第18章

(1)訪問準備

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 帝国への警告が終わってから十日ほどが経ったある日。

 アイリからとある報告を受けた。

「今、よろしいでしょうか?」

「うん。いいけれど。何かあった? ……って、もしかしなくてもエイリーク王国の件かな?」

「その通りですわ。両親から返答がありまして、是非ともということです」

 帝国とのごたごたの最中に、そろそろ別の地域に行ってみようという話が上がっていた。

 転移装置がある以上はいつでも行くことが可能ではあったのだけれど、さすがに帝国のことを放置したまま行くわけにはいかないとその時は保留になっていた。

 その問題が解決したことで、改めてエイリーク王国を訪問しようということになったのである。

 

 そしてアイリに動いてもらったのは、折角の機会なのでご両親にも訪問してもらうのはどうかと打診してもらうためだった。

 エイリーク王国との転移装置がしっかりと動作している津軽家ではあるが、今でも昔に決められた通りにしか動かしていないらしい。

 何故そんなことをと話を聞いた時には思ったが、その理由はなるほどと思わせるものだった。

 

 かつてヒノモトには、各地にエイリーク王国と通じる転移装置が設置されていた。

 その転移装置を利用して、エイリーク王国を経由する形でシーオから利益を得ようと各家が動いた結果、ユグホウラが望まない形で話が進むこともあり、結果として装置にメンテナンスができなくなり今では使えなくなっているそうだ。

 津軽家で未だに転移装置が動いているのは、ユグホウラとの約束ごとから逸脱することなく使い続けることができていて、きちんとメンテナンスが行われているからだ。

 利用できなくなった転移装置は、好き勝手に利用されることを嫌って既にユグホウラで回収されているとのこと。

 そうした事情から今現在のヒノモトでは、津軽家を除けばエイリーク王国と繋がるルートは持っていないということになっている。

 

「それにしても津軽家も律儀というかなんというか……。里帰りくらい自由に使えばいいのにと思ってしまうけれどね」

「そういうわけに参りませんわ。転移装置を好き勝手に私的利用すれば、よくない結果にしかならないということは歴史が証明しております」

「それを言われると何も言えなくなるけれど、そこまでのことかと思ってしまうよね」

「利用した代はまだ大丈夫ですが、次代次々代となるにつれて悪影響があると分かっていますわ。規則通りに守って使っていれば、そのようなことも起きにくいのですから守り続ける意味はあるのだと思います」


 代々の教え――というか守りごとを律儀に守り続けている津軽家ではあるが、何も家としての使命からというだけではなく実務的な理由からも守る理由があるそうだ。

 勿論第一義として『ユグホウラから受けた恩は忘れるな』という教えがあることは間違いないのだろう。

 いずれにしても結果論として、ツガル家だけがエイリーク王国につながるルートを残している事実は間違いない。

 それが教えを守り続けて来たからなのか、教えのお陰で各当主が自制できたからなのかは判別が難しいとは思う。

 

 今回は『始まりの方々』が認めている俺が利用するという名目になっているため代々の教えに反することにはならない……らしい。

 穴だらけの抜け道のような気もしなくもないけれど、少なくとも気持ちの問題ではそれでいいことになるそうだ。

 結局のところ好き勝手に使っているうちにそれが当たり前になって、昔の約束事など忘れてしまうことが問題なのだろう。

 あくまでも俺が使うのに便乗することになるだけなので、代々の教えには反しないという……。

 

 それは、津軽家の教えがどういうものか詳しく知らない俺が口を挟む問題ではないと考えている。

 なので、結果としてアイリの両親が一緒に行くことになるということの方が重要だ。

「――ところで、行くのはご両親だけなんだね。他は……例えば晴宗君とかは?」

「兄は以前の件の『教育』がまだ終わっていないので、今回は見送りになるそうですわ。キラ様の恩情で行けるだけなのに、勘違いされては困るそうです」

「あ~……なるほど。まあ、その辺はこちらが口を出すようなことではないからいいか。それに護衛も一緒だと思ったんだけれど?」

「今回は母の領地から出ることはないので、必要ないだろうとのことです。最低限の護衛はあちらで用意するでしょうから、一歩も外に出られないということもないと思いますわ。あと父はあいさつ程度で済ませて戻るそうですから」

「そうなんだ。それならいいけれど、もっとゆっくり……はできないか」

 こちらの世界でもお嫁さんにした相手の実家を訪ねるというのは気まずい思いをするようなので、直弼もあまり居心地よく過ごすことは出来ないのだろう。

 それならあまり長居をしたくないという気持ちも分からなくはない。

 

「こっちとしてはいつものメンバーに二人が加わるだけだからいいけれど……あと二人くらいは追加したらとも思うよね。護衛はいいとしても文官の一人や二人はいた方がいいんじゃない?」

「それは……確かにそうかも知れませんわ。あと私の言い方も悪かったかもしれません。キラ様にあまり負担はないと伝えていなかったので」

「それは言ったほうがいいかな。直弼だと間違いなく遠慮しているから。マクネアー家の方は分からないけれど」

 マクネアー家はアイリの母親であるクリスティーナの実家になる。

 アイリにとっては祖父母や伯父の家ということになる。

 

「そういえばきちんと聞いていなかったんだけれど、マクネアー家の領地にはダンジョンはあるの?」

「勿論ございますわ。ダンジョンの管理もマクネアー家の管轄になりますので。むしろだからこそユグホウラとの繋がりも強いのですが」

「うーん。その辺はよくわからないな。別にユグホウラはダンジョンに直接関与しているわけじゃないんだけれど」

「それは内情を知っているキラ様だからこそ言えることです。知らない者からすれば、ダンジョンと魔物の集団ユグホウラを結び付けて考えてもおかしくはありませんから」

「それはそうなんだけれどね。一応ヒノモトと同じくユグホウラとの繋がりが切れていない国だったら知っていてもおかしくはないと思うんだけれど」

 俺がそう言うと、アイリは一瞬だけ不思議そうな表情になってから納得した様子で頷いていた。

「そういえば、エイリーク王国のことは敢えてお知らせしていなかったのでしたね。確かにエイリーク王国の民はユグホウラとダンジョンが直接関係あるとは考えていません。ただ管理を一つにしているというだけです」

「……ん? なるほど、そういうことか。ユグホウラと野生の魔物は一括りにはしていないけれど、同じ魔物ということで管理が一緒ということね」


 聞けば納得できる話だったので、すぐに理解することができた。

 裏を読めばエイリーク王国から見ればユグホウラも『外敵』であることには違いないわけで、討伐も含めて魔物関係を統括している家が担当するのは何もおかしくはない。

 ちなみにエイリーク王国についての詳しい情報は、敢えてどこからも聞いていない。

 以前アイリやアンネリから話を聞こうとしたことがあるのだけれど、何故か含みのある表情をされて詳しく話を聞くことができなかったのだ。

 眷属たちも似たような表情になっていたので、なんとなく聞きそびれていた。

 今回エイリーク王国に行くことになったので改めて話を聞こうとしたのだけれど、何故か『行けばわかります』と言われて聞くことは出来なかった。

 そういうことも含めて何気に楽しみにしているエイリーク王国への訪問だけれど、あまりに期待値が上がり過ぎてがっかりすることがないようにしたい。




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m(__)m

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