(15)ダンジョンからの帰還
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久しぶりのダンジョンに潜ってから二日後には、パーティとしても新しい階層まで探索出来ていた。
メンバーのやる気はまだまだ残っているのでさらに先に進んでもいいのだけれど、問題はこれ以上の攻略を進めると否応なしに目立ってしまうということだ。
早い話が現在活動している冒険者パーティの中で、最深部にまで到達してしまうことになる。
ちなみに『現在活動中の』というところがミソで、決して過去も含めた最高到達点というわけではない。
今いるダンジョンは一度完全攻略されているので、その記録が最高到達点ということになる。
一度ダンジョンが攻略されたにもかかわらず今現在も残っている理由は、攻略したパーティメンバーの一人がダンジョンマスターになることを希望したからだ。
ダンジョンが国にとって有用な資源採取の場であることを考えると、話の出来る相手がダンジョンマスターとなってくれるのは有難い話になる。
そのため事後承諾ではあるが、このダンジョンは国の管理下にあるダンジョンととして認められている。
――というところまでが表に出ている情報になるが、実際にはこのダンジョンのダンジョンマスターはスイの眷属の一人である吸血族が担っている。
そのことは王家も知っていることではあるけれど、王家を除けば知っているのは限られた範囲でしかない。
その眷属がパーティメンバーの一人としてダンジョンを攻略したというのは本当のことであり、わざわざ変装までさせてパーティに潜り込ませたという入念さである。
何故そんなことをしてまでと思わなくもないが、一周目の時に似たようなことをしていたのでスイがそれを真似したのだと思われる。
その割にはスイ自身はほとんど顔を出していなかったりと、管理的に杜撰なところも見える。
未だに頻繁に顔を見せているスイに一度そのことを聞いてみたけれど、返ってきた答えは「だって折角の遊び場の答えを知っていたら面白くないではありませんか」というものだった。
要するに眷属にダンジョン一つを与えて管理は一任したうえで、その眷属がどんなダンジョンにするのかを見ているのが楽しいと。
ダンジョンの変化を娯楽の一つにしてしまったのはさすがというべきか悩んでしまったけれど、ダンジョンマスターが仲間にいるプレイヤーの一人として文句を言う筋合いはないとスイには何も言わないでおいた。
そんなダンジョンの裏事情は横に置いておくとして、俺が本格的に攻略を始めると間違いなく最後まで到達してしまうということだった。
スイから話を聞く限りでは、一度攻略されてから階層の増加などはされておらず、各階層の調整や出現する魔物の変更などに時間を費やしているらしい。
人族パーティの強さから考えればそれでも十分らしく、しっかりとダンジョンとしての利益は出ているそうだ。
つまりは、スイの眷属であっても攻略できるレベルのままということであり、そこから考えると先の結論になるというわけだ。
別に攻略してしまっても問題がないのだけれど、そうすると各方面から面倒事を押し付けられそうなので控えている。
ダンジョンを攻略してもダンジョンマスターさえ倒さなければ、そのままそのダンジョンは継続できるので最下層到達の証明だけ貰うという手もなくはない。
ただそれは俺がいない状態でパーティの面々にやってほしいという考えもある。
となるとこのまま攻略するまで突っ走るというのは――ということになるわけだ。
「なので、頑張って皆で攻略を続けてください」
「何故、敬語なのよ。別に、いいけれど。それだったら折角来た意味がないんじゃない?」
「そんなことはないよ。皆の攻略を見ているだけでかなりリフレッシュになっているから」
「そうなの? それならいいけれど」
「それに、ダンジョンにいると何か思いつきそうな気がするんだよね~」
「それはちょっと都合が良すぎない?」
ジト目のアンネリにそう言われて、思わずハハハと笑って誤魔化してしまった。
何か思いつきそう云々はともかくとして、リフレッシュになっていることは間違いないので問題はないだろう。
そんな会話をしながらも攻略を進めて行って、いよいよパーティの皆のテンションもそろそろいいかという状態になってきた。
素材的には十分黒字になるくらい集まっているので、いつ止めても構わない……というよりも既に魔物を一体持って帰るだけで収支がトントンに出来るくらいの階層には来ているので、いつ戻っても問題はない。
皆のやる気が下がった状態で探索を続けても怪我の元になりかねないので、その日の探索で階層の探索はやめにして後は戻ろうということになった。
今いるダンジョンも十層ごとに転移陣があるタイプなので、今回は二十層に戻ることができればすぐに地上へと帰還できる。
そして予定通りに転移陣についた時に、ふと思いついたことがあって思わず呟いてしまった。
「そういえば、ダンジョンの転移陣もおかしいと言えばおかしいよなあ……」
「え? 何がおかしいの?」
「いやだって。転移装置や転移魔法を使えば国が動くレベルになるのに、ダンジョンのものはごく普通に利用しているじゃない?」
「それはそうだけれど、ダンジョンはそもそも別物でしょう?」
「別物って、どういう意味で? 別の場所に一瞬で移動していることに違いはないよね?」
「そうじゃなくて。ダンジョンのものはそもそも動かせないじゃない」
「ああ。そういうことか。人族が自由に使えるわけじゃないから、そもそも狙わない……」
「キラ? どうしたの?」
会話をしている最中にちょっとした思い付きが生まれてきて思わず言葉を止めてしまったので、アンネリが訝し気にこちらを見て来た。
それに対して「なんでもない」と返しながらも、考えは完全に別の方向に向いていた。
ダンジョンの転移陣は、それぞれ違った階層に移動するための魔法陣になっている。
転移陣があることによって長距離の移動をしなくて済むという共通点はあるが、今いるダンジョンのように物理的に繋がっていない空間同士を繋げているともいえる。
考えてみれば、プレイヤーが普段使っている広場も不思議な存在だ。
何しろ全く別の次元にある世界同士を繋げているのだから。しかもその空間同士を使える『道』は、限定された存在しか使えない。
どんな特殊な道がそれを可能にしているのか――と、そこまで考えたところで地脈の中央にあるというマナの部屋(?)のことを思い出した。
そもそも大量のマナが存在しているという場所は、本当に物理的に繋がっているところにあるのかと。
ガイアは壁があるとは言っていたけれど、物理的に繋がっているとまでは言っていない。
だとするとあの壁が繋がっている先は、広場のように全く違った空間に繋がっている可能性もある。
それもまたただの思い付きでしかなかったけれど、何故か今回はその予想は当たっているという確信があった。
そもそも地脈という存在も物理的に星の中を流れているとは限らない。
だとすれば、マナがある空間も物理的には離れた場所にあってもおかしくはないのではないか。
そこから考えれば、マナがあるという空間に行くために壁を越えるためには――広場に行くときのような道を作る必要があるのではないか。
それらの疑問が浮かんできては消えてを繰り返しているうちに、いつの間にかダンジョンを抜けて拠点に戻っていた。
その間ほとんど上の空でまるで会話になっていなかったと、後から聞いて皆に謝ることになったのは余談となる。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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