(6)伝言
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< Side:キラ >
アンネリたちに対する言葉だけではなく肉体言語を伴うナンパは、既に数度繰り返されている。
もはやナンパではなくストーカーレベルではないかと思わなくもないが、残念ながらこの世界ではストーカーという言葉自体がないのでそれを言ってもあまり意味はない。
ただし全く意味がないというわけではなく、変な奴らに付きまとわられていると言えば同情してくれる人は多くいるだろう。
いっそのこと彼らを徹底的に痛めつけて後悔させるという方法も考えなくはなかったけれど、今のところはその手段を取るつもりはない。
彼らの狙いがアンネリやアイリではなく、オトやクファといった子供たちに向かえばそれも考えたのだけれど。
今はとある仕掛けが発動することを狙って行動しているので、しばらく辛抱してもらうことになっている。
アンネリやアイリの心が限界になるまでは今の状態を続けるつもりではいるけれど、さすがに当人たちの心が疲弊してしまっては意味がない。
そんな事情から今の状態もあと数回かなと考えていたところで、ようやく事が動いた。
ナンパたちが騒ぎを起こすこと数度目を数えることになって、子爵家からの使者が拠点にまでやってきたのだ。
やってきた使者がお抱え魔法使いであるオーラルだったのは、それだけ子爵が事態を重いと見ているからだろうか。
さすがに外部の人間に拡張馬車を見せるつもりはないので、クラン拠点の一室に案内してから話し合いが始まった。
「――用件はわかっていると思うが、何故放置したままでいるのかね?」
「何をおっしゃいますか。今の状態だとむやみに暴力を振るったと言われて、こちらも逮捕……まではいかないまでも抑留くらいはされるのではありませんか?」
「やはりそれが懸念点だったか。であれば心配無用。これまでの経緯でそなたらに落ち度はないことは分かっておる」
オーラルのその言葉を聞いて、表情を変えないようにすることに苦労してしまった。
この言葉が聞きたかったからこそ、アンネリやアイリには今まで我慢してもらったのだ。
いかにこちらに落ち度がなかったとしても、喧嘩両成敗とされてしまってはたまったものではない。
それにこの状況になることを望んだのは、何もこの言葉を聞きたかったからだけではない。
「そうですか。それは安心いたしました。――それでは一応こちらからもちょっとした情報を」
「何かね?」
そんなことを言われるとは思っていなかったという顔をするオーラルに、こちらが掴んでいる情報を予定通りに出すことにした。
「今、直接的に彼女たちにちょっかいを出してきているグループは、帝国との繋がりがあるようです」
「何っ……!?」
「もっとも彼らをどうにかしたとしても、証拠がないと言われれば押し切られる程度の繋がりしかありませんが」
「……ふむ。その程度のことは考えておるか。それにしても帝国か。まだ諦めておらぬようだな」
オーラルは敢えて言葉にはしなかったけれど、何を諦めていないのかは言われなくとも通じる。
「そのようですね。ただ諦めていないのは、帝国だけではありませんから」
俺のその言葉に、オーラルはピクリと反応していた。
「……どういうことかね?」
「別にノスフィンのことだけを言っているのではありませんよ。それ以外にもいくつかの国からの密偵が入っているようですね。隙を狙って直接動かない分、帝国よりもしたたかと言えるのでしょうか」
「お主はそれを分かっていて何故放置しているのか」
「別に深い理由はありませんよ。ただ見られているだけならわざわざこちらから手を出す必要もないですから。一々追い払うのも面倒ですよ。それに、意図せずに諜報員と繋がりを持っているお店だってあるのですから」
諜報員が一般にある店舗から情報を得るなんてことは、ごく普通に行われていることになる。
そうしたことを考えれば、全ての関係者を潰すなんてことができるはずもない。
国なり組織なりに直接情報を渡している諜報員に関しても、一人一人を潰したところでオーラルに言ったとおりに『キリ』がない。
どうせ直接的な情報を持ち帰ることなど不可能だと分かっているので、わざわざ藪を突くような真似をするつもりはない。
俺がそこまで考えていることは分かっているのかどうかは分からないが、オーラルはジッとこちらを見ながら言った。
「お主はそう考えるのか。――ところで、複数というのはどこか分かっておるのか?」
「さあ? あまり意味がないので調べていません。当たり前ですが、ノスフィンもいますしね。ああ、そうそう。ついでですから子爵様経由で国王に伝えてもらえませんか?」
「……何をかね?」
「別に難しいことじゃありませんよ。たとえクランを乗っ取ったとしても、あの転移装置を起動できるのは私くらいしかいないので意味はありませんよ、と」
「それを信じろと?」
「信じるもなにも……。そもそも冷蜂蜜の輸送に使っている魔道具すら開発できていない現状で、どうしてあれ以上の防御がされている魔道具を使えると考えるのか。そちらの方が不思議なのですが?」
「……それを言われると耳が痛いな」
オーラルもユグホウラで使われている魔道具のレベルはしっかりと認識しているのか、特に表情を変えることなく頷いていた。
「今私が言ったことも、信じるかどうかは相手次第ですからね。『信じられない!』と決めてかかる人まで相手していられませんよ」
「いっそのこと使えないということを公表してしまうというのはどうか」
「どうやってですか? 今言ったように、技術力が低めで作られている道具すらまともに解析すら出来ていないのですよ? それよりも高度な技術で作られているものが解析できるのですか?」
「それは……」
「まあ、そういうわけです。どうせ自分の目で確かめてみないと納得できない人は、何を言っても無駄でしょう。それなら最初から近づけないようにした方がましです」
「……わかった。とにかく今は誰にも公開するつもりはないということはな」
全てがこちらの思惑通りとまではいかないまでも、とにかくオーラルは納得はしてくれたようだった。
別に今オーラルが言ったことを全て伝えなかったとしても、自然と諜報員を通して伝わるようにしておく。
諜報員同士は全てが個別に活動しているわけではなくどこかで繋がっている場合もあるので、それらのルートのどこかにこちらの諜報員を紛れ込ませればいいだけだ。
勿論、敢えてそこまで教えるつもりはないのだけれど。
「ところで話を戻すが、あのバカ者どもはこちらで処理をしてもいいのかね?」
「勿論ですよ。きちんと法に則って手続きを進めてください。騒乱罪くらいですか?」
「そうなるであろうな。一度や二度ならともかく、さすがに騒ぎ過ぎだ。剣どころか魔法まで使い始めていたらしいからな」
「そうですか。こちらとしてはきちんと処分されれば、それで構いませんよ。問題は帝国ですが……今からそれを心配しても仕方ないでしょうね」
「また何か仕掛けてくると見るか」
「当然です。これで諦めるならこんな分かりやすい方法は取ってこないですよ。……もしかすると気付かれていないと考えているかもしれませんが」
「それは……ないとは言えんな」
帝国が未だにこちらのことを一クランを運営している冒険者と考えているのであれば、全てが筒抜けになっているなんてことは考えないだろう。
もし少しでもその可能性のことを考えているのであれば、もしかすると手を引く可能性もある。
もっとも、これまでの流れを考えるとそんなことにはならないだろうと考えている。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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