(4)精神の切り離し
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アイとの話で思いついたことというのは、分体生成を利用できないかということだった。
ヒューマンになってから世界樹の中に意識を移すとき以外は試したことはないけれど、何となくできるのではないかという感覚がある。
根拠のない自信といえばそうかもしれないのだけれど、何故か失敗することはないだろうと感覚がささやいていた。
一周目でも二周目でもなかったその感覚に多少の戸惑いはあるが、それが本当かどうかは試してみればわかることだ。
とはいえ何が起こるのか分からないということで、場所を移したというわけだった。
とにかく分体生成をするということは魂を肉体から離すということになるので、アイテムボックスに中にしまっておいた簡易的なベッドを取り出してできるだけ平坦な地面に設置した。
アイテムボックスの中にしまっているだけあっていつでも使えるように、布団類の備え付けはしてあるのでそれだけで寝転がれる場所は準備が終わった。
あとは準備できたベッドの上に仰向けに寝そべって、魔力珠のうちの一つを浮かべながら分体生成を行ってみた。
今回は分体生成をするといっても、いつものように新しい『肉体』を作る必要はない。
精神――というか魂を宿らせるべき肉体は宙に浮かんでいる魔力珠になるので、そのまま意識を魔力珠に意識を移す感覚で分体生成をして見た。
世界樹の精霊として分体生成をしていた時には一連の流れをほぼ無意識でやっていたので精神を別の器に移すという感覚はあまりよく分かっていなかったのだけれど、二周目になってからは精神を世界樹に移すということを何度か行っているのであまり戸惑わずにできた。
その気になれば魂の状態で空に浮かんでいることもできただろうが、あまり長時間その状態でいるのは良くないという感覚があったので素直に魔力珠に移ることにした。
『――うん。無事成功かな?』
いつもの調子で言葉を話すつもりでそう言葉を思い浮かべたが、当然魔力珠に口なんてないのでオトになって外に出て行くことはなかった。
ただしここで予想外だったのは、すぐ傍で様子を見ていたクインたちが、その『言葉』に反応してきたことだ。
「主様、どういうことでしょうか? こちらの魔力珠に移ったの?」
『えっ? クインの声がしっかり聞こえる? というか、なんで言葉が通じているのかな?』
「――待ってください。すぐに調べ……ああ。どういうことですか。あまり深く考える必要はなかったようです」
『どういうこと?』
「簡単にいえば主様は今、眷属同士が会話をするように話しているのですよ」
『眷属が……といことは、念話みたいな感じかな?』
「そうですね。そう考えられるのが一番よろしいかと思います。魔力の性質が同じだからこそ、できることになります」
『なるほど。とりあえず会話の不思議についてはわかったかな』
目先の疑問を解決したので、次は落ち着いて状況を確認することにした。
そしてまず不思議に思ったのは、言葉と同じようにきちんと周りの状況が確認できているということだった。
当たり前だけれど、魔力珠には目なんて機能は備わっていない。
それにも拘らず、人の視界と変わらない状態で周囲が確認できるのは不思議に思える。
その疑問に答えてくれたのは、いつもの調子で冷静にこちらを観察していたアイだった。
「――それは簡単。今のご主人様は、分体というよりも魂としての存在感の方が大きい。わかりやすく言うと
『あ~と。つまりは魔力珠の中に収まっているというよりは、魂の状態として浮いているから人としての感覚のほうが前面に出ているということかな』
アイの言葉をかみ砕いて考えて言葉にすると、アイからは短く「そう」と返ってきた。
確かに分体生成をして魂だけの存在になった時でも人としての感覚は残っているのか、しっかりと視界は確保されていた。
今は魔力珠に魂が入り込んでいるとはいえ、感覚的には人のものが色濃く残っているということになる。
ただし魂の感覚が強く残っているとはいえ、器が何もない状態でいるときよりも不安定感はないので長時間このままの状態でいたとしても問題はない……はず。
その自分の感覚を信じた俺は、しばらくの間そのままの状態で何ができるかを確認し始めた。
浮遊状態で移動することができることは分かっていたので、あとは肝心の魔法が使えるのかどうかを知りたかったのだ。
結論からいえば、魔法は何の問題もなく使うことができた。
少し予想外だったのは、肉体という制約から離れているお陰なのか、魔法がより発動しやすく感じたことだろうか。
どちらかといえば、世界樹の精霊だった一周目の時と感覚が近かった。
そのこと自体は良かったのだけれど、最大の問題はまだ残っている。
というよりもそもそも今の状態だと人としての肉体は全く使えていないので、当初の目的としてはまるで意味がない状態になっている。
できるなら思考の一部なりを残して、ある程度の独立した動きができる状態になってくれるのが一番の理想となる。
というわけで、出来る出来ないを考えるよりも先にまずはやってみようということで、魔力珠に魂を宿した状態を解除して元の状態に戻った。
そこからさらに分体生成を使って、魂(精神?)の一部だけを切り離して魔力珠に宿るように操作をしてみた。
「……成功?」
「うーん。どうだろう? 予想ではこの状態で独立して動くはずなんだけれど、全く動く様子がないね」
「ご主人様は大丈夫?」
一部とはいえ魂を切り離しているので、言葉に出して聞いていたアイだけではなく他に着いて来ている眷属たちも心配そうに見てきた。
「今のところは特に何もないかな。違和感とかがあればわかりやすいんだけれど、それすらなかったら危ないかもしれないね」
「長時間は駄目」
アイの言う通り、初めて試すことなので慎重に進めなければならない。
いくら周回する人生を歩むことができるとはいっても、簡単に二周目の人生を終えるつもりはない。
あとは未だ沈黙したままの魔力珠を、どうやって自立して動かせるようにするかという問題が残っている。
一応意識の一部を移すことは出来ているはずなので、何かしらの動きをしてもいいとは思うのだけれど今のところは全く動く様子はない。
何故だろうと五秒ほど考えたところで、すぐに思い当る答えが浮かんできた。
「ああ、そうか。魔力珠、そこら辺をクルリと回ってくれるかな?」
その問いに応えるように、魔力珠が直径一メートルくらいの範囲でクルリと回った。
「ご主人様、これは……?」
「うん。成功していたみたいだね。こっちの指示がないと動かないとか、そんな感じなんじゃないかな?」
その予想通りに、今の魔力珠の状態は『指示待ち』という状態になっているようだった。
こちらがある程度の指示を出すとそれに応じた行動を取るようになっていたので、実験としては成功したといえる。
あとは、どのくらいの時間をこのままの状態でいられるのかという問題が残っている。
それについてはそれこそ時間をかけて調べないと分からないことなので、ひとまず精神を切り離した状態は解除して、少しずつ確認していくことにした。
魂が直接関わっているだけに、慎重になり過ぎるのは悪いことではないと思う。
とにかく、ある程度自立して動く魔力珠を作るという当初の目的は達成できたので、あとは地道に残っている問題をクリアしていけばいい。
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※作中では精神と魂が混同して使われていたり、全く別物として使われていたりしますが、この辺りはまだ主人公もよくわかっていないのでごちゃまぜになっているとお考え下さい。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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