(10)到着
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地脈の中央を目指している本来の目的は、マナに対する五感を得ることだ。
そのためただ流されるままに中央を目指すのではなく、周辺の状況を観察して色々と試しながら進んでいる。
時には『魔法の手』を出しながら周囲の魔力に触れてみようとしたり、何か音が聞こえてこないか耳を澄ませたり……等々。
魔力珠では人の身体のように目や耳があるわけではないので実際に音を聞いたり景色を見ることは出来ないが、それに代わるようなことができないかは色々とやっている。
地脈の中を進むにあたって一番役に立っているのは、触覚だろうか。
魔力の濃度が濃いとか流れが速いというのは、実際に触ってみての感覚なのだから当然といえば当然なのかもしれない。
実際の触覚とは違った感覚で触れているのだけれど、それはまさしく触覚といってもいい感覚だろう。
その触覚と同じように、疑似的に見たり聞いたりを試しているというわけだ。
そんなこんなで色々と試しながら四段階目まで来たわけだが、触覚以外にも何とか視覚と聴覚、そして嗅覚に関してどうにか身に着けることができていた。
あくまでも疑似的なものでしかないので、例えば視覚でいえば目のような器官があって物を見ているというわけではない。
触れていないのに遠くにあるものを感じ取ることができるといったものだ。
それを視覚といっていいのかは分からないけれど、とにかくそういうものだと思い込むことにしている。
他の聴覚や嗅覚も似たような感じで、感覚器官に頼って五感を得ているというわけではない。
あくまでもそれらの感覚に似たもので周囲の状況を感じ取っているというだけだ。
当たり前だが魔力珠には感覚器官が備わっているわけではないので、そうなるもの当然だと思う。
物理的にそれらの器官に当たる機能を備えるかと一時考えたりもしたけれど、結局それよりは魔力を使った感覚に頼った方が良いと今のところは結論付けている。
五感の内四つまでを疑似的であっても獲得することができている中、唯一味覚に当たるものだけは未だに得ることができていない。
これは自分の中で魔力に『味』があるのかというのが理解できずに、どうしても似たような感覚を得るイメージができないからだ。
要するに人の身体でいえば舌に当たる部分をイメージすればいいのだけれど、これが難しすぎて未だに手掛かりすら掴めていない状態だったりする。
むしろこればかりはどうしようもないと、諦めてしまっているともいえるのだけれど。
今のところ四つの感覚を得ているわけだが、これはあくまでも魔力に対するものであってマナに対するものではない。
マナというものが実際にどういうものか分からない以上は、たとえ五感の内どれかが発現していたとしてもそれが実際に正しいかは確認する方法がないためだ。
地脈の中を流れているのが魔力だけとは限らずマナも流れている可能性はあるのだけれど、今のところマナだと思われるものを感じたりすることは出来ていない。
以前、地脈の中を歪みが流れていることを確認したことはあるけれど、中央に行けば行くほどそうした雑多なものはなくなっている。
「――さて。それじゃあ、今日も始めようかな」
気合を入れるためにそう呟いてみたものの返ってきた応えは無い。
地脈探索をしていることは仲間以外には公開していないので、探索を開始する時は眷属しか周囲にいないようにしている。
エイリーク王国にいる現在は、借りた物件の庭に拡張馬車を置いてそこから探索の始める。
地脈の探索は孤独な一人旅なので、基本的に会話をすることはない。
そもそも魔力珠に口がついているわけではないので、音による言葉を聞くことは全くない。
地脈の中で会話ができる相手はガイアだけで、言葉によるやり取りも必要ないのだけれど。
魔力珠で移動しているときは脳内思考している感じなので、あまり不自由を感じることはない。
というわけで、いつものように拡張馬車の中から魂だけの状態になって地脈の中へ。
そこから目印を付けたところにまで転移をしてから探索の開始となる。
エイリーク王国で探索を開始してから一週間以上が経っているので、一連の流れも慣れたものとなっている。
ちなみに初期ポイントを前回探索を終えた場所に設定することも可能だけれど、敢えてそうしていない。
理由としてはスタート地点を潜った場所にしておくと地域差を感じ取ることができて、魔力に対する五感を得る時にも役に立ったからだ。
それ以外にも離れた場所からスタートをすると、地脈の中でも距離があることが実感できるからということもある。
それもこれも地脈の中に印(アンカー)をつけておくことが出来ると最初の頃に発見できたお陰なので、当時の自分をほめてやりたいくらいだったりする。
それぞれ違った場所にある印によって、地上(?)の位置と地脈の中での位置の比較ができるので色々と役に立っている。
前回探索を終えた場所まで転移した後は、いつものように周囲を五感で感じつつゆっくりと進んで行く。
ただし今回いつもと違っているのは、明らかに今までとは違った雰囲気の場所(空間?)を感じ取ることができていることだ。
それは五感のうちの視覚でもそうだし、触覚という意味でも違った感覚で感じ取っていた。
敢えてそれを言葉で表現するとすれば、何やら大きな扉のようなものが『視えて』いるといった感じだろうか。
「あれが中央そのものか、あるいは中央への入口なんだろうなあ」
魔力珠に口があれば間違いなくそう言葉にしていただろうが、あいにくそれは出来ないので脳内で考えるだけでとどまった。
そんなあからさまな目印がある以上、行かないという選択肢はないわけだがこれで長く続いた探索も終わりを迎えるかと思うと感慨深いものがある。
中央に着いたからといって地脈の中の探索ができなくなるというわけではない……と思いたいところだけれど、絶対にないと言い切れないのは敢えてガイアからもそのことは聞いていなからだ。
とはいえいつまでも扉の前でうろうろとし続けていても仕方ないので、サクッと入ることにした。
「……のは良いんだけれど、そもそも手がない場合はどうやって開けるんだろうか」
そんなことを考えながらも、地脈の流れに逆らって動いた経験を生かして力押しで奥に向かって押してみた。
その扉はほとんど何の抵抗もなく、すんなりと奥の空間に向かって押されていった。
そして魔力珠が通れるだけの空間が空いたので、するりと新しい空間へと移動した。
その空間も魔力で満たされているところは、今まで通ってきた地脈の中と変わらない。
ただしこれまで以上に、魔力の濃度が濃くなっている。
さらに今までで一番違っているところは、地脈の中のように魔力が流れずにその場に留まっているということだろうか。
そしてそんなことを感じ取ってからさらに周囲を見回そうとした次の瞬間、その空間の中央付近に今までいなかったはずの人影が現れた。
「ようこそ中央へ」
「えっ。もしかしなくてもガイアか?」
「ええ。そうですよ。あなたの場合、姿かたちがあった方が話しやすいかと思い用意しました」
「そ、それは有難いんですが、何故その姿に!?」
目の前に現れた人物がガイアだとすぐに分かったのは良いのだけれど、何故かその姿は見知ったものだったのだ。
しかも、日本で暮らしていた時に一番のお気に入りだったタレントさんそのものだった。
「おや。あなたの思考を読み取ってこれが一番いいと判断したのですが、気に入りませんでしたか?」
「気にいるか気に入らないかでいえば断然気に入っているんですが……いや、そんなことはどうでもいいか」
妙なことであらぬ方向に話が進んでしまったので、素直に話の方向を戻すことにした。
折角なので間近にその姿を見ていたいという邪な考えも若干は合ったけれど……いや、本当に若干だったよ?
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敢えて名前は書きませんので、読者の皆様はお好きなタレントさんを思い浮かべてください。(笑)
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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