(8)五感を得ること
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
魂についての話はまだ続いていた。
「魂か。掲示板でも上がっていたが、やはりマナとの関係もあるんだろうな」
「むしろ魂がマナの入れ物じゃないかって話もあったんじゃなかったか? 入れ物といっても物理的なものじゃないが」
「あったな。その時はスルーされていたが、そもそも解放されたばかりの頃でよくわかっていなかったことが理由としては大きいが……」
「今となっては、むしろ正しいと考えているプレイヤーの方が多いんじゃないか?」
「まだ正解はわかっていないがな」
マナが魔力の元となっている。それは情報が解禁されたころから分かっていたことになる。
それに加えてマナを入れるための器が魂なのではないかという話は、一部の界隈で話されていたことだ。
ただしそれを証明する手段がないので、あくまでも想像の産物としてしか語られていなかった。
今でもそれを証明する手段はないのだけれど、マナと魔力、そして魂の関係を考えるとそれがただの妄想だと断言することもできない。
さらに付け加えておくと、マナを入れるための器は魂以外にもあるのだろうというのが掲示板内で話されている内容になる。
もしかすると地脈も魂と同じようなものではないかという推測もあるのだが、地脈とマナを結びつけるようなものが見つかっていないので、今のところはあまり注目されている議論ではない。
「……魂か。そもそも俺たち自身が、その理から外れた存在だからなあ。それをどう見るべきか……」
「運営が敢えてそんな存在を作った理由か? 上司の趣味というのも当然あるのだろうが、それ以外にも理由はあるのだろうけれどな」
「これだけ大掛かりなものを用意している以上は……いや。上司の趣味という理由だけでやってしまいそうではあるぞ?」
「否定できないだけに何とも言えないな」
まるで世界樹に従う眷属のように、運営の面々は上司の言葉に従っているように見える。
実際に魔力的、もしくは別の方法で縛られているかはわかっていないのだけれど、そう感じるくらいには様々な指示に従っている。
あるいは暴力的な方法で従えている可能性もなくはないのだけれど、それを証明する手段はプレイヤーにはない。
そもそも証明したところで、どうにかなるわけではないのだが。
というような話は掲示板で稀に話がされたりしているけれど、プレイヤーの多くはそんなことは考えていないだろう。
何故なら案内人さんを始めとして広場に常駐している運営さんたちは、会社の上司に愚痴を言う部下たちのように割と自由に発言しているからだ。
それを笑って過ごす(誤魔化す?)くらいには、上司の器は大きいように見える。
敢えてそう見せている可能性もあるけれど、それは普通の人間関係であっても同じことだろう。
「――上司の話は横に置いておくとして、今は魂とマナの関係だろう」
「そうだったな。つい脇道に逸れてしまうのは、掲示板ののりが染みついているからか」
集まったメンバーの一人がそう言葉にすると、思い当る何人かが苦笑していた。
「ただ、魂とマナの関係と言ってもなあ……。そもそも魂もマナも魔力のように感じ取れるわけではないから議論するのは難しいと思うぞ。キラも地脈のように『触れる』ことができたというわけではないんだろう?」
「そうだね。というか魂にしろマナにしろ感じ取れることができているんだったら、そもそも運営に話を聞きに行こうとしたりしないよ」
「それもそうだな。――となるとやはり当面の課題は、それになるのか」
「それというと、魂かマナに対する五感を得るという感じか」
「なるほど。上手いことを言うな。確かに五感の内、一つでも得ることができれば大分研究も進むだろうな」
「五感が得られれば、魂とマナが同じ存在かどうかも区別ができるということか」
どう考えても運営は、マナに関しての智識を深めるようにと誘導しているのだろう。
それは俺だけではなく、少なくとも同じサーバーにいるプレイヤーの全員が感じていること……だと思う。
それに加えて魂という存在が絡んできた以上は、プレイヤーにとってどちらも避けては通れない道になるはずだ。
ただ今のままだと存在を認知することすらできないので、五感を得ようという考えは間違いではないはずだ。
少し余談になるが、魔物がいる世界であるが故にアンデット系であるレイス系は普通に存在している。
ただしそのレイスと、多くの生物にあると言われている魂が同じものであるかどうかは議論が分かれている。
少なくとも魔物であるレイスに『魂』があることは間違いないだろうが、魂そのものであるかどうかは分からないといったところか。
俺たちがレイスとして見ている存在は、魂を入れ込んだ器であるというのが多くに見方になっている。
「――いっそのこと、チュートリアルみたいに訓練できる環境があればいいんだけれどなあ……」
どうすれば五感を得られるのかと中々答えの出ない議論をしている中で思わずそう呟くと、集まった皆の視線が集まった。
「そうか。キラは最初は魔力操作から始まっていたな。木の中という限定された場所だったようだが」
「むしろそんな環境だったからこそ早く身に着いたと言えるんじゃないか?」
「確かに。だとすると敢えてそういう環境を作ってもらうというのもありと思えるな」
「……ちょっとって待て。あの運営がその環境を用意していないと思う?」
ちょっとした呟きから始まった議論だったが、ふとした瞬間にそう言ってきたプレイヤーがいた。
集まった視線に少しひるんだ様子を見せていたそのプレイヤーだったけれども、自分の考えを纏めるように少しゆっくり目に続けて言った。
「いや。だって、あの運営だよ? 俺たちに黙ってそのくらいの仕込みくらいはしているんじゃないか? どう考えても魂って重要そうな存在だし」
「仕込み自体は間違いなくしているだろうが、だとしたらどこがその場所かという問題が……あ」
あの運営のことを考えればなくはないけれど、どこを探せばいいのかという複雑な表情を浮かべながらそう言っていたプレイヤーだったが、途中で何かに閃いた様子になっていた。
そしてそれはそのプレイヤーだけではなく、他の面々もほぼ同時に何かに思い当ったような顔になっていた。
かくいう俺自身も、皆が思い当った存在であろう場所を脳裏に思い浮かべていた。
それぞれの表情見て皆の状況を悟ったのか、代表してハルが一度皆の顔を見回してから言った。
「あ~……。その顔を見れば何となく想像がつくが、一応答え合わせをしようか。――せーの!」
「「「「「地脈」」」」」
ハルの掛け声に合わせて、全員が声を揃えて一つの答えを導き出した。
地脈が魂やマナを探るための訓練場かどうかは分からないが、少なくともあそこにはガイアという存在がいる。
ガイアが必ずしも答えをくれるとは限らないけれども、運営以上に何かしらのとっかかりを与えてくれる存在であることには違いない。
それならまずは、そのガイアに聞いてみるのもありだろう。
――と、こんなことを考えていながらも、ほぼ間違いなく地脈は魂やマナに触れるための場所だろうと確信していた。
そうでなければ、わざわざファーストコンタクトが魂の状態になっていることなんて条件を付けるとは思えないからだ。
いずれにしてもそれが合っているかどうかは、現地に行って確認してみないことには分からない。
集まったプレイヤーたちの顔を見れば、既に全員がやる気になっている。
それを感じたハルがここで解散しようと宣言したが、反対意見は出てこなかった。
それどころか宣言と共に蜘蛛の子を散らすように皆がいなくなったのは、早速試しに行ったのだと思われる。
その様子をハルと一緒に苦笑と共に見送った俺も、すぐにホームに転移をすることにした。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます