(11)乱入者

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 < Side:???続(第三者) >

 

 クラン『大樹への集い』の拠点での騒ぎがあった二日後のこと。

 シーオの人々からは「帝国」と呼ばれているイカルギ帝国の皇城にある一角で、二人の人物がいつものように話し合いを行っていた。

 一人は城の主である皇帝その人で、もう一人は実務的な業務のすべてを担っている宰相である。

「――それで、結局例の計画は失敗となったわけか?」

「最終計画時にあっさりと捕まったそうですから、立て直しも不可能でしょう」

「中々良い報告をしてくると思っていたが、やはり虚偽であったか。所詮はAにも届かない冒険者というわけだな」

「左様ですな。ですが、次を用意するまでの時間が空いてしまったのは痛いところです」

「間断なく仕掛けて疲弊させる……か。相手を休める時間ができたのは確かだが、そこまで気にするようなことではないであろう」

 大した問題ではないという顔をしている皇帝に対して、宰相は小さく頭を下げていた。

 

 それだけで帝国から見た一地方の話は終わり、次の話題へ移――ろうとしたところで二人が会話している部屋に予定に無かった新たな人物が現れた。

「失礼いたします。緊急報告です!」

「話なさい」

 本来であればきちんとした礼に則って部屋に入るべきところを略式で来た騎士を見て、宰相が短く返した。

「ハッ。城の正面から侵入者があり対処に手間取っております。侵入者は目的が皇帝だとはっきり言っておりますので、ご避難ください」

「侵入者程度のことで何を言っているのですか。あなたたちで押さえればいいだけではありませんか」

「それが、その侵入者の力が尋常ではなく……既に多くの仲間が倒されております!」

 報告者のその言葉を聞いて思わず「何を馬鹿なことを」と言おうとした宰相だったが、すぐにその言葉を飲み込んでいた。

 常識だとあり得ない事態ではあるが、ことは皇帝の命に関わることだけに軽視することは出来ない。

 

「侵入者は何名ですか? どこまで入り込んでいるのですか」

「確認できているのは三名です。もうすでに中央部にまで及んでおります。侵入スピードが尋常ではなく……各団長方も対処に手一杯で、私が報告に上がることになりました」

「バ、バカな……」

 当たり前だがシーオと呼ばれる地域では五本の指の中に数えられるような大国である帝国だからこそ、城の防備も難攻不落といっていい状態で警備が行われている。

 それをあっさりと越えるだけではなく、実際に皇帝の命を脅かすほどのところまで来ていることに、さすがの宰相も驚きの声を上げた。

 しかもたった三名の侵入者でそれを行っているということから、非常識を通り過ぎてただの夢ではないかとさえ思えて来る。

 

 宰相がさらに状況を問い詰めようと声を上げ……ようとしたところで、さらに部屋に入ってきた者たちがいた。

「元帥! 親衛隊長、どうなっている!」

「皇帝。こちらはもう駄目です。お逃げください」

 宰相の問いに、親衛隊長が簡潔に答えた。

 親衛隊長や元帥の顔を見れば、冗談でもなんでもなく状況が切迫していることが分かる。

 それを見た皇帝は、落ち着いた様子のまま問いかけた。

「それほどか?」

「こちらに来るのももう間もなくかと。どうあっても、ここにいる者たちでは押さえられそうにありません」

「そうか。それでは逃げよう」

 ここで変なプライドのある統治者であれば、喚き散らして部下たちにどうにかしろとだけ言うだろう。

 だが皇帝はそこまで愚鈍ではなく、素直に彼らの言うことを聞いて行動しようとしていた。

 

 ところが、皇帝の言葉に元帥と親衛隊長が護衛をしながらその場を離れ――ようとしたところで、不意にこれまでなかった者の声がこの場に響いた。

「それは困りますね。皇帝にはこの場にいてもらって、己の愚かさをかみしめていただきます」

「誰だ!」

「すぐに反応できたのはさすが親衛隊長だと思いますが、あまりに遅すぎですね。せめて部屋に入ってきた段階で気付くべきではありませんか?」

 皇帝を始めとしたこの場にいた全員にとっての乱入者(女性?)は、慌てる様子すら見せずにのんびりと続けた。

「折角こちらの実力を見せるために、ここまで正面突破をして来ているのです。あなた方に逃げられると困るので、ここにいてもらいます」

「何を言って……っ!?」


 何よりも皇帝を逃がすことを優先している親衛隊長は、皇帝の近くから離れることができない。

 その代わりに宰相が普段は隠されている逃げ道の一つを確認していたが、何故か開くはずの扉が開かないことに気付いた。

「無駄ですよ。この部屋に仕込まれている隠し通路は、全て防いでいます。魔法の結界で魔力的に閉じてもいますから……おっと」

「お前を倒せば、道が開けるということだろう」

 乱入者の言葉を信じたのかどうかは不明だが、元帥が真っ先に動いて切りかかっていた。

 もっともその攻撃はあっという間に無力化されて、元帥は地に伏せることになった。

 

 現在の元帥は、名ばかりではなく実力も伴っている。

 多くの兵を纏める立場であるだけに年はそれなりに取っているが、それでも国内では上から数えたほうが早い実力者だ。

 その実力者が一度剣を振るっただけであっさりと取り押さえられた事実に、皇帝と親衛隊長を除いた他の者たちは驚きに目を見開いていた。

「おや。もう少し喚くと考えていたのですが、上に立つ者としての覚悟は持っているようですね」

「貴様!」

 未だ余裕のある態度を崩さずにそう言ってくる乱入者に対して、皇帝の傍から離れることができずにいる親衛隊長が睨みつけていた。

 

 ちなみに当たり前だが、皇帝の傍にいる親衛隊は隊長だけではない。

 複数の蜃影隊員がこの間も状況を打開しようと果敢に乱入者に向かっているが、その全てを簡単な様子でいなしている。

 剣を使わずにその場をほとんど動くことなく会話を続けながら行っていることで、魔法的な何かが行われていると推測できるがどんな魔法が使われているかまでは全く分からない状態だ。

 魔法の使える者たちも参戦しているが、全く手も足も出ないという状況となっている。

 

 皇帝にとってはまさしく絶望的という現状だが、当の本人は表情を変えずにじっと乱入者を見ている。

「――一つ聞くが、この場に守護獣が来ていないのはお前のせいか?」

「その通りですよ。この場に来られると邪魔になるので、お休みしてもらっています。口ばかり威勢のいい若造でしたが、さほどではありませんでしたよ」

「……そうか」

「まあ、そういうことですから。あなた方は、しばらくそのままで待っていてください。もう少しで来るはず……おや、来ましたね」

 

 乱入者がそういうのとほぼ同時に、出ることができなくなっているはずの入口から新たな乱入者が三名現れた。

 その三名は全て女性で、城の入口からここに来るまで多くの騎士たちを倒してきたはずなのだが、息を切らすことなくむしろのんびりとした様子で部屋に入ってきた。

「やれやれ。もう少し手ごたえがあると考えていたんだがな」

「そう言ってやるな。所詮は人の兵だ。むしろ練度は高かったんじゃないか?」

「あなたたち、もう少し真面目にやりなさい。折角の久しぶりの表立った実戦なのですから」

 三者三様の言葉を口にしながら入ってきた彼女たちだったが、その口調はまるで近所の公園に散歩に向かっているようだった。

 

 帝国が起こって二百年以上経っているが、ここまで敵対する勢力に踏み込まれたことは一度もない。

 それにも拘らず、乱入者の四人はこれが当たり前という態度で改めて皇帝を見るのであった。




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m(__)m

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