で俺が持つ魔力はそれが当たり前という認識を持ってしまっているからだ。

 

 とにかく人族ではありえないほどの魔力を持つことになってしまったので、少しでも魔力を感じることができる者からするととんでもない魔力の塊が動き回っていると。

 普通の人族でもそう感じるのに、少しでも魔力を扱う者からすればアンネリの言葉が少しも大げさではないことがわかる。

 さすがに歩いているだけで化け物呼ばわりされるのは勘弁してほしいということで、エイリーク王国の拠点に戻るのはもう少し伸びることになったのであった。




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m(__)m

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