(2)エイリーク王国に行く前に

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 アイリが改めて直弼に話をしたところ、護衛と文官の一人ずつを一緒に連れて行くことにしたようだった。

 これは事前にマクネアー家にも伝えているので、いきなり人数が増えて戸惑うことはないはずだ。

 この世界で現代日本でいうところの青森辺りからイギリスまで通じる通信手段があるのは不思議な感じがするが、その手段も過去にユグホウラが用意したものなのでそこまで驚くようなことではない。

 というよりもその通信手段が残っていなければ、わざわざ他国から嫁に来るほどの強い関係を保つことなど不可能だろう。

 人的交流は決められた時期にしか出来ないが、通信はほぼいつでも出来るので政治的な交流は頻繁に行われている証左でもある。

 ヒノモトとエイリーク王国の間で稼働している転移装置は今では津軽家にしか残っていないけれど、通信手段が残っている家はそれぞれに幾つかある。

 それを利用して商業的な繋がりは残っている状態だが、政治的に強い繋がりは津軽家とマクネアー家だけが残っているだけという。

 勿論、商業的な繋がりが残っている以上はある程度の政治的な繋がりもあるのだけれど、船での行き来になるのでそこまで強くはないといったところだろうか。

 

 ――とまあ、事前に色々と教えてもらえたのは良いのだけれど、肝心の国体というべきかお国柄についてはほとんど知らないままだった。

 ここまで引っ張る必要もないのではと思わなくもなかったが、アンネリやアイリたちがこちらの反応を楽しみにしていることがわかって何となく聞きそびれてしまっていた。

 そして今、久しぶりに会った直弼にそのことを話すと、実の娘であるアイリを見ながら少し呆れたような顔になっていた。

「そんなことをしていたのか」

「アンネリと楽しんでいるうちに、ここまでズルズル来てしまったのですわ。それにどうせならまつりごとを担っているお父様から話を聞いた方が、より客観的に話せるかと思いまして……」

「ふむ……。確かに一理あるが、楽しみのほうが大きいのであろう?」

 直弼のその言葉に、アイリはツイと視線を逸らしていた。

 見ようによってはアンネリとアイリから遊ばれているという構図になりかねないのだけれど、俺自身もその悪ノリに乗っかっていたのでそのことをどうこう言える立場にはない。

 

「直弼殿、その辺で」

「そうですか。キラ様がそうおっしゃるのであれば、ここで止めておこう。それでエイリーク王国の国体についてでしたか」

 そこまで言った直弼は、少しの間言うことを纏めるかのような表情をしてから再び口を開いた。

「エイリーク王国は、一言で言ってしまうと宗教国家でしょう。はっきりと分かるようには名乗ってはいませんが、これはそもそもの起こりからそうなっているので当然と見るべきでしょうな」

「宗教国家……と、国の起こりですか?」

 

 名前からはこれっぽっちもそれっぽさを感じなかったのと過去に何かあったのかと首を傾げた。

 エイリーク王国自体は、一周目を生きていた時にはなかった王国だが、その前身となるはずの国はあった。

 政変なのか外敵なのかは分からないが、二周目に入ったときには国の名前が変わっていたのであまり詳しいことを知らないという事情もある。

 そこまで考えた時に、ふと思いついたことがあった。

 

「そういえば、エイリーク王国にも守護獣がいると聞いていますが、どの種かまでは聞いていませんでしたね」

「なるほど。でしたらそこからお話したほうがよろしいでしょう。エイリーク王国の守護獣は吸血鬼あるいは吸血姫と呼ばれている種族になります。キラ様であればご存じなのではありませんか?」

「俺が……?」

 

 思わず素になって「俺」と言ってしまったが、それくらいに驚いてしまった。

 正直にいえば、エイリーク王国にいるはずの守護獣に関しては、ほとんどと言っていいくらいに思い出がない。

 一周目でユグホウラが攻略をした際には、もともと爵位持ちがいなかったはずなのでそれも仕方がないと思う。

 となるとユグホウラの関係者かそれに近しい存在が守護獣になっているはずなのだけれど、それの思い当る存在がいなかった。

 ましてや吸血鬼に絞られると益々分からなくなってしまう。

 

 意味が分からず首を傾げている俺に、ここまで黙っていたラックが助言を挟んできた。

「主、現在のエイリーク王国の守護獣はスイでございます」

「スイ……? ――って、あのスイ?」

「そのスイです」

「なんとまあ。何があったのか分からないけれど、随分と偉くなったもんだね。聞いた話だと公爵クラスだとか聞いたけれど?」

「ええ。主が戻られた時のために頑張ると張り切っておりましたから」

「それはまた。ありがたいけれど、少し可哀そうなことをしたかな。もう少し早く行っておけばよかった」

「それは恐らく大丈夫かと。アイ様ほどではありませんが、スイも半分以上は寝て過ごしているようですから。今もまだ催眠期にあるはずです」

 こちらの世界の吸血鬼の生態はいまいちよくわかっていないけれど、長期間寝て過ごすことができるようになっているらしい。

 

 そんな話をラックとしている間、直弼が興味深げにこちらを見て話しを聞き入っていた。

 そもそもユグホウラの関係者と話をするところはあまり見せていないので、色々と観察しているのだと思う。

 それに、そもそもの話自体も興味深いのだろう。

 エイリーク王国の守護獣が元世界樹の精霊と関係が深いと分かると、色々な意味で研究(?)が捗るのかもしれない。

 

「つまりはエイリーク王国の守護獣はスイで、宗教国家になっていると?」

 そう言いながら直弼に視線を向けると、少しばかり考えた様子になって首を振った。

「そう断言するのも微妙なところでしてな。確かに宗教国家とは言えるのですが、その信仰対象は守護獣様よりも世界樹様に向けられているようで……その辺りが周辺国家からすればよく分からないところです」

「あ~……うん。あのスイが守護獣だと言うのならその辺は何となく分かるかな」

 俺のその言葉に、今度は直弼をはじめとした人族側が驚いていた。

「なんとまあ。エイリーク王国の対象が守護獣に向いていないことは、長い間の不思議だったのですが……」

「いや。それをヒノモトの人族がいうのはおかしくない? 俺からすればどっちも同じだと思うけれど?」

 そう言われたヒノモトから来た者たちは、盲点だったという顔になっていた。

 どうやら自分たちのことになるとあまりよくわからなくなるという状況が、今回も当てはまったようだった。

 

「なるほど。つまりキラ様からすると、エイリーク王国の守護獣様はヒノモトにおけるタマモ様の立ち位置に当たるというわけですね?」

「そうだね。ただヒノモトにはルファがいるからね。エイリーク王国にいるのがスイだけだとすると、より信仰度が上になるのも分かる気がするね」

「本来守護獣様に向けられるべき敬愛の念を、全て世界樹様に振り切ってしまったというわけですか」

「あくまでも推測だけれどね。まだ実際に確認したわけじゃないから当たっているかは分からないよ」

「いえ……恐らく正しいと思われます。エイリーク王国の守護獣様は、あまりご自身が敬れることを望んでいらっしゃらないと聞いております」

「うーん。そうなの? その話だけ聞くと、俺が知っているスイと違っている気がするけれど……それは実際に会ってからの楽しみにするか」

 

 既にこの時点で、会えるかどうかも分からないスイと会うことが楽しみの一つになってきた。

スイがどうやってエイリーク王国の守護獣なんて地位に治まったのかも気になるところだ。

 恐らく詳しく知っているであろう眷属たちは、何故か含みを持たせて笑みを浮かべているだけなので話してくれるつもりはなさそうだし。

 折角新しい土地に行くのだから楽しみの一つや二つあってもいいと思うので、敢えて俺自身も聞かないで置こうと思う。




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m(__)m

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