(6)本格的な訓練

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 運営はプレイヤーの安全に関わることに関しては、ある程度の情報開示をしてくれる。

 それは今のプレイヤーにとっての共通認識になっている。

 勿論、人生の周回が可能なプレイヤーは、よほどのことがない限りはその生を終えるということはない。

 ――そう思われていたのだけれど、時々無茶なことをやらかそうとするプレイヤーが出た時には、ストップがかけられることがあった。

 ただしそのストップのかけられ方も、輪廻の輪に戻ることになるけれどいいのかといった問われ方で、プレイヤーとしての生が無くなることを示唆するような止められ方になっている。

 ちなみに運営からのストップがかかるようになったのは地脈との触れ合いが発生してからで、運営が管理している魂により近づいているのではないかという見方もされている。

 それが正しいかどうかは分からなかったことだけれど、どうやら今回の件でそれが正しいことが証明されたように思える。

 少なくとも分体生成による魂の分離は間違いないと運営の一人が断言してくれたので、魂に関わる問いはある程度の答えを貰えるのではないかというプレイヤー間の推測は当たっているのだろう。

 

 そんな運営の関与の度合いについてはともかく、魔力珠への分体生成の使用は魂の一部の分離であると運営の一人から断言してもらえたことは大きい。

 ただし下手な扱い方をすれば魂の消滅にまで繋がるそうで、十分に注意するようにとの忠告までされた。

 一応そこまで行くような事態になる場合にはリミッターが働くようになっているそうで、事前に警告のようなものが流れるようになっているらしい。

 その言葉を聞けたときに、これである程度は安心して実験できると心の中で考えていると、運営とハミルさんからは少し呆れたような視線を向けられてしまった。

 これだけ念を押して(押されて)いるのに、まだ実験することを続けるのかと。

 

 とはいえ誰かが試してみないことにはどこまでできるかも把握できないので、先駆者が試してみることは当然だと思う。

 それを言うとハミルさんは、少し気まずそうな表情になってそっぽを向いていた。

「曲がりなりにも木の人さんの恩恵で進んできたサーバーにいる以上は、それを言われると何も返せない」ということらしい。

 俺としては夢中になって動いていただけで特に意識はしていなかったのだけれど、どうやら多かれ少なかれ同じサーバーで暮らしているプレイヤーはそう考えてくれているそうだ。

 だからと言って威張り散らすような性格ではないので、少しくすぐったい思いになるだけで言葉では「そうなんだ」としか返せなかった。

 

「――とりあえずきちんと答えが貰えてよかったよ」

 運営さんと別れて役所から出てすぐにそう言うと、ハミルさんはすぐに頷き返してきた。

「そうですね。ですが、これで益々キラさんは人間離れしてきましたね」

「いやいや。それは否定できないけれど、そもそも人間離れというとプレイヤー全員がそうなんじゃない?」

「そうですか? そんなことはない……と言いたいところですが、確かに否定しづらいですね」


 魔法もありという条件にすれば、百メートル七秒、八秒で走り切るプレイヤーがほとんどだろう。

 それほどまでに、身体強化は肉体に対して絶大な影響を与えることができる。

 あちらの世界でそんな人間が一気に百人近くも現れたとなると、大騒ぎになるのは間違いない。

 もっともそこまでの身体強化を使いこなせるようになるには、それなり以上の訓練が必要になるので簡単にできるようになるとは言えない。

 

「これ以上はお互いに凹みそうだからやめておこうか」

「そうですね。それでは、キラさんはこれからどうされますか?」

「どう……? ああ。あっちに戻って訓練の続きでもしようかと考えていたけれど? 運営からのお墨付きも貰えたから」

「そうですか。それでしたらここの訓練場でなさったらどうでしょう? 色々と見たいと考えるプレイヤーも多いと思います。どちらにしても掲示板でお知らせするのですよね」

「掲示板は確かにそうだけれど……本当にただの訓練というか試しにしかならないよ」

「むしろだからこそ、と言えるのではありませんか? 試行錯誤の最中に皆さんの意見が聞けるのは大きいと思いますが」


 ハミルさんの説明を聞いて、なるほどなと思った。

 訓練が上手く行くかどうかは別にして、魔力珠の改良について上手く行ったことは最初から掲示板に書き込む予定だった。

 それならば訓練の段階から公開してしまってはどうかという意見は納得できるし、確かにやってみる価値はあるかなという考えも湧いてきた。

 なによりもハミルさんの言ったとおりに、訓練中に他のプレイヤーの意見を聞けるというのは面白いと思う。

 

 そんな思惑の元、一度ハウスに戻って掲示板に書き込みをしてからもう一度広場に戻ってきた。

 広場にはプレイヤー同士が訓練を出来る場所として、訓練場が設けられている。

 広場全体は戦闘禁止区域として設定されているけれど、この訓練場に限ってはしっかりとした訓練が行えるようになっている。

 しかもラノベやらゲームによくありそうな全回復機能付きというおまけつきだったりもするので、多くのプレイヤーが訓練する場所として利用している。

 

 掲示板に書き込んだ訓練時間まではまだ余裕があったので、適当に時間を潰してからその訓練場へと向かうと何故か十人以上のプレイヤーが近くにうろついていた。

「――あれ? なんでこんなに集まっているのかな?」

「何を言っているんだ。キラさんが来るって聞いて集まったに決まっているじゃないか」

 人だかりを見て思わずそう聞いてしまったが、プレイヤーの一人がそう返してきた。

 集まっているプレイヤーはそこまで親しくしているというわけではないメンバーばかりだったけれど、全員が掲示板を見てすぐにここまで来たらしい。

「本当にただの訓練だから何か目新しいことができるとは限らないんだけれどなあ……」

「だからいいんじゃないか。それに、噂の魔力珠が改良されたことも興味がある」

 一人のプレイヤーの言葉に、周りで話を聞いていた他のプレイヤーがウンウンと頷いていた。

 

 そうこうしているうちに、訓練場のレンタル時間が近づいてきた。

 それまでの間にも見学希望のプレイヤーは増えてきて、ついには二十人近くが集まってしまった。

 その中には龍なダンジョンマスターのラッシュと鍛冶師のハルも混ざっていた。

 

「――ここまで集まると思っていなかった」

「本気で言っているな、これは。キラはここで訓練することはほとんどなかっただろう? それに魔力珠の改良とやらも気になるしな」

「ハルの言うとおりだな。物珍しさも多分にあると思うがな」

「はあ。まあ、いいか。どっちにしてもやることは変わらないし。ちょうどいいから二人にも協力してもらうよ」

「「おう。任せろ!」」


 二人からは頼もしい返答を貰えたので、早速訓練を手伝ってもらうことにした。

 当初は一人しかいなかったので、魔力珠がどこまで自動で動けるのかを確認するつもりだったのだけれど、折角なので反撃モードにして攻撃を加えてもらうことにした。

 二人は、俺自身が何も言わなくとも勝手に反撃してくる魔力珠に驚いていたけれど、すぐに面白くなってきたのか次々に攻撃を加えるようになってきた。

 途中で本気モードになりかけて、魔力珠が壊されるんじゃないかという状態になったところで慌ててストップ。

 それ以降は二人とも反省をしたのか、今の魔力珠で何が出来て何が出来ないのかの確認にレンタル時間の最後まで付き合ってくれていた。




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m(__)m

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