閑話14 国政の担い手

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 < Side:第三者(神視点) >

 

 シーオと呼ばれている地域で見ればノスフィン王国からは離れた位置、プレイヤーに分かりやすくいえば中東辺りは、周辺諸国から『帝国』と呼ばれているイカルギ帝国がある。

 そのイカルギ帝国の中央になるイカルギ城では、現在の主である皇帝がジッと報告者の表情を見ながら報告を聞いていた。

「――それで、結局失敗したわけか」

「ハッ。既にガイガーは、ノスフィンに囚われの身となっております」

「所詮は考えることを知らぬイノシシというわけか。奴のことは放っておけ。駒は他にも幾らでもある。……いや。一応Sランクという立場があるから解放するよう要求だけはしておくか」

「畏まりました。そちらについてはそれでいいとして、問題はノスフィンとそれに乗ってきた他国があります」

「……フン。日和見しないだけマシともいえるが、ここぞとばかりに声を上げて来たな。自分たちは提案を飲んでいると言いたいだけだろうが」

「恐らくそうでしょう。少なくとも例の冒険者に対するアピールにはなります」


 この場で皇帝に結果を報告しているのは、帝国内における文官のトップである宰相だった。

 その宰相の言葉に、皇帝は不快そうに眉を顰めた。

「たかが冒険者の一人に何を恐れているのか。裏にユグホウラがいるとはいえ、それがどうしたというのだ」

「さて。今回声を上げたのが、古くからシーオに存在している国々ということは気になるところではありますが……少なくとも以前よりの繋がりは健在ということでしょうな」

「群れることで身を守り、牙を持つことを忘れた老体ではないか」

「ですが、その分知恵は回るので注意は必要です」

 宰相の釘刺しに、皇帝は機嫌悪そうにフンと鼻を鳴らしていた。

 

 皇帝からすればノスフィン王国の一都市にあるという転移装置をとやらを自らの利益のために使おうと求めるのは当然のことで、いくら背後にユグホウラがあるとはいえ諦めるつもりなど毛頭ない。

 そもそもユグホウラは魔物が寄り集まった集団でしかないので、人の世界にあるものを求めることが何故悪いのかという認識だ。

 そんな考えだからこそ、一冒険者に言われるがままに何もせずに手を出さずにいる他国のことを信じられずに自ら動くことにしたのだ。

 実際ノスフィン王国に直接働きかけをしたが、相手にされずに終わったという経緯もあったからこその今回の行動だった。

 

 とはいえその行動は失敗に終わってしまったのだが、別にこれで諦めるというつもりは全くない。

 もっといえば、そもそも今回の作戦が成功するとも考えていなかった。

 幾らガイガーがSランクとはいえ、ノスフィン王国にもSランクはいる。

 成功したら成功したでラッキー程度にしか考えていなかったからこそ、苛立つこともなく冷静に受け止めている。

 

「――となると、次の手だが……」

「その前に、一つお耳に入れておかなければならないことがあります」

「なんだ……?」

「ノスフィンと幾つかの国で、帝に関わる噂が流れ始めているようです。『どうやら今代の帝国は、馬鹿な人材を使うことしかできないらしい』と」

「……なんとも安っぽい挑発だな」


 そう言いながらも皇帝の顔は、渋面になっていた。

 この場が多くの人に見られているのであればそんな表情は表に出さなかったのだが、この場には宰相一人と信頼できる護衛しかいない。

 敢えて表情を隠す必要もないので、素直に感情を表に出していた。

 

「確かに安っぽいですが、効果があることは確かです」

「あるのか? ただの噂話であろう」

「帝国内ではないでしょう。ですが、他国となると恐らく。実際に捕まったガイガーがおります故」

「なるほど。多少なりとも信憑性はあるというわけか。嫌がらせにしては少し弱い気もするが……いや。それが狙いか?」

「裏を取らないと分かりませんが、それもあるでしょう。弱い嫌がらせの部類だけに、こちらが手を出しずらいという」

「噂に反応してこちらが直接動けば、今度は噂に流される臆病者というわけか」

 渋面を作って行った皇帝に、宰相は短く「はい」とだけ答えて頷いていた。

「あの国の対応にしては弱腰すぎる気もするが……確かに放置したままにしておくには煩わしいか」

「ではこちらも何かしらの対応を行いますか?」


 そう聞いてきた宰相に対して、皇帝は少しの間だけ考える様子を見せたもののすぐに「放っておけ」とだけ言った。

「よろしいのですか?」

「構わん。国内に影響が出始めるようであれば対処すればよい。どちらにせよ、ノスフィンは遠すぎて噂程度で動いたところで意味はないであろう」

「その噂によって周りが煩くなるかも知れませぬが?」

「それは、その時こそ直接動けばいい。――違うか?」

 帝を名乗っている者としての威厳を見せて言い放ったその言葉に、宰相は「畏まりました」と返しつつ深々と礼をした。

 その表情は元から宰相としてもそのつもりであったし、何よりも皇帝からの『勅命』として受け取っているものであった。

 このような軽い話し合いのような場であっても、皇帝が『本気』になればそれは宰相にとっては勅命だと受け取れる。

 当然だが帝国内において皇帝の勅命は、何よりも優先されることになる。

 

 宰相が頭を下げた後は、また別の話題へと移っていった。

 二人とも帝国を代表する人物であるために、個人的な場であっても話し合うべきことは多い。

 余人を交えず話し合うその姿は、護衛以外に人はいないのであった。

 

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 ところ変わってここはノスフィン王国の王城。

 ここでも国のトップと宰相が、二人だけで顔を突き合わせて話し合いを行っていた。

 その話し合いの内容が帝国で行われていたそれと重なっていたのは、タイミング的には必然だと言えるかもしれない。

 

「――Sランクのガイガーを全く手出しさせずに一瞬で捕縛……か。どこまで本当なのかは分からないが、圧倒できる実力を持っていることだけは確かだな」

「その通りではありますが、本人ではなく常に周囲にいるという護衛が行ったのかもしれません」

「そうなのかもしれぬが、だからといってそれが『隙』になるとは思えないな」

「それは仰る通りです」


 国王であるヴィクトルと宰相の話は、ガイガーを難なく取り押さえることに成功したキラのことが中心となっている。

 キラと直接対面したことがあるヴィクトルは守護獣の忠告から侮ることはなくなっているが、それでも今回見せたキラの強さは驚きだったようだ。

 曲がりなりにもSランクを名乗っていた冒険者をほとんど反撃を許さずに無力化したというのは、一般的な常識からすれば眉唾物と言われても仕方のない話だ。

 それを成したからこそ、国のトップの二人が顔を突き合わせて話すような事態になっている。

 

 とはいえこの二人にとって幸いだったのは、今のところキラが明確な敵対関係になっているわけではないということか。

 かといって近しい関係ともいえないところが歯がゆいところではあるが、少なくとも以前のような『失敗』はできないと慎重になっていることは確かだ。

 キラからの『提案』を受けいれてそのまま実行したのも、ノスフィン王国に対するデメリットが少なかったからだ。

 デメリットが起こったとしても対処が簡単だと判断されたために実際に実行されたことになる。

 

 明確に敵ではないと言えるが完全な味方とも言い難いキラは、ノスフィン王国にとっても重要事項の一つとなっている。

 国内にある町に見過ごせない魔道具が設置されていることもまた、事態を複雑にしている。

 それでもできる限り国のために出来ることは何かないかと話し合うのは、国政を担う者として当然のことなのであった。




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m(__)m

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