(4)個別の話し合い

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 初日から詰め込んで話をすることはないだろうということになって、俺たちが冒険者として活動していく話をしてその日は終了……にはならなかった。

 もう一つフィリップに話をしておくべきことがあったのだけれど、直弼たちがいるところで話をしていいか判断ができなかったのでその場では話さなかった。

 その代わりに案内された部屋でメイドさんに面会の希望を申し込んで、その結果を待つことにした。

 そこまで急ぐ必要がないことは伝えているので、執務が終わった空き時間にでも話ができるはずだ。

 ――と、そんなことを考えていたのだけれど、面会をお願いしてから数十分と経たずに「すぐに会う」という返答が来た。

 さらに人数を絞って話をしたいと伝えたことから緊急性があると判断したのかは分からないが、思った以上に早い回答だった。

 仮にも公爵という身分にいるのだから忙しくないわけはないと思うのだけれど、当人が会うと言っているのですぐに向かった。

 今度は少人数ということで、話し合う場所も執務室にある椅子に座って対面での会話となった。

 

「――思ったよりも早かったのですが、無理はされていませんか?」

「いいえ、とんでもない。もともと今日はクリスティーナに久しぶりに会えるということで、仕事は控えめにしているのですよ」

「そうですか。それでしたらよかった。それで早速本題に入らせていただきます」

「ええ。お願いいたします」

「単刀直入にお伺いいたしますが、この邸宅にスイ――この国の守護獣を呼んでも大丈夫でしょうか?」

 なるべく重たくならないように軽い調子で言ったのだけれど、それでもフィリップの変化は劇的だった。

 最初は何を言われているのか分からなかったのかにこやかな笑顔を浮かべて、その後数秒ほど経つとその表情のまま固まってしまった。

「あ~。公爵様、大丈夫ですか?」

 あまりにも反応がなかったので失礼ながらも目の前で手を振ったりしたのだが、それでもしばらく反応が返って来ることはなかった。

 

 仕方ないのでしばらく待つことになるかと椅子に腰を落ち着かせた丁度その時、

「ど、どどど、どういうことですかっ!?」

「うわっ! びっくりした。どういうというか、言葉通りなんですが……?」

「いえ、意味が分かりません! 何故に、我が家に守護獣様が!?」

「私のことはご存じでしょうから言ってしまいますが、この地の守護獣は昔馴染みでして。折角なので久しぶりに話をしたいと思ったのですが?」

「そ、そんなことが……!? い、いえ。あり得ないことではないのでしょうが、それにしても……昔馴染み?」

「おや。ご存じなかったのですか? スイがここの守護獣になる前は、ユグホウラに身を寄せていたのですよ。それ以上は私の口から言っていいのか分からないので言いませんが」

「そ、そんなことお伺いできませんよ!」

 見た目通りだと冷静沈着という言葉が似合いそうな公爵だが、クリスティーナと会った時といい今回のことといい、意外に感情的になることが分かって面白くなってきた。

 

 当人にもそれが伝わったのか……は分からないが、一度大きく深呼吸をしてから真面目な表情に戻ってから改めて聞いてきた。

「まさかとは思いますが、守護獣様を起こされる手段をお持ちとは言いませんよね? 今は休眠期のはずですが……」

「あ~。そのまさかですかね。私自身は知りませんが、ユグホウラの眷属には連絡を取る手段があるようですから」

「それは……さすがと言いますか、なんと言いますか……」

「出来ることなら早いうちが良いと思うのですよね。シーオのどこかにいるというならともかく、折角お膝元にまで来たのに呼ばなかったら拗ねると思うのですよ」

「……拗ねる?」

「ええ。スイはあれでなかなか寂しがり屋なところがありますからね。……フィリップ公爵?」

 昔のスイのイメージのままで話をしてみたが、それを聞いたフィリップは何とも言い難い表情になってしまった。

 その顔を敢えて表現するのであれば、いるはずのないお化けを見たというか、自分の知らない何かを見たというべきか、とにかく形容しがたい顔だった。

 

「い、いえ、とにかく。すぐにでも会われないと守護獣様がご機嫌を損ねることになると……?」

「多分だけれどね。あ~。でも五百年ぶりだからなあ……。正直どうなるかは分からないともいえるかな」

「それはそうかも知れませんが……やはり王都で会うというのは駄目でしょうか?」

「それは勘弁してください。話を聞いただけですが、とんでもない出迎え方をされることになるのですよね?」

「王家にも体面というものがございますからまず間違いないかと……そうなるとやはりここで会われるのが一番になりますか。――出来れば二、三日待っていただくのは……」

「それは問題ないと思いますよ。ここで落ち着くのを待っていたとか、言い訳は出来るでしょうから」

 俺のその言葉に、フィリップはあからさまにホッとした表情を浮かべていた。

「も、申し訳ございません。世界樹様を格下に扱うつもりはないのですが……」

「それこそそんなことを気にする必要はないですよ。そもそも大げさにする必要はないと言ったのはこちらですしね」


 エイリーク王国に来るにあたっての絶対の条件は、大げさな状態にしないで欲しいということだった。

 だからこそ公爵家で数日お世話になった後は、すぐにでも冒険者活動を再開する……つもりだったのだけれど、守護獣がスイだと聞いて少しばかり予定が変更になってしまっただけのことだ。

 さすがにスイが公爵家に来ることになれば、騒がれることになるのは間違いない。

 ただしその名目は俺ではなく、直弼が来ているからということにしておくつもりだ。

 

「――そういうわけですから、タマモ……ヒノモトの守護獣からの言伝を預かっているとかの建前で会おうかと考えています」

「なるほど。それでしたらさほど不自然ではない……と、言いたいところですが、そうもいかない事情がありまして」

「やはり駄目ですか?」

「いえ。あまり多くの者には知らせずにというのはどうとでもできますが、さすがに国王にはお知らせする必要があります」

「ああ、それはそうでしょうね。それ以外は何かありますか?」

「それ以外ですか。特には……王は貴方がいらしていることはご存知ですが、さすがに守護獣様がいらっしゃるとなるとこちらに来ないというわけにはいかなくなると思います」

「まあ、そうでしょうね。どうせ来るとなればスイか他の眷属の転移で一緒に来ることになるでしょうから、構いませんよ。ただし人数は少数にしてもらいますが」

「それは……」

「恐らくスイが大人数を嫌がると思いますから、否が応でもそうなると思いますよ?」


 国王が動くなら最低限の護衛が必要になる――と言いたかったのだろうけれど、俺の言葉を聞いてすぐに口を閉じた。

 スイもまた大げさなことが余り好きではないというのは、エイリーク王国にも伝わっているらしい。

 スイがそんな性格になったのは多分に精霊時代だった俺の影響もあるのかもしれないが、それは敢えて言わずにおいた。

 

 守護獣に続いて国王も来ることが予想できると、逆の意味で大げさにすることができなくなってしまった。

 国のトップが動くと色々と面倒事が発生することになるので、できる限り秘匿した状態にしなければ問題が発生する可能性も大きくなるためだ。

 フィリップもそのことをすぐに理解したのか、すぐにそちらの方向で準備を進めることにしたようだった。

 もっとも準備を進めるといっても、屋敷を整えることくらいしかすることはないのだが。

 とにかく第一陣として数日後にスイが来ることはほぼ確実なので、それに向けて屋敷ではちょっとした改装が施されることになっていた。




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m(__)m

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