(7)大事なこと

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 広場にある訓練場で色々と試してみて分かったことは、すぐにプレイヤー間で共有されることになった。

 プライバシーもへったくれもない状態ではあるが、むしろそれを望んでいたので問題はない。

 プレイヤーとして生きる上の条件として、基本的に聞かれたことには答えると決めている。

 そのため最初から公開してしまえば、一々聞かれるたびに答える必要がなくなるのでそちらの方がありがたかった。

 ちなみに何故そんな決まりを持っているのかは、性格上の問題と言える。

 基本的にゲームは隠し事をして物事を進めて行くよりも、ある程度皆情報を共有したうえで進めて行きたいと考える性格ということもある。

 それに加えて今生きている世界だとプレイヤー百人という限られた人数しかいないので、隠し事も難しいだろうという考えもある。

 ずっと隠しておくことが性格上難しい以上は、最初から公開してしまったほうがいい。

 

 自分自身と訓練を見ていた有志のプレイヤーによって、掲示板への書き込みは終わった。

 その後も議論は続いていたが、話の中心が魔力珠のことではなく運営から答えを貰えたことに対する疑問に移ったところでハウスから広場に戻ってきた。

 運営の思惑を掲示板で推測しているのを見るのも面白そうだったけれど、訓練を手伝ってくれたメンバーと約束があったのでそちらに向かうことにしたのだ。

 そして向かった先は、プレイヤーの憩いの場となっている温泉施設だった。

 

 温泉風呂で軽く汗を流してから施設の休憩所のような場所に向かうと、既にそこにはハルやラッシュを始めたとして幾人かのメンバーが集まって話をしていた。

「おっ。主役が来たか」

「いや、主役って……変に持ち上げるのは止めてくれないかな?」

「ハハッ。らしいといえばらしいが……まあ、いいか。それよりもそいつについての話をしようか」

 そいつと言いながらハルの視線は、ふわふわと浮いている魔力珠に向けられた。

 今は分体生成は利用していないので、ただ魔力を貯めているだけの浮遊体でしかない。

 

 そんな魔力珠を見ながらハルが真面目くさった表情になりながら言った。

「――それで? どんな名前にするか決めたか?」

「いや、まだなんだけれど……それってそんなに重要かな?」

「重要に決まっているだろう! いつまでも『魂の一部が入った魔力珠』とか呼びにくくて仕方ないだろうが」

「それは認めるけれど……って、なんで皆も揃って頷いているかな」

 少し呆れながらそう言ったものの、揃って返ってきた答えは「重要だろう」というものだった。

 確かに今のままだと言いにくいことは認めるが、名付けがそこまで重要なことだとは考えていなかった。

 

 とはいえここで俺一人が反発しても話が進まなさそうだったので、素直に流れに乗って『魂の一部が入った魔力珠』の名前を考え始めることにした。

「うーん。……じゃあ、魔力珠(精神付き)とかは?」

「却下。『まりょくじゅかっこせいしんつき』なんて言うのは面倒」

 速攻で駄目だしされたので次の案を考えていると、他に集まっていた面々が次々に名前を出していった。

 こんなことで盛り上がれるとは学生かと言いたくもなるが、そもそも娯楽が少ない世界なのでこうして盛り上がることができるだけでも楽しいのだろう。

 なんて達観したことを考えている俺自身も楽しんでいるので、他人のことはどうこう言えないのだが。

 

 とにかく上がった名前案の中から幾つかの候補に絞って、そこから最終的な名前にすることになった。

「うーん……。どれもいいとは思うけれど、これが一番ピンと来たかな」

 そう言いながら幾つか用意された紙に書かれている名前の一つに『思念珠』というものがあり、それを指した。

「そうか。この中からどれかと言われれば、俺もそれがしっくり来たな」

「だな。集まっている皆も他に何か言いたいことはあるか?」

 ハルに続いてラッシュがそう確認したが、特に反対するような意見は出てこなかった。

 その様子を見る限りでは、絶対にそれがいいと言うほどではないが特に反対するような名前でもないといったところだろうか。

 

 とにかく名前は決まったので、今集まっている皆に拡散してもらうことになった。

 もっともこちらが勝手に名前を呼んでいれば、自然と広まっていくとは思うのだけれど。

「――よしよし。これで心のつっかえが一つとれたな」

「それはいいんだけれど、それだけでわざわざ集まったわけじゃないよね?」

 妙にすっきりした顔になっているラッシュに、思わずそう突っ込んでしまった。

 そもそもこの場に集まろうという話になったのは、別のことを議論してみようということから始まっている。

 

「そういやそうだったな。えーと、運営の関与があった件についてだったか」

「そう。まさかとは思ったけれど、今回は運営から正式な回答があったから進んだところもあるからね。掲示板の話題に乗らずにこっちに来たのは、これがあったからだよ」

「わかったわかった。確かに重要な話ではあるからな。とはいっても、今は推測しか話せないが」

「推測の段階で話をしてしまうと、それが規定路線だと思われないか?」

 参加者の一人がそう言うと、ハルが首を左右に振りながら続けた。

「それもありえるだろうが、掲示板でも話題になっているくらいだから今更だろう。それに実際に会って話をするのも大事だと思うぞ」

「だな。掲示板だとどうしても一人でポチポチしているという認識が強くなるからな。実際に会って声を聴くのは大事だろう」


 ハルに賛同するように言ったのは、人の姿になっているラッシュだった。

 ちなみにこの場に集まっているメンバーの中には人外系のプレイヤーも何人かいるが、基本的には人型に変化している。

 どうもこの世界に来る前の人型になると考え方もそちら寄りになりやすいらしい。

 人外として暮らしていると妙に偏った考え方をしてしまいがちになるので、こうした議論をする場合には人型になったほうがいいという考えが主流になっている。

 

「ただ今回運営が絡んできたのは、実際に魂が使われていたからだろうな。ただの推測とか考察に対する回答じゃないってことだ」

「確かに、魂を扱っているとなると場合によっちゃ、この世界から強制退場もあり得るからな。妥当といえば妥当なのかな」

「逆にいえば、魂を扱えるようになってくるプレイヤーが増えて来るとそれだけ運営との関りも増えるというわけか?」

「どうだろうな。今の俺たちはまだまだひよっこだろうが、魂の扱いに慣れてくると運営と同じように分かることも増えて来るんじゃないか?」

「そうなると運営に問いかけることも少なくなるってことか。あとは危ない時に介入すればいい、と」

「そういうこった。危ないところの境界線の見極めができない今が、一番回答を貰えるのかもしれないな。もっともそのためにはキラのように魂を扱えるようにならないと駄目なわけだが」


 ラッシュがそう結論付けると、皆の視線が集まってきた。

「うーん。意識して魂を扱おうと考えていたわけじゃないから何ともいえないかな。最初から魂を扱うつもりで使ったならともかく」

「それもそうか。一応確認するが、魂と魔力の差はわかっているのか?」

「それが全く分からないね。こっちとしてはあくまでも魔力を使って分体生成をしたという意識しかないから。これからも使うたびに意識するつもりはあるけれど、魂が確認できるかは……微妙?」

 現状考えている正直な感想を言うと、皆はそんなものかと頷いていた。

 はっきりこれが魂だという認識ができていれば違ったことも言えたのだろうけれど、残念ながらそうそう上手くはいかないということだ。

 ちなみに地脈に触れるために幽体離脱なりをしないと駄目なのだが、それはちょっと話が違うというのが今のプレイヤー同士での認識となっている。




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m(__)m

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