(9)攻略の進め方
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
朝。アンネリたちがダンジョンに向かうのを見送ってから、アイリが巫女たちと拠点に用意した部屋に入って資料の整理などを始めるのを見届ける。
その一連の作業を終わらせてから、俺自身は地脈探索の続きを行う。
――これがカーライルでの日常になりつつあった。
アンネリたちは勿論のこと、アイリたちの調査もなかなかの成果を上げているようで、その日の終わりに彼女たちから話を聞くのが日課になっている。
アンネリたちのダンジョン探索は、初めて潜るダンジョンということもあって慎重に進めているようだった。
その代わりに子供たちの成長は著しいようで、既に戦闘面においても足手まといという状況からは脱しつつあるようだった。
そしてアイリたちの研究はそこまで大きな進展はないものの、ヒノモトで起こっているのにエイリーク王国では見られない現象があったり、またその逆のことがあったりするようだった。
それが地域差によるものなのかは今のところはわかっていないけれど、お互いの資料を読み解けば分かることもあるかも知れない。
俺自身は地脈探索をちまちまと進めているのは相変わらず。
ただしエイリーク王国で探索を開始して、すぐに分かったことがある。
開始地点がずれればスタートの位置が変わることは分かっていたけれど、以前終えたところに『跳ぶ』ことができるということだ。
地脈に入る時にそのことを意識すれば、どちらから始めるかを選ぶことができる。
それを利用してスタート時にエイリーク王国直下での開始を選択すると、明らかにヒノモトやノスフィン王国から始めた時とは違った地点から始まることになる。
より細い地脈からスタートすることは変わりないのだけれど、明らかに周囲の環境が違っているということが分かる。
最初の頃はその違いが分かっていなかったのだが、何度も地脈に潜っているうちに周辺環境の違いに気付けるようになってきたというわけだ。
これが『マナに対する五感を得る』ことに繋がるかは分からないけれど、環境の違いが分かるようになったことは一つの進歩だと捉えることにしている。
さらにもう一つの成果は、四段階目の太い地脈に入ることができたことだろう。
段階が上がるごとに魔力の濃度も早さも段違いに変わるということは分かっていたが、この段階になるとかなりの魔力操作を要求されることになる。
地脈の中を移動するのには、魔力を使って移動していることもあって魔力操作はかなり重要な能力になる。
以前から鍛えていた俺としてはあまり戸惑うことなく移動できているが、プレイヤーの中には段階が上がるごとに移動するのが厳しいという声が上がっていた。
そんな中で、ついにプレイヤーの中で『中央』らしき場所にたどり着いた(らしい?)という者が現れた。
ただしまだ疑問形なのは、未だに五感を得ることは出来ておらず、それを確信するには至らない理由があるとのことだった。
その理由については例によって規制がかかっているのか、掲示板には書かれていなかった。
非常に気になるところだけれど、書き込みがない以上はどうすることもできないので自分でそこまで到達するように頑張るしかない。
――そんなことを考えていたある日、いつものように広場にある温泉施設でくつろいでいたらハルが話しかけて来た。
「おう。随分とのんびりしているな」
「ここに来ると日本にいた時のことを思い出せるからねえ。畳の上っていうのが良くないのかな」
「ハハハ。その気持ちはよくわかるがな。――ところでそっちの進捗はどうだ?」
「進捗って、地脈探索のこと? それだったら相も変わらずだよ。そろそろ中央に着きそうな気もするけれど、まだまだなような気もするね」
「そっちもか。中央に着いたという連中は、どれだけ急いで進んだんだろうな」
「人それぞれだからね。わき目もふらずに中央を目指していれば、着くこともあるんじゃなかな。俺やハルみたいに脇道にそれると、どうしても遅くなるよ」
「それは否定できないな。折角新しい環境に身を置けたんだから色々試すのは楽しいじゃないか。……と、考えるのはやはり性格だからか」
「これに関しては、どっちがいいということもないしね」
人に迷惑をかけているのであれば変える必要もあるとは思うけれど、今回に限っては誰にも迷惑をかけていないので自分の好きにやることにしている。
もっともこの世界に来て自分の好きなこと以外のことをした方が珍しいのだけれど。
そう考えると好き勝手に動き回れる世界を用意してくれた運営には、もっと感謝した方が良いのかもしれない。
……そう思わせてくれないのは、やはりあの上司の存在があるからだと思う。
「今回は珍しく規制もかかっているみたいだからね。何か理由があるのか、それともただの気まぐれなのか」
「上司一人の存在だけで、後者だと思わせるのは凄いよな。実際には多くの運営が動いていることが分かっているのに」
「広場に来ている人たちだけでもかなりの人数がいるからね。全サーバーを合わせたらどれくらいいるのか」
「俺たちのところに来ている運営だけで見ても、五人以上は確実だろう。サーバーがいくつあるか分からないが、十や二十じゃないとすると……企業とするとかなりの大手になるからな」
「それだけの人数が動くための資金がどこから出ているのかと考えると恐ろしくなるよね」
「世界そのものを使っているからなあ。俺たちじゃあ、想像もできない単位で何かしらが動いているんだろうぜ。もしくは俺たちが何かしらすることによって、運営にも利益が出ているか」
「ショップの利用料とか、広場に常駐している分とかだけで賄えるとは思えないしねえ……」
「そうだな。――それはいいとして、随分と話がずれたな。どこからこうなった?」
「上司の話からだね」
上司の存在が際立っているのはこの世界に来た時からだけれど、今もその存在感が衰えていない。
むしろ広場に運営の誰かしらが常駐することによって、その異質さが際立っているともいえる。
もっともその異質な上司に運営の面々はしっかりと従っているので、それなり以上に信頼感は得ているらしい。
プレイヤーたちは上司と運営と呼んでいるが、今のところその正体もよくわかっていないままだ。
「まあ、上司に話はいいか。それよりも地脈探索に話を戻すとして、キラだったらそろそろ中央に着くんじゃないか?」
「どうだろうね。まだやってみたいこともあるけれど、後回しにしてもいい気もしているからね」
「だよな。その辺りの判断が難しいところだが……結局は、個人個人の趣味の範囲ということになるわけか」
「そうだね。やればやるほど色々と疑問点が出て来るからねえ。全部を解消するとなると、いくら時間が合っても足りない気がするよ」
「ふむ。参考までにどんなことをやっているんだ?」
「そうだねえ。例えば、敢えて流れに逆らったらどうなるのかとか、地脈の中で魔法を使ったらどうなるのかとかかな」
「地脈の中で魔法ねえ。やっぱり似たり寄ったりのことは考えるんだな」
プレイヤーが活動しているのはそれぞれ別の世界ではあるけれど、どこかしら似ている世界であることは間違いない。
だからこそこれまで付き合ってきた年月と合わせて、考え方自体が似て来るのはある意味必然かもしれない。
とはいえ性格の違いはあるので、今回のように中央まで真っ先に向かうプレイヤーもいれば、何かしらの考えを持ってゆっくり進めるプレイヤーもいる。
考え方は似ていてもプレイヤーの性格によって世界の『攻略』の仕方も変わることを面白いと感じてしまうのは、やっぱり性格なのかもしれない。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます