(5)目覚め

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:クイン >

 

 エイリーク王国の王都は、主様がこちらの世界にいらっしゃる前に暮らしていた世界でいえば、『ろんどん』と呼ばれる辺りにあるそうです。

 その王都には、当然のように国王が暮らす王城がシンボルとなって建てられており、その城から見下ろせるように城下町が広がっております。

 私がその王都に来たのは、主様のご要望に従ってのこと。

 町自体には用はないので、転移装置を使って普段利用している場所へと転移しました。

 その転移先には吸血族の特徴である白髪赤目の吸血鬼(男性型)が一人、何かあった時のために警護についております。

 ここにある転移装置自体が動くことがそうそうあることではないので、転移装置が使われたこと自体と来たのが私ということで二重に驚いていました。

 

「これはクイン様。どうかなさいましたか? おひい様は眠られておりますが」

「そのおひい様を起こしに来たのですよ。今回は起こさないと、逆に私たちが怒られそうですから」

「何かございましたか?」

「今、カーライルにが滞在なさっております。シーオをうろうろしているときならともかく、領域内に来た以上は眠らせたままというわけにはいかないですから」


 私がそう言うと、警護の吸血族が驚きで両目を見開き、慌てた様子で別の所へ連絡を取っていました。

 敢えて主様のことは具体的に言わなかったのですが、しっかりと伝わったようで安心いたしました。

 警護の人員が、古くからスイに仕えていた者だったことも良かったのでしょう。

 警護の者に一言断りを入れてからさらに先に進むと、奥から別の吸血族の一人が駆け寄ってきました。

 

「クイン様。ようこそいらっしゃいませ」

「突然ごめんなさいね。できればもっとゆっくりしたかったのですけれど」

「とんでもございません。事情は分かっておりますから。クイン様をここで御引止めいたしますと、私がおひい様から怒られてしまいます」

「それもそうね。本当であれば、主様が復活成された時点で知らせたほうが良かったのでしょうけれど……」

「おひい様はまあ領域から出ることができませぬ。今のタイミングがちょうどよかったかと思われます」

「そうね。期間が空いてしまったことについては……主様にお任せいたしましょう」

「……よろしいのでしょうか?」

「構いませんよ。というよりも、主様が何をなさらなくともスイが勝手に忘れてくれると思います」

「それもそうですね」


 冗談交じりに言った言葉に、相手も小さく笑いながら頷いておりました。

 スイの怒りは、主様を前にすればすぐにしぼんでしまうことは過去の経験からよくわかっております。

 小さかったあのころと違って今は大人の女性として成長しておりますが、それでもあの頃と変わっていないことはこれまでのことでよくわかっております。

 私よりも近くにいてお世話をしているこの者も、そのことはよく知っていることでしょう。

 

 会話を続けながら少し長めの廊下を歩いて行くと、やがて豪華に装飾された扉の前に来ました。

 ここが吸血族たちの主であるスイが眠っている部屋になります。

 部屋の扉は限られた者しか開けられないようになっていますが、案内役の彼は勿論のこと当然のように私も開けられるようになっています。

 今回は案内役の彼が開けましたが。

 

 扉を開けて部屋に入ると扉の時と同じように飾りたてられております。

 ただしその部屋の主が眠っているはずのいわゆる棺は、非常に簡素な造りになっています。

 本人曰く「眠っているときには目に入らないので飾る必要などございません」ということらしいですが、いまいちその感覚はよくわかりません。

 何かしらのこだわりポイントが本人にあるのでしょう。

 

 スイが眠っている棺は、一人でも開けることが可能になっています。

 ただし許可のある者しかできないので、私が来たというわけです。

 棺の蓋になっている部分を手でスライドさせれば、静かに眠っているスイの顔を見ることができます。

 そういえば、一度目の主様が亡くなられた時のスイはまだまだ子供でしたが、今の彼女を見ればどう思うのでしょうか。

 なんとなく慌てる姿が想像できたので、少し可笑しくなってしまいました。

 

 上半身の部分が見えるくらいまで蓋をずらしてから肩を揺さぶれば、通常の睡眠とは比べ物にならないくらいの長い眠りから覚ますことができます。

「う、うーん……」

「スイ、起きてください」

「もう少し……」

 今の姿からは想像ができないくらいの子供のような寝言が聞こえてきましたが、そのまま寝かせておくわけにはいきませんので続けて肩を揺さぶります。

「駄目です。主様を待たせるおつもりですか?」

「主様……ご主人様!?」

 主様と聞いて、先ほどまでの態度が嘘のようにパッチリと目を開けて上半身を起こしてきました。

 

「あれ? クインお姉さま? どうなされたのですか? ご主人様がいらっしゃるという、いい夢を見ていたのですが」

「寝ぼけるのもいいですが、その主様の件で来たのです」

「……どういうことでしょう?」

「どうもこうもありません。今、この地に主様がいらしております。当然――」

「会うに決まっています!」

 食い気味に断言されてしまいましたが、それは予想の範疇です。

 

 ついでにこちらの話を聞かずに今にも駆け出しそうになっていましたが、一緒に来ていた者の言葉ですぐにピタリと動きを止めました。

「お嬢様、落ち着いてください。寝起きの姿のまま会われるのですか?」

「そ、それもそうですね。すぐに着替えなくては! 服、服はどれを……ああ、髪飾りもあれを……!」

「スイ、落ち着きなさい。どの道今すぐにアイに行くわけにはいきませんから」

「……どういうことでしょう、お姉さま」

「今のあなたはエイリーク王国の守護獣なのですよ。その姿を主様に見せるのでは、ありませんか? 国王も共に連れて行かなければならないのでしょう?」

「ええ~。今の王は……」

「オルファです。お嬢様」

「オルファね。ありがとう。オルファだったら別に、連れて行かなくても……」

「……スイ」

 国王をないがしろにするようなことを言いそうになったので、思わず声を低くして名を呼んでしまいました。

 怒られると思ったのか、肩をビクリとさせて恐る恐るこちらを見て来る仕草は子供のころと全く変わっていません。

 

 この姿を主様に見せれば、間違いなく昔のままだと認識してくださるだろうと妙なところで確信しつつきちんと言うべきことは言っておかなければなりません。

「私は別に構いませんが、スイはきちんと公爵として領域を治めている姿を見てもらいたいのではありませんか?」

「……その通りです。ありがとうございます、クインお姉さま。――オルファにはどこまで伝えているのでしょう?」

「精霊様がいらっしゃっていることはご存知ですが、ご意向により訪問は控えている状態です。王都に来る予定もないのでやきもきしているのではないでしょうか」

「王都に来ていない? そして何故マクネアーなのでしょう?」

「マクネアー家のクリスティーナがヒノモトへと嫁いでおります。その繋がりで今回の訪問となっております」

「そういうこと。――お姉さま。もう少し詳しくお話をお聞きしてもよろしいですか?」

「勿論です。そのために私が来たのですから」

 ようやく頭が回ってきたのか、欲しかった言葉を聞くことができました。

 

 それからしばらく今の状況を話すと、スイはそれからしばらく忙しそうに動いておりました。

 目を覚ましてから一日ほど経ってようやく準備が整うまで我慢できていたスイは、やはり大人になったといえるのかもしれません。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る