(12)元は同じ?

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 折角のひらめきも生かすことができずに、あれから数日を過ごすことになった。

 その間も壁の突破を試みてはいるけれど、残念ながら未だに通り抜けることは出来ていない。

 単純に魔力珠という殻を脱ぎ捨てて魂の状態になれば行けるかと思ったが、そうは問屋が卸さずに完全に無駄な試行となってしまった。

 それからは物理的、魔法的に壁を壊そうとしてみたりしたけれど、どう頑張ってもその壁に穴を開けることすらできていない。

 その間、お気に入りタレントさんの顔のままのガイアに見守られ続けていて、別の意味での苦行を強いられているような気さえしてきた。

 とはいえそれも試練(?)のうちの一つだと考えて、何も言わずにそのままにさせている。

 最初は言うと何か負けた気がするという理由だけだったのだが、今ではもしかすると意味があることなのかもしれないと考えているためだ。

 壁のある場所は物理的な制限というよりも魔力的なものに影響を受け安いところであるために、そうした精神的な揺さぶりに耐えることに意味があるのではないかと。

 

 その考えが効いたのかは分からないけれど、ガイアに見守らる中での試行はすぐに気にならなくなってしまった。

 人の慣れというのは恐ろしいと思わなくもないが、折角慣れたのだから今更過去の羞恥心のようなものを思い出すつもりはない。

 むしろ見守られている中で突破が出来れば、より嬉しくなるのではないかとさえ考えるようになっていた。

 ……我ながら単純すぎだと思わなくもないけれど。

 

 いずれにしても壁の突破はまだまだ出来そうになく、時間がかかるだろうと予想している。

 他のプレイヤーが同じところで躓いているのかは確認していないけれど、恐らく似たり寄ったりの状況にあると思われる。

 あるいはここの試練が終わった後に、新たな試練があるのかもしれない。

 そもそもの始まりはマナに対する五感を得ることなので、壁を突破したとしてもそれが得られているわけではないとも考えられる。

 

 そしてこの日も当然のように壁の突破は出来ずに諦めて拠点に戻ると、エイリーク王国の巫女たちと一緒にいたアイリが話しかけて来た。

「キラ様、よろしいでしょうか」

「うん。何か新しく分かったことでもあった?」

「新しくというよりも、これまでの分析の延長のようなものになると思うのですが、一つ推論を立ててみました」

「推論ね。どんなもの?」

「はい。歪みも地域差があることはこれまでのお話でも分かっていたことですが、そこからさらに出現している環境によって差ができているのではないかと予想しておりますわ」

「出現している場所による差ね。……うん? ということは元は同じということ?」

「恐らく。元が歪みと全く同じかどうかはわかりませんが」

「なるほど。地表に出て来る時に歪みとして変わっているのか、歪みは最初から歪みとしてあるのかはわかっていないってことか」

「そうなります」

 環境によって歪みの性質が変わるという推論は、地域さがあるという結果から考えればごく自然に思いつくことなので特に反対する必要はない。

 証拠といえるものが多くの歪みを観察した結果でしかないので、あくまでも推論に留まっているのが残念なところといえるが。

 

「――ところでキラ様は、ノスフィンのダンジョンで歪みから魔物が出たことを覚えていらっしゃいますか?」

「それは勿論。目の前で確認したことだからね。……ってまさか、それも環境によるものってこと?」

「はい。それから自然発生している多くの魔物も歪みから発生しているのではないかと考えていますわ」

「それは少し行き過ぎのような……。だとしたらこれだけ多く観察している巫女さんたちが、その場面を見逃しているというのは考えづらくないかな?」

「見逃しているというよりも、敢えて探索の範囲に含めていないのかと思います」

「どういうこと?」

 

 アイリにそう確認して帰ってきた答えは、次のようなものだった。

 そもそも巫女たちは、戦闘ができるというわけではない。

 そのため護衛のようなものを雇うか用意をして旅に出るわけだが、わざわざ戦闘が行われるような場所には中々いくことはない。

 結果として魔物が多く発生しているような場所は自然と避ける傾向にあるというわけだ。

 

「――なるほどね。そもそも現場に行く機会が少ないのに、目撃情報が得られるはずもないということか」

「はい。あとは弱い魔物などは、歪みが発生してから魔物に変わる時間が短いということも考えられます」

「歪みとして発生している時間が短いからこそ、魔物に変わる瞬間も見逃しているというわけか」

「そうなります。――それで、この話を纏めると一つの大きな結論を導くことができますわ」

「ああ~。やっぱりそうなるわけか。ここまで話を聞いて思いついていたけれど、試しに先に言ってもらっていいかな?」

「はい。これらの歪みの有り様は、とある方々の存在と似通っているといえます。私の場合でいえば世界樹様、彼女たちの場合は守護獣様といえますか」

「やっぱりそうなるよね。つまりは歪みもまたマナを魔力、もしくは魔石に変換している存在というわけになるわけね」

「そうです。守護獣様方とは違って永続的に存在するわけではないのですが、だからこそ手軽に魔力や魔石を生み出しているともいえますわ」

「元がマナだからこそ、世界樹みたいに歪みを回収して魔力に変換することも可能ってことだよね」


 要するに各地にいる守護獣たちも歪みも、同じマナから生まれているということになる。

 推論に推論を重ねた議論でしかないことは確かだけれど、否定できる材料がないことも確かだ。

 むしろこれらの推論が正しいと思えてしまうのは、折角アイリたちが頑張って考えたことだからという感情も入っている気もするが。

 そんな感情を抜きにしても、きちんと話の筋は通っているように思えるので一つの大きな推論として認めることは構わないと思う。

 

「――確かにきちんとまとまっているとは思う。だけれど今の話を証明する手段がないから、あくまでも仮説の一つとして考えておくのがいいかもね」

「私もそう思いますわ。今の話に変わる説得力のある仮説が出てくれば話は別ですが、恐らく新しい発見でもない限りは無理でしょう」

「そうだね。それにしても魔力も歪みも元は同じマナか。考え方としては面白い……って、ちょっと待てよ?」

「どうかされましたか?」


 アイリが不思議そうな顔をしてこちらを見て来たけれど、今はそちらに対応している余裕はなかった。

 不意に湧いてきた考えに頭が支配されて、周りが見えなくなってしまう。

 そのことに気付いたアイリが一緒にいた巫女たちに視線をやってその場から去って行ったけれど、それすらも視界に入ってこない状態になっている。

 それまでに突然思いついたひらめきは、これまで以上にもしかしてと思わせるものだった。

 

 歪みや魔力の元にマナがあるのだとすると、それを『視る』ための方法も同じなのではないかと。

 勿論、全くの同じというわけではないのだろうが、考え方は似通ったものになるはずだ。

 特に歪みに関しては巫女(神職?)としての素養を持っていないと見ることはできない。

 それを参考にすれば、マナを見ることができるようになるのではないか。

 

 今困っているのはマナを見ることではなく壁を越えることなのだけれど、それすらも忘れてその考えに集中してしまっていた。

 それが壁を越えるための近道になるとは全く思わずに。




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m(__)m

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