(13)結果報告

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 第二世代の子たち眷属にやってもらった帝国への『脅し』は、予想以上の効果を発揮することになった。

 ある意味では国としての恥となる皇城の中央への侵入について、帝国は何故か噂が広まるのを止めなかったからだ。

 人の口には戸が立てられないということわざもある通りに、全ての情報をストップするなんてことは不可能だからということもあるのだろうが、どういう意図があって放置したのかは敢えて調べていない。

 もっとも噂が広まっているのは、各国の貴族階級くらいで一般階級にまで話が伝わることはなかった。

 これは帝国が狙ったというわけではなく、帝国の中央にまで簡単に入り込まれたという事実がそれぞれの国の民衆にまで知られて動揺が広がらないようにするためにそれぞれの国で対応した結果だと思われる。

 早い話が『ユグホウラはやばい』という認識が、それぞれの国の上層部にのみ広まっていったということになる。

 こちらとしてもむやみやたらに民衆にまで仕掛けるつもりはないので、状況的には美味しい結果になっていた。

 これでそれぞれに国が色々と対応を変えてくれるだろうと、淡い期待を抱いている。

 

「――また随分と派手にやったもんだな」

 そう少し呆れた様子で言ってきたのは、一応今回の件の後始末がどうなったのかを知らせるために呼んだカールだった。

 隣にはラウも座って話を聞いている。

「カール、派手とかその程度で済ませていいのか? まあ、それはいいとして、何故俺たちにその話をした? 言わなければ知ることもなかっただろうに」

「平民レベルにまで話が来ることはないだろうからね。もし来たとしても数か月単位でかかるんじゃないかな。それはともかく、いずれは必ず話が一般レベルにまで広まると思うからだね」

「このまま貴族連中だけで収まるんじゃないか?」

「無理だと思うよ。人族の場合、情報は抑えようとすればするほど、どこかでほころびが出るからね。必ず広まるなら先に知らせておいた方がいいと思ったんだよ」

 今は貴族でも上の身分の中だけで情報が広まっている。

 ただし、それがいつまで続くかは不透明なところはある。


 数の限られた情報を手に入れた者は、それを利用して自分の立場を上げようとするものだ。

 例えば金を手に入れたり、あるいはより上の立場をねだ(強請ゆす)ったり……etc。

 これが当事国である帝国だけならまだしも既に他国に広まっている状況で、それを止められるようなものではない。

 直接的な軍事脅威があるならともかく、そうでないのであればことわざ通りの状況になるはずだ。

 

「――もし帝国が初期の段階で話を広めたら刑罰を与えるとかしたなら広まらなかったかもしれないけれど……いや。どっちにしても無理か」

「それは何故……そうか。表から堂々と侵入されている時点で隠すことなど不可能か」

「そういうこと。死者は出していないけれど、怪我までは抑えられていないからね。城の中で勤務していたはずの騎士たちが大勢怪我したなんて噂が広まったらどうなる?」

「なるほどな。不確定な噂で国内を混乱させるよりも、ユグホウラの魔物が来たということで最小限に収めたわけか。どっちが良かったのかは分からんがな」


 帝国は要するに、訳の分からない正体不明な相手に侵入されたとするよりも、昔から強大な勢力として有名なユグホウラに入り込まれたとする立場を取ったというわけだ。

 それがどんな意味をもたらすことになるのかは、もう少し時間がかかることになる。

 どちらにしても、クランに対する嫌がらせはこれで収まるはずだ。

 皇城に侵入した眷属たちが言ったらしい『脅し』を実際に実行することにならなければいいなとは思っている。

 

「ユグホウラの魔物も、どうせ大したことはないと舐めていたらしいけれどね。現実に目の前に来られて慌てたとか」

「それがよくわかんねーんだよな。実際に魔物の生息域を広げることすら出来ていねーのに。何故『舐める』なんてことができるのか。――一部の馬鹿な冒険者じゃないだろうに」

「さてね。国家という力を持ったことによって、自分たちが強いと錯覚したのか。もしくはユグホウラの魔物が直接出て来ると考えていなかったのか。あるいは突くことで『話し合い』ができると考えたのかもね」

「話し合いねえ……。最初から受け付けませんよと言っているのに、何故自分たちには通ると思っているのかが分からんな」


 カールもラウも「貴族や王が考えることはよくわからん」と首を左右に振っていた。

 人が自分にとっての都合のいい話しか耳に入ってこないと言われているように、国家もその国にとって都合のいい言葉しか耳にしなくなるのかもしれない。

 もっとも小国がそうなったときは、下手をすれば国が滅んでもおかしくはないだけに、余程のことが無い限りは相手を舐めるなんてことはしないのだろう。

 大国は強大な力を持っているがゆえに、そうした都合のいい話ばかりを聞くようになって、いずれは栄枯盛衰の憂き目に会うのだろう。

 

 帝国からすれば『話し合い』を考えてちょっかいをかけて来たのに、いきなり本命が攻めて来たので慌てたということもあるのだろう。

 いずれにしても帝国はこれでしばらく大人しくなるはずなので、クランの活動も以前のように戻してもらう。

 まだまだクランに関しての諜報は行われているようだけれど、それは別に構わない。

 そもそも近所のおばちゃんに「クランの情報を誰にも話すな」と言っても無駄なことはよくわかっているので、諜報活動を完全にゼロにすることなど不可能だと考えている。

 

 

 カールとラウと別れた後は、いつものように地脈探索に戻った。

 こちらも順調に進んでいるとはいえ、気になることがあるたびに確認しているので他のプレイヤーと比べても早く進んでいるということはない。

 もしかすると魔力珠の中に入って移動しているからこその特別な何かが発生するかもしれないので、丹念に調べることにしていた。

 

 そもそも地脈の中央を目指しているのはマナに対する五感をえることなので、中央に着かなくても得られるのであればそれにこしたことはない。

 ただ地脈探索が出来ている全てのプレイヤーが中央を目指しているのは、ガイアからの助言があったからだ。

 となると中央に行かない限りは、五感を得ることは出来ないという可能性が高い。

 だとしても折角探索が出来ているので、気になるところを無視して進むことは性格的にできないので一つ一つできる限り調べておくことにしている。

 

 地脈の探索をしているときに気になることがあったからといって、それが何らかの成果になるとは限らない。

 ……というよりも、何の成果にもならないという結果のほうが多い。

 なので、調べるといってもある程度の時間制限は設けている。

 それでも環境が変われば色々と違って来るところも多く出て来るので、それらのチェックに時間がかかっているというのが現状だったりする。

 

 すでに今の状況では中央に一番のりしてどうなるのかは、他のプレイヤーの確認に任せているので、掲示板のチェックも欠かせない。

 中にはそろそろ中央に着きそうだと考えているプレイヤーも何人か書き込み始めているので、本当に時間の問題だと考えている。

 中央に着いてマナに対する五感を得た時、何かが大きく変わると信じてほとんどのプレイヤーが動いている。

 そのため中央に着いた時にどうなるのかの情報を待ち望んでいるプレイヤーは、俺以外にも多くいると思う。

 

 問題なのは、いまのところ掲示板にはそれらの情報は問題なく書き込み、閲覧ができているけれど、中央に関する情報が制限される可能性があることだろうか。

 以前もマナに関する情報が閲覧できなくなったという前例があるだけに、あり得ないことではない。

 もっともそうなったらそうなったでできる限り早めに中央を目指せばいいだけなので、これからもやることは変わらないだろう。




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m(__)m

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