(9)糸の先には

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 クランをかき乱そうとしているパーティの情報は、わりと簡単に手に入れることができた。

 パーティの名前は『餓龍』で、以前はノスフィン王国内で活動していたBランクパーティだそうだ。

 ノスフィン王国内にあるもう一つのダンジョンで活動していたところで、クラン『大樹の集い』の噂を聞きつけてやってきた……ということになっている。

 ただし以前と比べて装備の質が一段上がっていたり、生活の羽振りもよくなっていたりとどこかで大金を手に入れた可能性があるようだ。

 それだけでも関与が疑われると言っているようなものだけれど、残念ながら決定的な証拠はつかめていない。

 理由は単純で、彼らがまともに冒険者活動をしているのは確かで、割と真面目にダンジョンに潜っているためだ。

 彼らを動かしていると思われる相手もこちらを警戒しているのか、そう簡単に接触を図ったりはしていない。

 そのためどこからの援助を受けているのか、というところまでは調べ切れていないというのが現状である。

 

 本音としては帝国で間違いないのだろうとは考えているのだけれど、今の段階ではただの想像でしかないので動くことはできない。

 完全に裏を取ることができれば、その時は動くつもりではある。

 問題は帝国ではなく別の国の関与があった場合だけれど、その時は国の名前が明らかになった段階で考えるしかない。

 少なくともノスフィン王国の関与はない……と思いたいところだが、絶対にないとは言い切れないのは相手が国家という大きな組織だからだろう。

 

 ラウと数日前に話したことについてはすぐに実行したようで、クラン内では驚きと共に一部では納得もされていた。

 驚きは個人でこれだけの魔道具を持つことができるのかというものだけれど、一部の納得は初期メンバーが「あのキラならあり得る」といういささか不本意なものになる。

 とはいえその感想も的を射ているというか、むしろ通常の感覚としてはそちらのほうが正しいと分かっているので訂正させるつもりはない。

 クラン内で微妙に居心地が悪くなりそうではあるが、そもそもクランに直接顔を出すことをしていないので甘んじて受け入れることにしている。

 

 そんなこんなで、それから一週間ほどは大きな動きもなく日常を過ごしていた。

 その頃になると他のプレイヤーからは「もしかするともう少しで『中央』につくかも!」という報告がチラチラと聞こえてきたりしている。

 地脈の中を進めば進むほどより大きな流れの中に出ることはわかっていて、その流れが今までとは違った様子になっているらしい。

 一人だけの報告だけだとそういうこともあるのかと思うだけで終わるのだが、複数人が同じような報告をしているところを見れば実際にそうなのだと思えている。

 今のところ俺自身はそこまで到達していないので、彼ら彼女らが言っている感覚が正しいのかは分からない。

 中央に着けば否が応でも結果は出るはずなので、それが正しいかどうかの答えも出るはずだ。

 

 地脈探索はそんな感じで、例のパーティについてはようやく帝国が糸を引いているという裏取りが出来ていた。

 パーティメンバーの一人がこれまでとは違った動きをしていたところを確認して、その時に会っていた人物が帝国との繋がりがある人物だったそうだ。

 さらに付け加えれば、その人物の繋がりをさらに辿ると例のナンパ騒動の裏にいた人物とも繋がっているらしい。

 さらにその人物と会っているのは一人だけではなく、日を変えて別のメンバーが会うところも確認できていた。

 これでパーティぐるみでの動きだということが確認できたわけで、これからどうするのかという話合いがもたれることになった。


「――というわけで、帝国との繋がりが明らかになったけれど、どうする?」

「マジかよ。他のパーティとはどこか違うと思っていたが、まさかそんなこととはな」

 そう言って頭を抱えたのはカールで、その隣ではラウが既に諦め顔になっていた。

 この二人だけで会うことはそこまで珍しいことではないので、いつも通りの打ち合わせだと誤魔化すことができる。

「随分と羽振りがいいとは思っていたが、考えていた以上の大物が出て来たな。もっとも団長ボスはそこまで驚いていないみたいだが」

「まあ、これで三度目だからかな」


 Sランク冒険者を使っての強引な交渉、ナンパ騒ぎと続いて今回の件になる。

 Sランク冒険者の時は貴族まで動いていたので何となく察してはいたようだけれど、ナンパもどきもそうだと聞いて二人は驚いていた。

 端から見ればただの迷惑な騒ぎでしかなかったので、そうなる気持ちも分かる。

 もっともそちらが陽動だということもすぐに気づいていたようだった。

 

「なるほどな。となるとこっちが本命だということか」

「どうだろうね。どっちかが上手く行けばそれでラッキー程度に考えているのかもしれないよ」

「だとするとあまり本気で狙っていないということか」

「いや。どっちかといったら冒険者風情にそこまでの手間暇をかけたくないんだろうね」

「ああ~。帝国なだけにありそうあなあ……」

 そのカールの言葉で、シーオの住人が帝国をどう見ているのかがよくわかる。

 

「それでどうするんだ? このまま黙ってやり過ごす……わけじゃなさそうだな」

 カールに続いてラウがそう聞いてきたが、俺の顔を見て何かに気付いたらしい。

 さすがにここまで続けば、何もせずに次が来るのを黙って待っているというつもりはない。

「まあね。さすがにうっとおしいから今回の件が片付いたら少し釘を刺しておくことにするよ」

「この場合、俺たちは皇帝に同情すべきところなのかね?」

 カールの冗談とも本音とも取れる言葉に、ラウは少し考えるそぶりを見せてから「どうだろうな」と首を振っていた。

 具体的に何をするとまでは言っていないのだけれど、二人ともこちらの心配は一切していないようだった。

 

「何をするって聞く前からその反応は少しひどくない?」

「何を言っているんだ。お前さん本人が動くにしろ、そちらのお嬢さん方が動くにしろ、本気になったらどうとでも出来るんだろう?」

 その言葉だけを聞けば突き放されているようにも聞こえるカールの言葉だったが、顔は完全に笑っているので冗談交じりだということはすぐにわかった。

 それに実際にその言葉通りになる予定なので、とりあえず言葉では返えさず無言のまま笑っておいた。

「うわっ! こわっ! その笑み、こわっ!」

「失礼な」

 おどけた様子のラウに、これまたおどけて返しておく。

 

 さすがに帝国そのものを潰すつもりはないけれど、このまま好きなようにさせておくのもうっとおしすぎるのでこちらから手を出すことに決めている。

 その具体的な内容までは決めていないけれど、これで皇帝が諦めるまでのことはしなくてはならないと考えている。

 あとは真正面から力で抑え込むのか、裏からコソコソ忍び込むのかというだけの違いでしかない。

 周囲への影響を考えるのであればわかりやすい形で見せたほうがいい気もするのだけれど、帝国が国としての面子が潰されるのを黙って見ているとは思えない。

 となると裏からコソコソが一番だと思うのだけれど……慌てて決める必要もないだろう。

 とりあえず今はクラン内部で動いているパーティが具体的な行動を起こさないかをきちんと見張っておく必要がある。

 カールとラウにはそのことだけをお願いして、あとはこちらでやっておくとだけを伝えてその場を解散ということになった。




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m(__)m

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