(11)子爵家へ

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 ヒルダが来てから十分も待たずに騎士たちが来て、ガイガー一行を引き取っていった。

 その後はヒルダ共々子爵の屋敷に呼ばれたので、一応アンネリとアイリも一緒に連れて訪ねていた。

「――これでようやく一段落か」

 集まった面々を見ながら子爵がそう切り出した。

「帝国が諦めなければ、ですが」

「嫌なことを言うな。それに、そこまで行けば私が口出しできるような問題ではない。王からの指示に従うだけだ」

 忠誠を示しているのか、もしくは丸投げをしているともいえるのか、どちらともとれる言い回しをしてきた子爵。

 ヒルダは一応辺境伯夫人という立場にあるわけだが、そんなことを言ってもいいのかと少し心配になってしまう。

 

 その程度のことで子爵の立場は揺るがないのか、ヒルダのことは気にした様子もなく子爵は続けて言った。

「それよりもこれから先は『激流』殿と騎士たちの仕事になる。王都への移送は任せたぞ。無論私も領内では兵を出すが」

「心得ております。そのために来たようなものですから」

 ヒルダはチラリとこちらに視線を向けながらそう言ってきたが、子爵も大きく頷いていた。

「そうだな。私もまさか、あのガイガーを相手に何もさせずに完封させるとは思っていなかった」

「相性の問題もあるのでしょうが……いえ。キラが相手になれば、誰でも相性は悪いのでしょう」

「そこまで言うか。だがまあ、納得できることではあるな」

 チラチラとこちらを見ながら繰り広げられる会話に、素知らぬ顔を続けながら話を聞き続けていた。

 褒められて(?)悪い気はしないのだけれど、ここで調子に乗れるような性格でもない。

 

 何故褒め殺しのようなことをしてくるのか疑問ではあるけれど、恐らくおだてて気をよくさせる方面で攻める(?)ことにしたのだろうと考えることにした。

 無駄に褒められるだけだとイラっとしたりもするが、一応本当のことしか言っていないので変に反発する必要もない。

「それはいいのですが、今後の話をするために呼ばれたのでは?」

「おっと、そうだったな。ガイガーに巻き付いているあの植物だが、解けることはないのか?」

「いえ。解こうと思えばいつでも解けますが、今すぐに解きますか?」

「いや。すぐに王都に送ることになるからしなくていい。それよりも向こうに着いてから解けないと困ることになると思ってな」

「それなら解呪する方法をお渡しいたしますが、どなたに渡せばいいでしょうか?」

「なるほどきちんとあるわけだな。それならここにいるヒルダ夫人に渡してくれるか。彼女は一緒に王都に行くことになっているからちょうどいいだろう」

 

 ヒルダは、万が一輸送中に逃げ出すようなことが無いように一緒に行くことになっているらしい。

 ヒルダがヘディンまで来たのは、どちらかといえば輸送するときのガイガー対策として呼ばれていたようだ。

 勿論、こちらで対処できなければヒルダも戦闘に参加することにはなっていたのだろうが、そんな機会はなかったのでメインの仕事が護送時に移ったのだろう。

 その辺りの裏まで取れてはいないが、特に必要のある情報ではないので予想するだけに留めておいた。

 お陰で王都まで着いて来てほしいと言われなくて済むので、ヒルダには是非とも引き続き頑張ってほしいところだ。

 

「ヒルダさんですか。それでしたら確かにちょうどいいですね。――これを」

「何、これ?」

 差し出した木の枝を受け取ったヒルダは、軽く振りながら首を傾げていた。

「そのままあの鎖を解くためのカギですよ。あれを解きたいときに、魔力を流して呪文を唱えながら触れると解けるようになっています」

「それは便利ね。随分と魔力の通りがいいみたいだけれど、魔道具なのかしら?」

「どうでしょう? あれの解呪にしか使えないですし、そもそも使い捨てなので道具と言っていいのか微妙なところではありますが――ああ、所有者登録してしまいますね」

 他の誰かに奪われて、折角の植物の鎖が解かれてしまうと意味がない。

 ヒルダはすぐに渡した木の枝をこちらに渡してこようとしたけれど、所有者登録は使う本人が持っていないと意味がないのでそのまま持っていてもらう。

 所有者登録の作業自体は簡単なものなので、一分もかからずに終わった。

 

 そのやり取りを見ていて興味を持ったのか、子爵が感心した様子で聞いてきた。

「随分と便利なものがあるんだな。盗難なんかに仕えると思うんだが、何故一般的じゃないんだ?」

「子爵、残念ながらこれはそこまで便利なものではありませんわ。そもそもどんなものに使われるおつもりですか?」

「どんなって、それは家宝とか国宝とか……ああ、所有者を指定してしまうと後に継げないのか。それだと確かに意味はないな」

「そういうことです。今回は使い切りだからこそ、役に立ったわけです。それに、そもそもこの場での手続きが簡単だったわけで、事前に複雑な準備が必要なはずです」

「なるほどな。ヒルダ殿でも知っているということは、他の魔法使いたちも知っているのだろう。それで広まっていないということは、きちんとした理由があると見るべきだったか」

 ちなみにこの会話には混ざらなかったが、血縁などの条件を付けて引継ぎをさせることもできなくはない。

 ただしそれは完全にこの世界では知られていない技術になり、また必要な素材も含めて色々と面倒な準備が必要になるので一般的になるかと言われれば微妙なところだ。

 プライヤー間では当たり前に使われている所有者登録の魔法も、この世界ではまだまだ開発途上といった状態にある。

 

 それにしても……と、子爵とヒルダの会話を聞きながら少し別のことを考えてしまっていた。

 この二人、過去に何やら色々とあったようだが、今は普通に会話している。

 業務だからと言われればそれまでだけれど、それにしては自然に話が出来ているようにも見える。

 以前のことを考えると少し違和感があるようにも思えるのだが……そこは他人が気にしても仕方ないということかな。

 

 そんな余計なことを考えていたら二人の会話は落ち着いて、何やら二人がこちらを見て来た。

「ヒルダさんが言ったとおりに、今回は使い捨てだからこそ気軽に用意できたことです。逆にいえば一度使ってしまうと鎖共々無くなってしまうので、気を付けてください」

「それはわかっているわ。恐らく王都に着くまで使うことはないでしょう」

「そうだな。むしろそのまま渡せと言われる可能性はあるが、ヒルダ夫人にしか使えないと分かれば諦めてくれる……はずだ」

 最後に少々不穏な言葉が付け足されたが、こればかりは中央の意向によって変わって来るので子爵も何とも言えないのだろう。

 別に中央でなにか余計な力が働いて鎖が解けなくなったとしても、それはこちらの責任ではない。

 まさか王家が関わっている案件に余計な口を挟んでくるとも思えない……と言いたいところだけれど、貴族という生き物を考えるとだからこそ動く可能性もないわけではない。

 そうなったらそうなったでまた別の問題なので、今から心配しても意味のないことではある。

 

 今回呼ばれたのは、ガイガーに付けた植物の鎖に関することだけだったらしい。

 解呪をするための枝をいつ渡そうと考えていたので、タイミング的にもちょうどよかった。

 あとは政治的な話になるので関わらないというこちらの主張をする前に、子爵からこれで終わりだと言われた。

 これで『豪炎覇道』に関する一連の流れが終わればいいかなと思いつつ、最後にちょっとばかりの意見を提案して子爵たちとの会話を終えた。




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m(__)m

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