(12)決着

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 < Side:???続2(第三者) >

 

 シーオ地域での大国の一つ、イカルギ帝国はその評価の通り軍事力も強大だとされている。

 ここ十年を振り返ると一度も戦争や起こしていないが、さらにさかのぼれば幾つかの国を飲み込むほどの力を持っている。

 帝国が大国であるといわれる要因の一つはその土地の広さであるが、その広い土地を維持できるだけの強大な軍事力もまた原因の一つとなっている。

 そんな帝国であるがゆえに、皇城の守りは世界有数だと

 その皇城にたった四人で入り込み、しかも皇帝の眼前までたどり着いたというその事実は、各国関係者を震え上がらせることになる。

 もっともそれは後から知った外部の人間の反応であり、今まさにとてつもない力を見せつけられている当事者たちにとってはそれどころではない。

 頼みの綱である元帥はあっさりとのされて、床に転がされている。

 死んではいないことはうめき声を出していることから分かるのだが、すぐに戦線復帰できるような怪我ではないことは誰にでもわかる状態だ。

 

 そんな状態にあるにも関わらず、皇帝はただ一人帝国側では今まで通りの態度で椅子に座っていた。

「――外からの応援はどうなっているのか?」

「そんなもの私が防いでいるに決まっているじゃない」

 皇帝の問いに答えたのは、三人の侵入者がこの部屋に突入してくる前からいた最初の侵入者だった。

「そうか。それでお前たちは何をしている? 私の命を取りに来たのではないのか?」

「要らないわよ、そんなもの」

「何?」

 さすがに驚いたのか、これまであまり表情を変えていなかった皇帝がここで初めて驚きの表情を見せた。

「ここであなたの命を取ったところで、どうせ次の皇帝が立つだけだもの。所詮は歯車の一つということよね」

「なるほど。それは確かにその通りだな」

 歯車呼ばわりされたにも関わらず、皇帝はまた表情をもとに戻して頷いていた。

 

「では、何故こんな騒動を起こしに来たのか、聞いてもいいのか? 私を傀儡にしに来たわけではないのだえあろう?」

「はいはーい。正解!! 私たちの目的は主に二つよ!」

「一つは強大な帝国と呼ばれて良い気になっている軍人さんたちに、自分たちが簡単に滅ぼされる存在だと知ってもらうこと。この国にいる貴族なんて、いつでも倒せるのよってね」

「もう一つは、私たちに対する余計な手出しを止めてもらうことよ」

 三人組がそれぞれ発言したことで、皇帝だけではなく宰相も含めてようやく話に意識が向き始めていた。

「さて? そもそもお前たちがどの立場にいるのか、私には判断がつかないのだがな」

「あらあら。そもそも人族でこんなことができる存在がいるのであれば、皇帝の耳には入っているのでは?」

「そういうこと。というか、最初から当たりを付けているのに、わざわざ伏せて聞いて来るのは小者感があるわよね。大物に見せようとしている感があって」

「それは失礼をした。それで、表だって活動することのないが来たのは何故か」

「だから言ったじゃない。私たちへちょっかいを掛けるのを止めなさいってね」


 侵入者の一人の「ちょっかい」という言葉に、皇帝は本気で何を言われているのか分からないという顔になっていた。

 そこで助け舟を出すように、この状況に震えていた宰相がようやく口を開いた。

「陛下。恐らくヘディンのことではないかと……」

「宰相、正解! アレは、私たちが提供したものだってわかっているのでしょう? 使っているのがユグホウラではないにしても、あれに手を出すことは私たちへの手出しと同じことよ」

「……なるほど、承知した。この場で手出ししないと約束すれば、引いてくれるのか?」

「そうね。ただし、もしこの場限りの約束でまた同じようなことをした場合、次は公爵家の一つでも潰しましょうか」

「それでも駄目なら他の公爵家、その次も……と。言っている意味は、分かるでしょう? 私たちにはそれができるだけの力がある。もし帝国の存在そのものを掛けたいのであれば、嘘の約束でもなんでもすればいいわ」

 そう言った侵入者の一人は、楽し気な言い方とは裏腹にその目は全く笑っていなかった。

 もっとも彼女たちがユグホウラの関係者だと名乗っている以上は、人族ではないことはこの場にいる皆が予想できているのだが。

 

 帝国を支えている貴族家を一つ一つ潰していく。

 その言葉は、まさしく帝国を潰すと言っていることに等しい。

 ただし貴族家の一つを無くしたところで、強大で広大な帝国がすぐに潰れるわけではない。

 一つ二つと潰された貴族家が増えていくに従って、徐々に皇室への怒りが増えていくことになるはずだ。

 

 この場にいる帝国関係者は、皆が高い地位にいるだけにその意味は十分に通じている。

 だが、だからこそ言えることもあった。

「貴族家全員を殺すなんてことをしてみろ! 貴族だけではなく民衆全ての怒りがユグホウラに向かうぞ!」

「だれが一々全員を殺すなんて言ったのよ。ため込んだ財産を奪い取るなり、自然災害を装って経済を止めるなり、やり方なんていくらでもあるでしょう?」

「そうそう。それに弱った帝国であれば、喜んで立ち上がってくれる存在なんていくらでもいるのでは? 周辺国家のみならず、身内の中にもね」

 過去において多くの国を飲み込んできた帝国だけに、それなり以上に恨みはかっている。

 それらの存在を利用すれば、帝国など潰すことができるというわけだ。

 そして肝心の帝国を弱める手段は、ユグホウラの力を使えばいくつもあるという。

 その言葉が事実かどうか確認する術はないが、ユグホウラであればと思わせるのは過去にあった数々の出来事が証明している。

 

 他の国からこれほどの脅しがされたのであれば、ではこちらから打って出ると言い返すことができるだろう。

 だがユグホウラが魔物の国で、とても帝国一国だけでは太刀打ちできないということは彼女たちの存在だけでも証明されてしまっている。

 それが分かっているからこそ、この場にいる帝国の者たちは何も言えずに黙って聞いているしかなかった。

 力によって周辺を従えて来た帝国だったが、今回は完全に逆の立場となっていた。

 

 黙ったままの周囲を見てどう思ったのかは不明だが、ここで皇帝が再び口を開いた。

「そうか。ヘディンへの手出しを止める。それだけで引いてくれるのだな?」

「違うわよ。ヘディンではなくアレを扱っているクランの関係者全てへの手出しよ。そこは間違えないで」

「分かった。もう二度と帝国がそのクラン――「『大樹への集い』よ」――『大樹への集い』への手出しをしないと皇帝として約束しよう。それでいいのだな?」

「勿論よ。私たちはあなたたちと違って嘘はつかないわ。勿論、あなたが嘘を吐いた結果どうなるかを話した内容も含めて、ね」

「わかった」

 その言葉はこの場においてはこれ以上ないほどの脅しではあったが、皇帝はすぐに頷いていた。

 

 それを確認した四人の侵入者は、それ以上のことは何も言わずにオトも立てずにその場からその姿を消した。

 彼女たちの姿が消えたとたんに、それまであった張りつめた空気が一気に消え去った。

「――欲を出したが故に、余計なものまで呼び込んでしまったか」

「ですが陛下。アレにそれだけの価値があると……」

「分かっておる。だがこれだけのことをされた以上は、もはや手出しは無用だ。私一人の命だけならともかく、帝国そのものを潰されるわけにはいかぬ」

 その皇帝の決断に、倒れたままだった元帥は護衛たちも含めたこの部屋にいる全ての者たちが頭を下げることになるのであった。




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m(__)m

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