(6)再会
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< Side:キラ >
「ご主人様!!」
こちらを見るなりそう言いながら駆け寄ってきて抱き着いてきた美女――スイに、頭の中が真っ白になった。
以前見た時から年月が経っているので当然のように成長しているのだろうと思ってはいたけれど、さすがにこれは変わり過ぎだろうと。
黙ったままでいるとずっとそのままでいそうだったため半ば無理やりに引き離してから改めてその姿を確認してみたが、色々な意味で成長している姿が見て取れた。
腰までありそうな長い白髪や意思の強そうな赤い瞳は、以前のまま変わらないので間違いなくスイだと断言できる。
ただ一緒に転移してきたクイン以上の体つきからは、妖艶とはアンネとはまた違った系統の妖艶さを感じてしまう。
これほどの違いを見せられると、さすがに五百年という歳月を感じずにはいられなかった。
最後に別れた時はまだまだ小学校に上がったばかりの子供だったのが、今では完全に大人の女性になっているのだから。
それでもこちらを真っすぐに見つめて来る整った顔は、当時の面影をしっかりと残している。
もう一つ変わってないところがあるとすれば、時折開く口から見える吸血族らしい鋭い犬歯(?)だろうか。
「――ご主人様?」
「……いや。なんでもない。それよりも、そちらの方を紹介してもらえないのかな?」
思わず見惚れてしまっていたなんてことは言えずに、誤魔化すように一緒に着いて来ていた男性を紹介してもらうように促した。
事前準備の内容からその男性が誰であるのかは推測が出来ていたが、それでもきちんと挨拶するのが筋だろう。
「こちらはこの国の王であるオルファです。小さい頃は、黙って城を抜け出しては騎士たちに追いかけられていたやんちゃ坊主ですね」
「……守護様。お願いですからその紹介は勘弁してもらえませんか」
「あら。私だってちゃんと言うべき相手は見極めていますよ。ご主人様だからこそです」
「それならまあ、良いです」
諦めたような表情になっている国王を見ながら、それでいいのかと思わず苦笑してしまった。
そこからは他に連れて来た面々を紹介してもらい、この国に来た時と同じように別室へと向かった。
そこでオルファ王から事務的な話をする――はずだったのが、スイの一言であっという間に立ち消えになってしまった。
「ご主人様を相手に政治的なやり取りをしようとしても無駄よ。これと決めたら梃子でも動かない方だもの」
――ということらしい。
「いや、しかし……」
「諦めなさいな。そもそもお姉さま方を動かすことができていない時点で、いくら言っても無駄よ」
「それは…………かしこまりました」
最後まで諦めずに交渉しようとしていたオルファ王だったが、スイから鋭い視線を向けられて最後には肩を落としていた。
こちらとしても全く持ってその通りで、言うべきことは全て言われてしまった。
それでも交渉の場を設けたのはあちら側の立場を慮ってのことだったが、スイがぴしゃりと押さえてくれたお陰で王国側の面目は何とか保つことができたというところだろうか。
守護獣であるスイがこちら側に立ってくれたお陰で、無用な諍いになることはなくなった。
案外王国側も、それを狙っていた可能性はある。
守護獣から止められた――王国にとっては、そのことが何よりも重要だという証拠ともいえる。
とはいえスイに止められっぱなしというのも国王としての立場的にどうかと思ったので、わずかばかりの希望の光を与えることにした。
「折角ここまでいらしたのですから、直弼殿と拡張袋の件を話されてはいかがでしょうか? まだまだ欲しいのですよね?」
「それは勿論、欲しいが……いいのか?」
「うむ。キラ殿がそうおっしゃるのであれば、こちらとしても多少の融通は出来る。私の土地は、キラ殿に返しきれないほどの恩がありますから」
「そのようなことが。ぜひ詳しくお伺いしたいところですな」
「何。恐らく王もご存じでいらっしゃるはず。領地の危機に世界樹の精霊が現れたという話ですから」
直弼の言葉に、オルファ王はそういうことかと納得していた。
「ツガル領の話って、シーオにまで広がっているの?」
「ハハハ。そういうわけではございませんよ。ただエイリーク王国では以前からの繋がりが強いので、昔話も多少は共有されているという感じです」
「そういうことか。……まさか、一般の人たちにまで広まっているってことは?」
「あるでしょうな。特に精霊様に関わるお話は、主に神官の者たちが広めているはずですから」
「……それはまた。町の中で話を耳にしたときには、上手く素知らぬフリをしないといけませんね」
「そうなるでしょうな。ハッハッハ」
数日後には冒険者として国内に留まることは伝わっているのか、オルファ王は俺の冗談に笑っていた。
エイリーク王国は宗教国家であるだけに、聖職者が広めているという話をまともに受け取っている可能性が高いので、世界樹の精霊の生まれ変わりだと知られるわけにはいかない。
知られたところで本気で信じる者も少ないとは思うけれど……それこそ宗教国家だと本気で本物だと受け止められる可能性もある。
そうなってしまうと好き勝手に国内を移動することもままならなくなってしまうので、それだけは勘弁してほしいと思う。
そんなことを考えていると何を考えたのか、スイがにっこりと笑いながらこう言ってきた。
「――ご主人様、折角会えたのですからもっとお話ししましょう? どうせオルファたちは難しい話をするのでしょう?」
「そうだろうけれど……いいのですか?」
一応確認のためにオルファ王へ視線を向けると、苦笑しながらも頷き返してきた。
その顔は、スイを止めることは出来ないと雄弁に語っていた。
それがあったからではないけれど、スイの言うとおりにその場から離れることにした。
そして用意された自室にスイと一緒に戻ってから、改めて確認した。
「――それで、スイ。わざわざ彼らから離れたのは何故?」
「あら。あそこが退屈だったのは本当のことですよ。ですが、そう言ってもご主人様は信じて下さらないのでしょうね」
「それはね。俺の知っているスイは、幼い振りをして大人顔負けの考えを持っている子だったからね」
「フフフ。やっぱりご主人様は騙せませんね。でもお話がしたかったのは本当ですよ?」
「それは疑っていないよ。今回はまだまだ時間はあるんだから、あとで色々と話は出来るだろう? それで、理由は?」
「あのままあの場にいれば、ご主人様だと必ず首を突っ込むことになったでしょう? だから強制的に連れ出すことにしたのよ」
「やっぱりそうだったか。――ありがとう。確かにその通りだと思うよ」
俺が礼を言うと、スイは一瞬驚いた表情になってからすぐに極上の笑顔になっていた。
その笑顔をまじまじと見ながら思わず感心した様子で言ってしまった。
「それにしても随分と美人に成長したね。いや、子供の時もちゃんと美人さんだったんだけれど」
「ふえっ!? な、なんですか、いきなり!?」
「あら。ここで顔を赤くするんだ。スイだったら言われ慣れているだろうに」
「そ、そうですが……ご主人様は別ですよ……」
後半は小声でほとんど聞くことができなかなかったけれど、真っ白な肌が真っ赤になっている様子からも大体想像することはできた。
とはいえこれ以上スイのことを褒めるとこちらも恥ずかしくなりそうだったので、この程度で止めておくことにした。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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