(11)壁
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眷属の女性たちをはじめとして、今の俺の傍にはやたらと美人さんが多くいる。
とはいえ一定期間ファンとして心に留まっていた女性――に似た存在が傍にいるとやはり変な気分になって来る。
そんな気分を誤魔化すために、
「随分と言葉が流暢になっているけれど、何か理由が?」
「姿についての疑問の次がそれですか。まあ、別にいいですけれど。
「本体に近いって?」
どういうことかと首を傾げるとガイアはさらに説明を加えてくれた。
以前話していたガイアは、システマチックに考えると本体端末につながれた末端端末だったとのこと。
末端端末であるがゆえに処理能力が落ちていて、言葉も上手く使うことができなかったと。
ただし端末と言っているが別にコンピュータのシステムのように物理的なものがあるわけではなく、あくまでもイメージでの話になる。
今目の前にある体も同じくイメージの産物でしかないが、それでも人の身体を意識することによってより流暢に話せるようになっているそうだ。
余談ではあるが、地脈という物質に寄らない場所で活動を続けて来たことによって、ある程度俺自身の思考も読み取ることができたそう。
ガイアの姿の理由の一端が判明したところで、妙に力が抜けてしまった。
「あ~。俺の考えていることは筒抜けというわけね」
「そこまでではありません。ただし意識の表層に近い思考はある程度読み取ることができます。要するにあなたはよくこの女性のことを――」
「あ。はい。すいませんでした。もうそれ以上は言わなくても結構です」
確かにそのタレントさんのことを思い出していたことは確かだけれど、それ以上に今近くにいる女性たちのことを考えていたような気がする。
「今現在近くにいる女性の姿と同じになっても、偽物だと思われてしまうでしょう?」
「いや。それは今も同じだから! というか、そこまで似せるんだったら表情も変わるようにしてほしかった」
人型ガイアの唯一といっていい欠点は、その表情の乏しさにあるといえる。
好みの女性が無表情のまま近くにいるというのは。違和感でしかない。
元のタレントさんがそういうキャラで売っているのであれば歓迎できたのかもしれないけれど、残念ながら(?)それとは正反対のコロコロと表情が変わる女性だった。
これ以上ガイアのことに触れても自分にダメージが来るだけだと悟ったところで、さっさと本題に入ることにした。
「それで言われたとおりに中央に来たけれど、特に五感を得たような感じはしないけれど?」
「それはそうです。ここはあくまでも地脈の中央。言い換えれば魔力の大元のようなところですから」
「なるほどね。だとするとここまで来た意味は?」
「随分とせっかちですね。まあ、いいですが。――それではこちらへどうぞ」
ガイアは、そう言いながら入ってきた扉とは反対側にある壁を右手で示した。
そこには何の変哲もないこれまで見て来たものと同じ壁があるようにしか見えなかったが、あのガイアが意味のないことをするとは思えない。
だからこそ素直に、その壁の場所まで進んだ。
「――この壁はマナと魔力を隔てる場所であり、マナを魔力に変換するためのものでもあります。いわば
「そうなんだ……って、今の俺は世界樹そのものではないけれど?」
「同じ魂を持っているのに何を言いますか。私からすれば同じ存在です」
「世界樹と俺が同じ魂?」
「全く同じというわけではないですが。もとは一緒なので存在は同じです。だからこそ容易に出入りできるわけです」
「そういうことね」
今でも自由に世界樹の中を出入りできる理由をこんなところで知ってしまった。
一応予想としては同じ魔力を持っているからということを考えていたのだけれど、どうやらさらにそれよりも根本的なところで同じだったらしい。
「――それでここの壁がマナと魔力を隔てているということは分かったけれど、これからどうすればいいのかな?」
「簡単なことです。この壁を越えて先に行くことができれば、マナだけの場所に行くことができます。そこで五感を得るようにすればいいだけです」
「いや、だけって……壁は壁なんだから越えることは出来ないよね?」
当たり前のように聞き返してみたが、返ってきたのは相変わらずの無表情だった。
ただしたとえ無表情だったとしても、ガイアが嘘を吐くとは思えないので何かしら壁を超える方法はあるのだろう。
同時に中央に着いた他のプレイヤーが、そこでとどまっている理由も判明した。
要するにこの壁が越えられずにいるのだろう。
……もしかすると他にも理由があるのかもしれないけれど。
「そうでしょうね。恐らく壁を越えられても五感を得ることに戸惑っているのでは?」
「そういうこともあるか。……って、ナチュラルに考えを読まないで」
「仕方ありません。この場所は物理的にあるわけではなく、思考は読みやすいですから」
「それはもう聞いた。これ以上突っ込んでも仕方ないからもういいや」
ガイアに思考が駄々洩れになるのは仕方ないと諦めることにして、今は目の前にある壁をどうやって越えるかが問題だ。
もしかしたら素直に越えることができるのではないかと試しに壁に向かって進んでみたものの、当然のように壁に当たってそれ以上進むことはできない。
そもそもここは魔法的な場所で物理的に境界があるとは思えないのだけれど、今まで通ってきた地脈もきちんと隔たりがあったので何かしらの理屈で『壁』になっているはずだ。
だとするとその理屈をどうにかしなければならないわけで、さてどうするかとひとしきり悩んでみた。
――のは良いのだけれど、残念ながらこの時はすぐに時間切れが来てしまった。
このまま悩み続けてもいいかとも考えたけれど、食事を抜いたりして体調に変化があるとこの場にいる俺自身にもよくない影響があるかも知れない。
それは今までの地脈探索でよく理解していたので、素直に戻ることにしたのだ。
別に時間制限があるわけでもないのとどうせ悩むことになるなら人の身体に戻ってからゆっくり悩むこともできると考えたこともある。
そして人の身体に戻って皆と一緒に夕食を取って、一人で部屋の中でごろごろしながらしばらく時間が経ったときのこと。
ふと気になることがあって思わず呟いてしまった。
「――うーん。何だろう、この喉に魚の骨が刺さったみたいな気持ち悪い感覚」
何か大事なことが思い出せそうで思い出せない。
そんな微妙にイライラするような状態で一分ほどベッドの上で考えていると、ようやくそのイライラの原因を思い出すことができた。
「そうか! どこかで似たようなことがあったと思ったら、地脈に入る時と同じような状況じゃないか!」
地脈の中に入ろうとしたとき、そこにあることは分かっていても入ることは出来なかった。
今の状況もそれに似ているとはいえば似ている……と、いえなくもない。
だとすればあの時の状況を考えて同じような対処をすればいいのでは――と思いついたのはいいけれど、そこから先には進めなかった。
地脈の中央には世界樹のような存在があるわけでもないので、どうすることもできない。
あとは何か思いつくことがないかと再び悶々とした思いを抱えつつ、ベッドの上でごろごろを繰り返すことになった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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