(5)ナンパへの対処

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 < Side:アンネリ >

 

 キラから話を聞き終えてからアイリと一緒に別の部屋で話をすることにしたわ。

 裏があると確認が取れた以上は、あの人たちが間違いなくこれから先も絡んでくることが確定しているのだからある程度の意思疎通をしておく必要があるから。

 アイリもその必要があると認識していたのか、すぐに頷いてくれたしね。

 

 それにしても――と、部屋を出る間際のキラの顔を思い出して思わず笑ってしまった。

「アンネリ?」

「ごめんなさいね。キラの顔を思い出したらちょっと、ね」

「ああ。そういうことですか」

 私が理由を話すとアイリも同じことを思い出したのか口元に微笑を浮かべていたわ。

 あの顔は、自分が直接介入することができなくてもどかしく感じているものだった。

 キラが介入しないということは私たちも納得してのことだというのに、あそこまでの顔をされるとこちらとしてもやる気が出て来る。

 

 意識してのことだとは思わないけれど、ああいう顔をされると変な庇護欲というか母性のようなものを感じてしまう。

 これこそが、惚れた弱みというべきなのでしょうね。恐らくアイリも同じなのだと思うわ。

 もしキラのことを知らない女性にこのことを話せば、騙されていないかとか大丈夫かと心配されるかもしれないわね。

 もっともそうなったとしても笑い飛ばすだけだけれど。

 

 私やアイリの好みはともかくとして、今はこれからのことを話し合っておかなければならないわね。

 アイリもそのことはきちんとわかっているのか、私が真面目な表情になったのを見てすぐに聞く態勢になっていたわ。

 とはいえ、今の状況だとあまり多くを話すつもりはない。

 相手が相手だけに本気を出す必要もないと分かっていて、内容がただのナンパというだけなのでそこまで大げさにすることもないから。

 

 言葉だけでやり取りしているうちは、向こうが一方的に話しかけて来るだけなのでまだいい。

 問題は相手が暴力的な手段を取ってきた時で、どこまで痛めつければいいかを決めておかなくてはならない。

 あまりやり過ぎるとそれはそれで問題なので、匙加減が難しいところなのよね。

 いくら回復魔法が使えるアイリがいるとはいえ、あまり魔法に頼りすぎるのもよくはない。

 

 アイリと話をした翌日。まるで夜の焚火に飛び込んでくる虫たちのように、いつもの面々が私たちを取り囲んでいた。

 今日もダンジョンの帰りなのはいいとして、この人たち他にやることはないのだろうかと少し呆れてしまう。

 ナンパをするだけで金を貰える良い仕事だと考えてしまうのは、彼らに裏があるとわかったからだろうか、それとも余裕があるからだろうか。

 もっとも彼らが来ると分かっていて、敢えて帰り道を変えていない私たちも同類なのかもしれないわね。

 

 いつもなら男たちを無視して歩き続けるところだけれど、今日は少し予定を変更して立ち止まった。

「――あなたたちね。毎日毎日しつこいのよ」

「おっ……!? いや、いいじゃねーか。今こうしてあんたが立ち止まってくれたのも、その効果があってのことだろう?」

 何をどうすればそんな解釈になるのかは分からないけれど、男の中ではそういうことになったらしい。

 そんなおめでたい思考も、今の私にとっては有難いことだけれど。

「そう。それならその弱いおつむで無駄なことだと理解することね。いえ、三歩歩けば忘れてしまうその頭だと無理なことかしら?」

 三歩云々というのは、鳥頭的な言い回しで侮辱的な意味合いも入っている。

 流石にその意図はすぐに理解できたのか、あるいは周囲で様子を伺っていたやじうまの反応で気付いたのか、男たちはすぐに顔を真っ赤にして激高し始めた。

 何ともわかりやすい反応だっただけに、予定通りだけれど呆れの方が大きくなってしまっている。

 

 男たちの方を見ながら、わざとゆっくり周囲を見回してみた。

 すると、いい感じに周りの注目を集めていることが分かったわ。

 この分ならこの先の言い訳にも十分だろうと判断して、今度はアイリを見てさらい彼女が頷くのを確認した。

 どうやらアイリも私と同じ判断をしたと分かったので、次は視線を喚き続けている男たちへと向けた。

 

「――どうしたの? 所詮は口先だけということかしら?」

「……いいだろう。そこまで言うなら俺たちの力を見せてやる!!」

 とうとう我慢できなくなったのか、男の一人が進み出てきてそう言ってきたわ。

 本気で実力差が分かっていなかったのかと頭が痛くなって来そうだったけれど、私たちにとっては好都合だったので好きにさせておいた。

 

 少しの間が空いたことが好機だと勘違いしたのかは分からないけれど、男たちはすぐにこちらに向かって――来ずに、同行していた子供たちに何人かが向かっていたわ。

 それを見て男の一人が鳥肌が立つような笑みを浮かべていたが、そうなるだろうと予想していた私たちにとっては大した問題ではなかった。

 十人の男の内、四人ほどでオトとクファに向かいつつ残りは大人の私たちに向かってきた。

 といっても、戦力のほとんどをアイリに向けていたのは見た目がそのまま巫女の衣装だったからだろう。

 

 巫女や神官といった存在は直接的な戦闘能力がないというのが普通なので、アイリに戦力を向けるというのはそれなりに考えてきていることだと思う。

 ただAランクパーティに入っているアイリの実力は伊達ではなく、それぞれ二人ずつの戦力を向けられているオトやクファも同じ。

 ほどなく彼女たちが男たちを無力化したのを見て、私は最後に残った男を見ながらため息を吐いた。

「それで? これからどうするの?」

「な、何故、こんな……」

「あのねえ。仮にも私たちは、ダンジョンに潜っている現役の冒険者なのよ。正規の訓練を受けたわけでもない、冒険者として活躍しているわけでもないあなたたちが敵うわけないでしょう?」

「バ、バカな……」

 呆然とした様子でこちらを見ながらそう言ってきた男を見て、これは駄目だと判断した。

 前から言葉が通じない相手だとは分かっていたけれど、今は完全に考える能力も失ってしまったらしいわね。

 

 そう考えた私は、すぐに倒れている男たちとは別の方向へと視線を向けて言ったわ。

「そろそろ出てきてくれないかしら? この人たちを引き取ってほしいのよ」

 その言葉に、聴衆たちの視線が私と同じ方向へ向いた。

 それを感じ取ったのか、物陰に隠れながらことの成り行きを見守っていた顔だけはいい別の男が、何のことかといった様子で進み出て来た。

「どういう意味か分からないね。それよりも、君たちの実力は素晴らしい。さすが冒険者といったところか」

「そう。関係がないのだったら別にいいわ。それよりも、あなたの上役にも『こんなバカなことしか思いつかないのかしら』とでも伝えておいてくれる?」

「上役ってどういうことかな?」

「こんなことをやっても無意味だって伝えておいてくれればいいわ」

 こちらとしては、会話をするつもりは全くないので言いたいことだけを言って男の言葉は完全に無視をすることにしている。

 

 新たに出現した男はそれが分かっているのかいないのか、全く表情を変えずに私たちを会話をしようとさらに近づいてきていた。

 ただしこちらもこれ以上のことをするつもりはないので、男の動向を無視して皆に「行きましょう」とだけ言って拠点に向かって歩き始めた。

 とりあえず一度目の『交渉』としては、こんなものでいいでしょう。

 彼らがこの先どんな仕掛けを考えているのか分からないけれど、同じような手を使って来るのであればこちらとしてはもっとやりやすくなるわ。

 あとはその時が来るまで待てばいい。

 ――そんなことを考えながら、私たちは拠点へと帰ることにした。




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m(__)m

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