(7)帝国への対応

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 オーラルとの話し合いを終えた後で、今度はアンネリやアイリと話をすることにした。

「――これで諜報員への牽制はいいとして、帝国はどうするの? 今のままで終わり?」

「そのつもりだったけれど、何か問題でもある?」

「問題というよりも、このままだと間違いなく次も仕掛けて来ると思うわよ」

 きっぱりとそう言い切ったアンネリを見て、確かにそれもそうだなと考えた。

 ノスフィンと帝国は距離的な制約があるために直接的なことを仕掛けられる手段は少ないけれど、逆にいえばそれが帝国を付け上がらせる要因ともなっている。

 どうせ自分(の国)に対して直接何かすることはできないだろう、と。

 ついでにいえば、今回のような嫌がらせを続けていけばいずれ音を上げると考えている可能性もある。

 

 確かにアンネリの言うとおりに、このまま放置しておけばまた何かを仕掛けて来ることはあり得るだろう。

 しかも今回のように直接的ではなく、周囲に対して絡め手を使って来る可能性のほうが高い。

「そう考えると、次に狙って来るのはクランかな?」

「恐らくそうでしょうね。一応諜報を利用して制限があることは伝えたけれど、それをまともに受け取るとは思えないわ」

「だろうなあ。自分勝手に都合よく解釈するみたいだし。……よくそんなんで大国の一員としていられると思うけれどね」

「国土だけは大きいからね。それも昔の影響で、今は国土の拡大も上手く行っていないみたいだけれど」

 アンネリの話を聞いて、それはそうだろうなと思った。

 今のところの対応を見ていれば、とても大国としての振る舞いを行っているとは思えない。

 どこか幼稚ささえ感じるのは、今のトップ陣がそういう傾向があるからだろうか。

 

「うーん。帝国に対しての働きかけか。アイリはどう思う?」

「私ですか? 私は別にどちらでも構いませんわ。今回程度のレベルであれば、いくら来ても結果は変わらないでしょうから。うっとおしいとは思いますが」

「それなんだよねえ。さすがに何度も何度も繰り返されるのは勘弁してほしいかな」

「次からは汚い手段を取って来ることも考えておかないとね。帝国にも闇の組織はいっぱいあるでしょうから」

「それもか。暗殺者なんてこられたら面倒だよなあ。一応『大樹への頂』のメンバーには護身用の魔道具を渡しているとはいえ、クランのメンバーには渡していないし」

「暗殺……そんな手段を取ってきますか?」

 そう言いながら少し懐疑的な表情になったのは、アイリだった。

 いくら転移装置狙いとはいえ、わざわざ一クラン、一パーティを狙うのには大げさすぎると言いたいのだろう。

「どうだろうねえ。今のまま舐めた方法で来てくれればいいけれど、いずれは面子にかけて色んな手段を取ってくるとも限らないからね」


 今はまだ「所詮は冒険者」という感じで分かりやすい対応しかしてきていないけれど、いずれは闇の組織なり人員を使って来ることもあり得る。

 そうなって来ると面倒なことになるのは間違いないので、その前に対応をしておくということも考えておかなければならない。

 そうしたことを見越して、アンネリはわざわざどうするのかを聞いてきたのだとわかる。

 とはいえ、今の状況で直接帝国に働きかけるのもどうかという思いは変わらない。

 

「下手に突くと余計に反応しそうな気もするんだよねえ」

 例えば眷属を使って直接皇帝のところまで出向いて脅すという手段も取れるけれど、今度は過剰に反応してしまって今よりもひどい状況になりかねない。

 そんな反応ができなくなるくらいに脅せばいいのかもしれないが、それをやったらやったでより面倒なことになる未来が見える……ような気がする。

「それは……確かにあり得るわね。じゃあ、やっぱりこのまま放置かしら?」

「いっそのこと前みたいに、しばらく雲隠れするということも考えておこうか」

「それじゃあやっぱりヒノモトに?」

「それもいいけれど、今度はまた別のところに向かうのもありかな。例えばエイリーク王国とかね」


 エイリーク王国はユグホウラとの結びつきが強いだけではなく、アイリの母親の実家がある。

 帝国に対してもより離れた場所にあるため、一時避難するにはちょうどいい国だといえる。

 それ以外にもエイリーク王国に向かう理由はあるのだけれど、それはあくまでも二次的な理由によるものなのであまり気にする必要はない。

 それよりも今は、このままの状態でエイリーク王国に目指すべきかどうかということだろう。

 

「エイリーク王国ですか……?」

 少し以外だったのか、アイリが目をパチクリとさせていた。

 彼女のそんな表情は珍しく、少し面白くなって思わず笑ってしまった。

「とりあえずの思い付きだけれどね。今のところヒノモトとノスフィン王国しか直接見ていないから、そろそろ別の国に行くのもいいかなって。――まあ、いずれにしても今回の件が落ち着いてからになるけれどね」

「キラならそういうでしょうね。それで、帝国は放置するのかしら?」

「どうかな? これからもあの手この手で仕掛けて来るのは確かだろうからね。一々付き合うのも馬鹿らしい気がするかな」

「それじゃあ……?」

「うーん。正直なところ、今回俺自身は特に被害を受けていないからね。皆がどうしたい……どのくらいの罰を相手に望んでいるかによるよ?」

 直接的な被害を受けているのはアンネリたちなので、判断はお任せにした。

「そう言われるとねえ……。アイリは何かある?」

「特に何もありませんわ。このまま行政にお任せするだけでいいのではありませんか?」


 正直なところナンパからの直接的な暴力を振るわれたくらいで、一々騒ぐような二人ではない。

 それだけ相手との実力差があって、どうとでもできるという余裕があるからこその対応ではあるのだけれど。

 これでもし命の危険があったとかになると、二人ともこんな態度にはなっていなかっただろう。

 もっともそんな相手が出て来たとなれば、俺自身が動いていたのは間違いない。

 

 アイリの言葉にアンネリも同意したので、とりあえずはこのまま様子を見ることになった。

 被害を受けたといえば子供たちもそうなのだけれど、オトとクファは我関せずでこちらにすべてを決めてもらうという態度を取っている。

 一々相手の暴力に付き合ってはきりがないということを、二人はしっかりと理解している。

 様々な視線だけではなく、実際の行動にさらされて育った二人は、こういう事態に対しては見ようによっては冷めているところがあったりする。

 

「わざわざオーラルさんが来たということは、子爵の介入があるということだろうからね。行政もしっかりと動いてくれるだろうから、この件はこれで終わりかな」

「そうね。あとは帝国がどう出て来るかにもよると思うけれど?」

「だね。既に次の手を考えているのであれば、下手に動かない方が良いと思うんだよね。だからさっきも言ったように、他に移動するのはもう少し様子を見てからかな」

「わかったわ」「わかりました」


 アンネリとアイリが同時に頷いたことで、とりあえずの今後の方針は決まった。

 ここ最近はダンジョン探索を立て続けにしていたこともあって、『大樹の頂』としてもちょっとした休暇になる。

 ちなみにアンネリやアイリは冒険者ギルドからBランクへのランクアップを勧められているのだけれど、揃って断っている状態になっている。

 別にそんなところまで真似をしなくてもいいと思うのだけれど、やはりランクに伴う義務の履行が面倒だと考えているらしい。

 稼ぎという意味では、ダンジョン探索で得られる素材を売るだけで十分すぎるほどの稼ぎになるので、ランクにあまり意義を感じないということもあるのだろう。

 それはそれぞれの考えに任せているので、俺からどうこう言うつもりは今のところない。




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m(__)m

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