(4)ナンパへの方針

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 アンネリたちへのナンパに裏があることはすぐに確認が取れたが、その本命がどこに当たるかは数日後に判明した。

「まさか帝国がねえ……。前に直接的な手段が駄目だったから、今回は絡め手ってことかな?」

「恐らくそうですわ。それで上手く行くと考えているところが駄目ですが」

「だよねえ。いや、もしかするとこれまでも上手く行っていたとかじゃないかな」

「そうですか? とても上手く行くとは思えませんわ」

「それは相手が悪かったとしか。俺たちは、アンネリとかアイリがそんなものハニトラに引っかかるとは考えないけれど、向こうはそこまで把握していないってことじゃないかな」

「そんな簡単に引っかかるものなのですか」

「どうだろうねえ。ただどの世界でも昔からある手法だからねえ。ある程度は、有効な手段であるんだろうね」

 ハニートラップというのは、以前いた世界では主に女性スパイが男性に対して行われるものとして使われていた手法だが、この世界では逆でも使われているようだった。

 恋愛(肉体)関係というのは、ある意味で人族が一番溺れやすい関係だと言えるのかもしれない。

 

 それでも話をしていたシルクは、首を傾げたままだった。

「今の状態で色恋沙汰を仕掛けるのでしょうか? 逆効果としか思えないのですが……」

「ああ、そっちの意味か。簡単な話だよ。これから粗野な輩の絡みが進んでいよいよ……といったところで、色男が登場する手はずとかになっているんじゃない?」

「それは……確かにありそうですわね。奴らと直接話をしている相手は、人族から見れば美形に当たるようですから」

「だったらほぼ間違いないよね。ただ今回は相手が悪かったとしか言えないかな」

「アンネリにしてもアイリにしてもあのような輩に後れを取るようなことは、万が一にもありませんからね」

 俺の言いたいことがすぐに伝わったのか、シルクは呆れ半ばで納得した表情になっていた。

 

 アンネリにしてもアイリにしても黙って立っていれば、見る者が見れば貴族か大商家の令嬢に見えるはずだ。

 たとえ武器を持ってダンジョンに潜っていたとしても、そんな彼女たちがまさかトップクラスの実力を持っているとは考えないだろう。

 魔法があるこの世界では見た目詐欺という事態にはよく遭遇することがあるけれど、アンネリやアイリはまさしくその部類に入る。

 絡んできている奴らがどの程度の実力を持っているかは分からないが、シルクの話を聞く限りでは何かの間違いが起こるようなことはないはずだ。

 

「――とりあえずそんなトラップにアンネリたちが引っかかるとは思えないからいいとして、裏がいることは伝えておこうか」

「伝えないおつもりだったのでは?」

「そのつもりだったけれど、トラップに引っかからないように駄目押しした方がいいかなと」

「そういうことでしたらお任せいたしますわ」


 雑なハニートラップに引っかかるような二人ではないけれど、ここで帝国の意図があると分かればドン引きするレベルになるだろう。

 それなら最初から知らせてしまって、トラップ自体を発動しないようにした方が対処がしやすくなる。

 その時に相手がどんな行動をしてくるかは分からないけれど、それはその時々で対処してもらうしかない。

 こればかりは先んじて相手を潰すわけにはいかないので、待ちの一手になってしまう。

 

 非常に面倒くさいことではあるが、まだ明確にハニートラップだと断言できる事態にはなっていないので、今は耐えてもらうしかない。

 いつかはトラップを仕掛ける予定になっている本人が出て来るはずなので、それまではのらりくらりと躱してもらうしかない。

 こうなってくると、益々俺自身が前に出るわけにはいかなくなってしまった。

 今も俺がいないことでこれ幸いと仕掛けてきているようなので、しばらくは地脈探索に勤しむのが良いのかもしれない。

 

 とにかくこれらのことを含めてアンネリとアイリには話しておこうと考えて、二人を部屋に呼んだ。

「――というわけだから、適当に対処しておいて。いずれ我慢できずに動くだろうから」

「トラップの件はいいとして、もうそこまで掴んだのね」

「優秀な仲間がいて助かっております」

「ふふ。仲間、ね。まあ、それはいいわ。とにかく分かったわ。アイリも大丈夫よね?」

「勿論、問題ありませんわ。ただこちらからある程度積極的に動くべきでは?」

「ふふ。アイリからそんな言葉が出てくるとはね。あの雑なやり取りで疲れてしまったのかしら? それはともかく、相手に変な期待を持たせるのも良くないから今のままでいいわよ」

「そうですか。これも修行ということでしょうか」

 ナンパへの対処法が世界樹の巫女としての修行になるかどうかは疑問だけれど、アイリはそれで納得してくれたらしい。

 

 その一方でアンネリはといえば、視線を向けると思わずビクリとしてしまった。

 その顔は、どこからどう見ても怒っていた。

 一緒に着いて来ていたハロルドやヘリは気付いていないようだったが、明らかに怒りの感情になっている。

 敢えてその感情を言葉にすれば、私がそんなことに引っかかると思われているとは心外ね――と言ったところだろうか。

 

「あ~、アンネリ。あまりやり過ぎないようにね」

 思わずそう声をかけてしまったが、アンネリはニコリと目だけは笑わずにこう返してきた」

「あら。何のことかしら?」

「うん。まあ、分かっているんだったらそれでいいよ」


 これ以上触れると怒りの一部がこちらにも向いて気層だったので、それだけで治めておいた。

 内心では絡んできているというごろつきたちに冥福をお祈りしながら。

 はっきり言ってしまうと、アンネリやアイリはAランクパーティにふさわしい実力をつけてきている。

 特にアンネリについては、ずっと一緒に行動してきたお陰か、魔力操作ということにおいては格段の進歩が見られている。

 魔力操作が成長すれば、普段使っている魔法もよりスムーズに使用する魔力も抑えた状態で使えるようになる。

 その効果が強くなればなるほど、より長くダンジョンに潜れるようになるわけだ。

 そしてより長くダンジョンに潜るということは、より多くの戦闘を経験するということになり、アンネリの戦闘経験は同年代の者たちからすればあり得ないくらいに増えている。

 それだけ多くの戦闘経験が積めるのは、裏に護衛という名の眷属がいることを知っているからということもあるのだろうが、それでも彼女の努力なしではここまで来ることはなかった。

 そんな彼女が本気になって町のごろつきの相手をすればどうなるか――うん。あまり大きな怪我にならないように、やっぱり祈っておくことしかできなかった。

 

「ところで、国への報告はどうする?」

「必要ないんじゃない? どうせ帝国との繋がりがあるなんて証拠は残さないでしょうから」

「そう? それならいいんだけれどね。俺としてはどっちでも構わないから、あとはアンネリとアイリに任せるよ」

「それは有難いわね。実家とは切れていないけれど、あまり期待は出来なさそうだし」

「うーん。それは俺にも責任があるから何も言えないな」

「あら。別にキラが悪いというわけじゃないでしょう? 私から距離を置くことに決めたんだし。気にすることはないわよ」


 一応この国の貴族の一員であるアンネリは、色恋方面で変なちょっかいをかけられたと訴えれば、相手方にそれなりに責任を負わせることができる。

 ただし今話したように、実家との距離を置いているアンネリの場合は肝心の貴族家からの支援が受けにくいためにそれも難しくなっていたりする。

 もっともそんなことを全く気にしていない様子で笑っているところが彼女らしいと言えるのかもしれない。

 とにかくナンパ集団に関しては彼女たちに任せることにして、こちらは出来る限りのことを裏から支援するようにするだけだ。




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m(__)m

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