(8)今後の予定

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 魔物でも地脈に触れることができるという情報は、眷属たちを張り切らせる結果になった。

 これまでも試していなかったわけではないのだけれど、より一層真剣に挑むようになったというべきか。

 そもそも魔物というのは生まれ持った能力を使って生きていくのが普通なので、訓練によって『今』の能力を大幅に超えるような新しい能力を自ら身に着けるということは滅多にない。

 戦闘を重ねることで進化をして新しい力を身に着けるというのが当たり前なのだ。

 ただし人外プレイヤーの状況を見てみれば、進化によって地脈に触れられるようになったということはない。

 ということは、魔物であっても訓練によって新しい能力を身に着けることができるということになる。

 それでも生まれ持った本能というのは中々に厄介なようで、訓練をし続けるということは中々難しいようだった。

 もしかすると世界樹の変化(進化?)待ちなのかもしれないけれど、そこは是非とも眷属に皆に頑張ってもらいたいところだ。

 

 俺たちが地脈関係の話をしている間に、貴族(王族)組は政治的な話を終わらせていた。

 転移装置が使えるとはいえ、そこまで頻繁に行き来できるわけではない。

 そのため今のうちに話せることは話したほうがいいだろうということになったらしい。

 もっとも今回の議題で一番需要だったのは、ツガル領で開発された拡張袋の件だったそうだ。――という話を後から直弼から聞いた。

 

 オルファ王はその日のうちにスイに連れられて王都へと戻り、マクネアー家は無事に(?)平穏を取り戻すことができていた。

 ただしその後もちょくちょくスイが来るようになったので、本当の意味での平穏になったかどうかは分からない。

 それに俺たちも直弼たちが帰国するのに合わせて町で生活することになるので、スイの訪問に驚くこともなくなるはずだ。

 スイは俺がいるところに来ていると公言しているので、俺たちの移動に合わせて訪問先を変えるはずだから。

 

 そして国王を連れてスイはといえば、翌日にはまたマクネアー家を訪問してきた。

 今度は国王ではなく、一人のお年を召した女性を連れて。

 その女性は巫女服を着ていたので、どういう目的で連れて来たのはすぐにわかった。

 ちなみにエイリーク王国の巫女服はヒノモトのものとは若干変わっているところがあって、それは気候の違いによって長い月日をかけて変化したのだと思われる。

 

 その女性――ベティは、スイによっていきなり連れてこられたにも「あらあら」「まあまあ」などと言ってのほほんとした様子を見せていた。

 まさしく『おっとり』という言葉が似合いそうな人物ではあったけれど、スイから連れてこられた目的を聞くと真面目な表情になって頷いていた。

「――そういうことですか。ヒノモトとエイリーク王国で歪みの比較をしたいと。それでしたら最初からそう仰っていただければ、色々と資料を持ってきましたのに」

「今日は顔合わせだけのつもりだったから良いのよ。それに、本格的に議論するとなるとベティが居続けるというわけにもいかないでしょう?」

「確かに、それもそうですね。スイ様はどうなされるのでしょう?」

「私? 私は勿論、ご主人様と一緒にいるわよ?」

 さらりと「ご主人」呼びをしているスイだったが、ベティは頬に手を当てながら「あらあら」というだけだった。

 スイがご主人様と呼ぶ相手が誰なのか、世界樹の巫女が知らないはずはないのだけれど、動揺らしい動揺は見せていない。

 この辺りが年の功なのか、あるいは人物なのかは今のところ判断がつかない。

 

 ベティの人物評価はともかくとして、スイの鶴の一声によってエイリーク王国の巫女と一緒に歪みの研究を進めることが決まった。

 当然ながらヒノモト側のトップは、アイリが務めることになる。

 となるとこれから予定しているダンジョン探索には加わることができないということになり、ダンジョン探索にも支障が出ることになる。

 もっともアイリがいないからといって探索が全くできないというわけではないので、探索自体は予定通りに進めることになった。

 

 そうした諸々の準備を進めているうちに、津軽一家がヒノモトに戻ることになった。

 ほぼ私用という珍しい訪問となった今回は、親戚としての絆を深めることができたようだった。

 お互いに国を代表する貴族だけあって政治的な話とは切っても切れない関係ではあるが、それぞれに身のある話もできたようだった。

 そこは本当の意味で国のトップではないということが、いい方向に作用していたと思える。

 

 とにかく津軽一家のマクネアー家訪問はいい方向での関係強化に繋がって終わりとなった。

 直弼たちがヒノモトに戻ったということは、こちらもマクネアー家の邸宅から出て町で生活をしていくことになる。

 フィリップはギリギリまで家から通えばいいと言っていたけれど、さすがに貴族の家からダンジョンに通うわけにも行かないので丁寧に断っておいた。

 そして直弼たちが戻る間に探していた賃貸物件に入った俺たちは、本格的にエイリーク王国での活動を開始することになった。

 

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 カーライルの冒険者ギルドは、町の中央からは外れた場所に位置している。

 その理由は単純で、冒険者が利用するダンジョンにできる限り近い位置に建てた結果今の位置にあるわけだ。

 冒険者ギルドに出ている依頼も七割以上がダンジョンに関わるものなので、当然の結果といえる。

 冒険者ギルドには近くにあるダンジョンでは多くの冒険者が出入りしていて、その冒険者に対応できるだけの広さがある。

 王都はまさしく国の顔という町になっているが、カーライルは言うならば冒険者の町といったところだろうか。

 もっとも公爵が直接治めているからなのか、王都に引けを取らない規模であることが町の住人たちの誇りになっているようだ。

 確かにこの世界にある町としては大きな都市といえる大きさなので、誇りに思うという気持ちも分からくはない。

 

 カーライルの町で借りることができた賃貸物件はパーティ単位で過ごすことができるもので、この辺りはさすが冒険者の町といえるのかもしれない。

 ノスフィン王国のヘディンでも同じような物件が多くあったので、冒険者の需要に応えるためと考えると似たような供給が多くなるのも当然なのだろう。

 需要と供給のことはともかくとして、それなりの数の人数がいる俺たちとしてはそうした物件があるのは大助かりだった。

 周りにある建屋もそのほとんどに冒険者が住んでいるようで、変に気を使ったご近所づきあいというのもしなくていいのは有難いといえる。

 

 俺たちが入居するときには既に家具類も揃っていたので、いつでもダンジョンの攻略から始められる状態になっている。

 もっとも俺自身は地脈探索の続きが待っているし、アイリはエイリーク王国の巫女たちと歪みに関しての調査・研究を行うことになっている。

 その代わりにダークエルフたちはしっかりと着いて来ているので、ダンジョン攻略に困るということはないはずだ。

 ダンジョン攻略はアンネリ、歪みに関してはアイリにと押し付けている気もしなくもないけれど、どちらかといえば二人とも任せてほしいと言っているので甘えさせてもらうことにした。

 

 地脈探索がいつまで続くかは分からないけれど、少なくともそれが終わるまでは今の状態が続くことになると思う。

 もっとも焦っても仕方ないということは十分に理解しているので、しっかりと満足のいくまで進めていくつもりでいる。




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ギフト、ありがとうございます。


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m(__)m

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