(10)実行からの退場

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:???(第三者) >

 

 夜の闇というのはどの世界でも平等に訪れる。

 ただし現代日本やその他がそうであったように、人の技術によっては闇を払う光をともすこともできるようになる。

 ヘディンにあるクラン『大樹への集い』の拠点もまた、施設の一部は常に魔道の光によって明るくされている。

 その場所が一日中明るいことはクランメンバーにとっては普通のことであって、逆に暗くなればそれが異常事態だという認識になっている。

 だからこそ闇夜に紛れて行動する者たちにとっては、容易に近づけなくさせる場所となっている。

 深夜、皆が寝静まっているはずの時間にコソコソと動き回る者がいれば、何をしているのかと不思議に思われるのは当然のことだからこそ怪しまれることになる。

 

 そんな限定された不夜城で、この日コソコソとではなく堂々ととある扉に近づく者たちがいた。

 冒険者たちが寝泊まりしている宿泊施設とは別の棟になっているこの場所は、基本的にメンバーが近づいて来ることはない。

 ただ別に出入り禁止にされているわけでもなく、用事がないから近づくことがないという感じになっている。

 そんな場所に、しかも深夜ということで普通に考えれば怪しいことこの上ないのだが、当人たちはいたって普通の様子で歩いていた。

 

 皆が寝静まっている深夜だからこそということもあるのだろうが、ここ数日の間にコソコソと動き回ったほうが逆に怪しまれると考えたのだろう。

 目的の扉まで近づいたその者たちは、二人が扉を挟んで左右の側を油断なく観察し始めた。

 そして残りの一人はスッとしゃがみこんで扉の鍵穴を覗き込んだと思うと、何かの道具を取り出してその鍵穴に差し込んだ。

 それからしばらくは、鍵を開けようと奮闘する時間が続くことになる。

 

 三人のうちの二人が見はり、残りの一人が鍵の解除という体制は十分ほど続いた。

 そして静かな廊下の中で、わずかに「カチリ」という音が響いた。

「ヨシ。さすが俺。何が最高峰の防御施設だ。俺の手にかかればこんなものよ」

「――終わったか。入るぞ」

「おいおい。もう少し褒めてくれてもいいんだぜ?」

「時間がない。仕事はしっかりと完遂する」

「チッ。分かったよ」

 不満そうにしながらもその顔に笑みが浮かんでいるのは、難物である扉を越えたからか。

 いや。実際には『越えることができたと思い込んでいた』のだが。

 

「……ア?」

 小さな声で会話をしていた二人よりも先に入った残りの一人が、部屋に入るなり小さく声を上げていた。

 その声に釣られて残りの二人がその人物の顔を見て、さらに警戒するように見つめている視線の先を確認した。

「――なんだ。なんでこんな時間にこんなところに事務がいるんだ? 駄目じゃないか。ここは進入禁止の場所じゃなかったか?」

 そう言いながら部屋の片隅にいたクランで事務として働いている女性に向かって近づいていた。

 その顔には酷薄な笑みが浮かんでいるのだが、残りの二人も似たり寄ったりの表情を浮かべている。

 その様子を他の誰から見ていれば、これから女性がどんな目に合うのか分かってすぐに応援を呼びに行くだろう。

 

 ただし、この場には残念ながら侵入者三人とその女性しかいなかった。

 だが侵入者たちから分かりやすい感情を向けられた事務女性は、あからさまに大きくため息を吐いた。

「もう少しと思っていたのですが、この時点で三流以下だと分かってしまいましたね。一流であればそんな呑気な顔をせずに、さっさと片付けていますよ」

「あん……? 何を言っているんだ」

「もういいです。どうせ話も通じないでしょうから。――一応言っておきますが、そこの扉の鍵は魔法も何もかかっていないごく普通のものです。ある程度シーフ系の力があれば、誰でも開けられますよ」

 少しの憐憫の表情を浮かべながらの言葉ではあったが、間もなく目的が達成できそうな侵入者たちにとっては馬耳東風であった。

 

 事務女性もそれ以上話すつもりはなかったのか、何故か右手を軽く上げてから小さく横に振った。

「なっ……!?」

 たったそれだけの動作で、横にいた仲間の一人が倒れたのを見て残り二人が驚愕の表情を浮かべる。

「遅いすぎです。もう少し早く反応できないとどうしようもないですよ?」

「お、おい! やべえぞ!」

 ようやくこの状況を理解できたのか、残った二人のうちの一人が慌てた様子で反対側の隣を見た。

 ……のはいいのだが、その時には既に先に倒れた仲間と同じように床に倒れていた。

 

 残った一人が慌てて対処しようとようやく腰に刺した剣を握――ろうとしたところで、他の二人と同じ運命を辿ることになった。

「全く……。この部屋に目的のものがあると突き止めたのはいいですが、あとはお粗末すぎですね」

 そんなことを女性が呟いていると、部屋の外から人が近づいて来る物音がしてきた。

 そして待つこと数秒後のこと――、部屋にカールがパーティの仲間を連れて部屋に入ってきた。

「お……? もう終わっていたか。手間をかけさせて済まないな」

「構いません。これが私の役割ですから。それよりもきちんと連絡は届きましたか?」

「おう。全く問題なかったな。さすがに蜂がしゃべったのは驚いたが」

「そうですか」

 カールの言葉に女性が頷いて左手を差し出すと、その手に数匹の蜂が近寄って行った。

 この蜂たちの呼びかけで寝ていたカールたちがここまで駆けつけたというわけだ。

 

「後始末はお任せしてもよろしいでしょうか?」

「おう。そのつもりで呼んだんろう? それはいいんだが、お前さんが前面に出てきてよかったのか? てっきり最後まで隠しておくのかと思ったんだが」

「問題ありませんよ。私の実力が知られたからといって、どうにかできるわけではありません。何よりも『あのお方』の指示でもありますから」

「そうか。それならいいんだ。それにしても、こいつらもそれなりに実力はあるはずだったんだがなあ。姉さんにかかればあっという間か」

「大丈夫です。あなたたち相手だともう少し手間取りますから」

「そこはできれば『もっと』と言って欲しかったがね。まあ、事実だから言っても仕方ないか」

 

 事務女性の言葉に苦笑しながらも、カールはその言葉を認めていた。

 カールたちにとってこの女性は、有難い依頼を持ってくるだけではなく宝の山と言っていい拠点を守ってくれている有難い存在である。

 侵入者の三人は倒されてしまったが、命まで取られたわけではない。

 ということは、その口から彼女の実力が明らかになるのは止められるものではない。

 今まではその実力を隠していたが、今の段階になってそれを明らかにしたということは何かしらの意味があるはずだ。

 

 そのことを分かっていても、カールたちが問いかけることはない。

 彼女が誰の『命令』で動いていて、今回敢えてそういう立ち回りをしたのかはカールたちにとっても明らかだからだ。

 もし本気で気になるのであれば、その命令を下した人物に直接問いかければいいだけのこと。

 何よりも今カールたちの目の前にいる女性が、答えを教えてくれるとは思えない。

 クランにとってはなくてはならない存在であるだけに、彼女の機嫌を損ねることは絶対に出来ないとカールの表情は語っていた。

 

 そしてカールたちは彼女との会話はそこそこにして、倒れている三人の男たちを担ぎ上げながら部屋から出て行った。

 男たちの目が覚めるのを待ってからある程度の事情聴取をして、あとは行政に引き渡すことになる。

 行政がどの程度の対応をしてくれるかは不明だが、トップである子爵がある程度の事情を知っているだけに、それなりの対応になるはずだ。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る