第16章

(1)魔力珠の活用方法

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 クラン拠点はメンバーが部屋を利用しているので、俺たち専用の場所は用意されていない。

 そもそもほとんど滞在することがないからと断ったのはこちらなので、それは当然だったりする。

 では、なんだかんだでヘディンに長期滞在になりつつある俺たちがどこで暮らしているのかといえば、長距離移動で利用している馬車で寝泊まりをしていた。

 勿論一口に馬車といっても中身はしっかりと改装ならぬ改造をされていて、外からでは分からないほどに広い部屋が用意されている。

 一パーティ全員が一つ一つの部屋に泊まってもなお余る部屋数があるので、馬車の置き場所にさえ困らなければ生活を続けていくという分には何ら不自由は起きない。

 動く豪華ペンションといっても過言ではないその馬車は、外はごく普通の見た目をしているので周囲からは少し大きめの馬車だなと思われるだけですむ。

 もっとも少しでも一緒に行動すれば中から出て来る物資の多さで、すぐマジックテントならぬマジック馬車だと気付かれることになるのだが。

 それはダンジョン攻略で一緒に行動することになったクランメンバーが、図らずも証明してくれている。

 

 そんなマジック馬車にある一番大きな部屋はリビング兼食堂という扱いになっている。

 そのリビングに置かれたソファに寝転がりながらぼーっと浮かせた二つの魔力珠を眺めていると、自室から出て来たアンネリが話しかけて来た」

「……何をやっているのよ?」

「んー。何ってことはないかな。強いていえば、魔力タンク以外の使い方は何かないかなと考えていた」

「魔力タンクって……。まあ、確かにそれ以外の使い道は今のところないみたいだけれど、十分凄いでしょうに」

「そうなんだけれどね。それだけだと勿体ないじゃない」

 折角マナを利用した器に多量の魔力を蓄えることができているのだから、他に有効活用ができそうな気がしてならない。

 とう考えて眺めていたのはいいのだけれど、寝転がってしまったのが悪かったのか、多少の眠気と共に集中力が落ちて来たところだった。

 そのタイミングで話しかけられたので眠気は覚めたのだが、肝心の考察は全く進んでいないことに気が付いてしまった。

 

「面白そうだから一緒に考えてみるけれど、その中にある魔力を使って迎撃魔法とか作れないの?」

「勿論それも考えたんだけれどね。それをすると多分そっちに魔力を持っていかれてしまうかな。そうなると普段使いが難しくなりそう」

「別に持っていかれても……効率が悪いって話ね。それだったら魔力を使って自前で反撃したほうがいいと」

「そういうこと。ただ半自動で迎撃してくれる分の手間が省けるという考え方もできるけれど、パターン化した反撃なんかされても意味はないからね」

「確かにそれだとすぐに対策されてしまうわね。対策されるような相手だった場合は、だけれど」

「そうなんだけれどね。対策できない使い手だった場合は、そもそも迎撃システムなんか使わなくても済むと思うよ」

「そう言われるとそうかもね。……いや、違ゆわよ。それこそ誰を相手にすることを想定しているのよ」

 

 そう言いながらジト目で見られてしまったので、そっと視線を逸らしておいた。

 少なくとも人族を相手に使うような場面を想定ことだけは間違いない。

 となると相手は魔物というわけで、少なくとも守護獣クラスを想定しているシステムになる。

 だからこそ消費魔力も多くなるのだが、それだったら多くの魔力を使って枝根動可を使って縛り付けることを狙ったほうが効率的だという結論になってしまった。

 ちなみに逆説的になるが、そんなレベルの迎撃システムを人族に使ってしまうと、無力化するどころか完全に過剰防衛になってしまう。

 完全自動的なシステムなだけに、都度手加減をするなんてことができないことがあだになるというわけだ。

 

「――いっそのこと、並列思考とかできたらいいんだけれどなあ……」

「ヘイレツシコウ……? 何それ?」

「あ~。簡単に言ってしまうと、一度に複数のことを考えられるようになることかな」

「……そんなことできるの?」

「出来ないから出来たらいいなあって言ったんだけれどね。ただ絶対に出来ないというわけではないと思う」

「どういうこと?」

「普段の生活においても、複数同時のことを並行してやるなんてことはよくあるじゃない。それを発展させれば……と口で言うのは簡単なんだけれどね」

「なるほどね。いえ、それはちょっと違うんじゃない? あれは同時に考えているんじゃなくて、慣れた動作を考えることなく自然に行っているのでしょう?」

「そう言われればそうか。……ふむ。無意識的に行っている動作か」


 並列思考という言葉だけで考えていたから、例えば一つのコンピューターで複数同時の作業を行わせることを考えていた。

 けれどもマクロのように一度起動すれば、一連の動作が自動で流れるようにするということは出来る。

 そもそも魔道具は、それを基本にして動いているのだから今更といえば今更だろう。

 だとすれば複数の処理を用意しておいて、その時々のシチュエーションで起動する(できる)ようにすればより複雑な作業をさせることができるようになる……かもしれない。

 

「――いや、駄目か。結局選ぶのは自分になるから手間になるのは変わらない……よな?」

 考えている途中で、あまり意味がないことだと気が付いてしまった。

 規模はともかくとして使用者が選択して魔法を発動するのであれば、既存の魔道具と何も変わらない。

 今考えているのは、ある程度自立して考えて魔法を使ってくれるようにならないかということである。

「いっそのこと高度なAIみたいなものが作れればいいんだけれど、そう簡単にはいかないしなあ……」

「……全くついていけなくなってきたんだけれど?」

「ごめんごめん。ちょっと思考が飛びすぎちゃったか」

 AIどころかコンピューターという概念すらない世界なので、アンネリにとっては未知の言葉を話されているのと同じような感じになっていただろう。

 時々考えていることをついそのまま口にしてしまうのは悪い癖だと自覚しているけれど、直せずにここまで来ている。

 

 それはともかく、AIとかコンピューターのことを考えているときに何か引っかかるものを感じていた。

 喉に魚の骨が刺さったような気持ち悪い感覚に、なんだろうと首をひねるがすぐに答えは出てこなかった。

 これは本格的に考えた方が良いだろうということが分かったので、アンネリに断ってからそのまま自室で考えることにした。

 そこで落ち着いた状態で、何に引っかかっているのかを改めて考え直すことに。

 

「……うーん。何だろうな、この思い出せそうで思い出せない感じ……」

 一人になった部屋でそう呟いてみたものの、どう頑張っても思い出せそうな気配はない。

 一体何に引っかかっているのかと目を瞑りながらしばらく考えていたが、全く進展がなかったので諦めて目を開けると護衛代わりにいつも近くにいるラックとシルクが目に飛び込んできた。

「――えっ!? あっ! そうか……!!」

 二人の姿を見て何に引っかかっていたのか、ようやく気付くことができて大いに納得した。

 

 眷属というのは大雑把にいえば、主である魔物の魔力をもとに生まれた存在だ。

 ラックとシルクの場合でいえば、世界樹の魔力が集まってできた存在だといえる。

 そう考えると、多くの魔力を集めた魔力珠も眷属のように自ら思考できる存在を作りだせるのではないか――そんなことが自然と思い浮かんできた。




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m(__)m

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