(3)マクネアー家当主
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エイリーク王国にスイがいると聞けたので、行く楽しみがまた一つ増えた。
世界樹を主神とした宗教国家だというところが引っかかるけれど、そこは気にしすぎても仕方ないと割り切って楽しむことにする。
ただし表立って乗り込むと大騒ぎになりそうな予感がするので、そこは控えめに抑えてもらうようにするつもりだ。
今のところはあくまでもクリスティーナ夫人の里帰りという名目になっているので、あまり大げさにならないように言ってある。
クリスティーナの実家であるマクネアー家にはきちんと伝えているので、おかしなことにはならないはずだ。
そもそもエイリーク王国に行く目的は国内にあるダンジョン探索を行うことなので、世界樹の妖精(の生まれ変わり)として騒がれると無理になってしまいかねない。
それだと本末転倒になるということも伝えているので、わかってくれている……はずだ。
一応ユグホウラの眷属経由でも念を押しているので、恐らくは大丈夫だろう。
というわけで、直弼やクリスティーナとひとしきり会話をしてから転移装置を使ってエイリーク王国のマクネアー領へと向かった。
マクネアー家の本宅には津軽家とやり取りするために使っている転移装置があるので、問題なく使うことができた。
そして転移した先には、数名の人族が頭を深々と下げている姿が確認できた。
「ようこそ、エイリーク王国マクネアー領へ」
「ああ~、うん。あまり大げさにしないように」
「心得ております」
いきなり大げさな対応で驚いたものの、何とか返すことができた。
そこから今回の訪問者全員来るのを待って改めて挨拶をすると、先頭に立っていたその男性こそが現マクネアー家当主のフィリップ・マクネアーその人であることがわかった。
転移装置が置かれている部屋に数名しかいなかったことから一応念押しは効いていると思いたいところだが、いきなりの先制攻撃(?)に面を喰らったのは間違いない。
そんなこんなでずっと立ったままで話をするわけにはいかないと、俺たちたちは応接室のような場所へと案内された。
ただし子供たちやハロルド、ヘリ、ダークエルフ組は別室に案内されている。
応接室に備え付けられた椅子に落ち着いたところで、改めて会話を再開した。
「この度はご訪問ありがとうございます。冒険者として活動をすると伺っておりますが、間違いございませんか?」
「そうなりますね。フィリップ殿は公爵なのですから、そこまで固くなる必要はないのですが……」
「そうは参りません。それから私に『殿』も必要ございません」
どうあっても今の態度を崩すつもりはないと宣言されしまい、思わず困って直弼を見てしまった。
その視線を感じたのか、直弼が少し笑いをこらえるような表情になりながら助言めいたことをしてくれた。
「フィリップ殿、キラ様が困っておられる。貴殿のその態度も理解するが、時に柔軟性も必要だと思うがな」
「ナオスケ殿。そうは言うがな……」
「うむ。だから理解はしていると言っているだろう。だからこうした身内の時のみ今のままでということでいいのではないか? 普通は逆だと思うが……キラ殿のこれからを考えるとそのほうがよかろう?」
「む……。それは確かに一理あるな……」
直弼の助言を受けてフィリップが考え込むような表情になった。
それから数度のやり取りを経てようやくフィリップも納得したのか、外向けには『公爵と冒険者』で内向きには『世界樹の精霊の生まれ変わり』として対応するということになった。
今のところ外向けの態度を見ていないので若干不安は残るところだが、これ以上粘っても仕方ないと諦めることにした。
そしてその問答を終えてると、ようやくマクネアー家としての感動の再開ということになった。
本来であれば逆になるべきではないかと思わなくもないが、ここでそれを突っ込むと何か負けたような気がするので止めておいた。
今回はあくまでも里帰りという体なので、あまり政治的な話にはならなかった。
ただし一つだけ上げるとすれば、何故か直弼がいきなり拡張袋の話をしだした。
「――これが例の拡張袋になる。実用に耐えうることは確認しているが、不具合があれば知らせてくれ」
「それはいいんだが、何故ここでその話を?」
「何を言っている。世界各地で拡張袋が発見されたのは、キラ様の仕掛けだぞ?」
「それはまた……」
初めて聞いた話だったのか、フィリップが驚いた顔になってこちらを見て来た。
この場でその話をされるとは思っていなかったのでこちらも驚いたのだけれど、特に隠すつもりもないので素直に頷いておいた。
直弼が話してもいいと判断したのであれば、教えてしまっても大丈夫だろうと考えたということもある。
直弼がこの場で拡張袋の話をしだしたのは、敢えて俺がいるタイミングを狙ってのことだったらしい。
世界各地にあるダンジョンにばらまいたお陰で量産化できることになったことも含めて、あくまでも『世界樹の精霊』のお陰と言いたかったらしい。
何故そんなことをするのかといえば、どうも俺を盾にして無茶な要求をされることを防ぎたかったようだ。
そんなことで職人たちが死にそうな目になるのを防げるのであれば、いくらでも利用してもらっても構わない。
とはいえ直弼としても俺がいないところで勝手に名前を出すつもりはなく、この場での交渉となったようだ。
それなら事前に話しておいてくれた方がいいのにと思わなくもなかったが、話をしている間に思いついたことだったと後から説明された。
それからしばらくは家族同士の細々とした話が続き、最後にフィリップがこう切り出してきた。
「そういえば、キラ様は冒険者として町に留まる伺っておりますが、間違いございませんか?」
「ええ。間違いありません。ダンジョンもこの町近くにあると伺っておりますが?」
「ええ。国内でも二番目の規模のダンジョンがあります……が、そうですか」
「何か問題でも?」
「いえ。そうなると町の中で過ごされるということになるのではないかと……」
「それはダンジョンと町の距離によりますね。ダンジョンの位置が離れていれば、拠点に住むことになります。その場合町に来るのは、消耗品の仕入れの時だけになりますね」
俺の言葉に、意味が分からなかったのかフィリップが首を傾げて、アイリが助け舟を出してきた。
「伯父様。キラ様は私たち全員が寝泊まりしても大丈夫な規模の移動式の拠点をお持ちですわ」
「それは、なんというか……さすがですね。ですが、それだと逆に狙われそうな気もしますが」
「それも大丈夫ですわ。あの拠点を落せるとすれば、守護獣様クラスでなければ無理でしょうから」
その言葉を聞いたフィリップは、何とも複雑な表情になっていた。
ついでのように直弼たちも似たような顔になっていたが、そういえば彼らにも拡張した拠点のことは知らせていなかったことを思い出した。
とはいえ今更といえば今更なので、敢えて説明を加えることはせずに、そのまま放置しておくことにした。
その一方で、フィリップが「それだと安全なのか……? いや、それでも何があるのか分からないから……」とか何やら不穏なことをブツブツ呟いている。
どうやら自覚なしに独り言を言っているようだと分かったので、アイリにそれとなく視線を向けた。
「――伯父様。全て聞こえておりますよ。そもそもキラ様はAランク冒険者ですので、下手な護衛は必要ありません。……ランクに関しては上げる必要性がないとそこで止めているので、本来の実力はさらに上になります」
そう姪であるアイリに諭されて、フィリップは驚きで両目を見開いていた。
どうやらあまり鍛えているように見えない俺は、眷属たちに守られているだけの状態でダンジョンをさまよっていると思われていたらしい……。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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