(10)力自慢の終焉

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 枝根動可で植物に絡み取られているガイガーは、時間にして数十秒ほど自らの力で振りほどこうとしていたがそれが無理だと悟ったのか、取り巻きたちに怒鳴った。

「お前ら、何をしている。相手は三人だ。さっさと動かんか!」

 こちらはこういう事態になることを想定して、眷属の二人しか連れてきていない。

 対して向こうは取り巻きが五人。

 それでどうにかなると判断したのか、ガイガーの『命令』を聞かざるを得なかったのかは分からないが、とにかく取り巻きたちが動き始めた。

 確かにこの状況だとそうするのが一番いいのかもしれないけれど、こちらから言わせれば最悪の判断だったといえる。

 眷属の二人は、そもそも人族相手に負けるような強さではないし、俺自身は枝根動可を使っていても他の魔法を使うことができる。

 もしかすると俺を狙うことで植物の楔が緩むことを狙ったのかもしれないが、そんな甘い状況になるはずもなかった。

 

 どういう連携をしようとしていたのかは不明だったが、五人はあっという間にラックとランカに取り押さえられた。

 本性がドラゴンであるランカが手加減ができるか多少不安だったのだけれど、見た感じそこまでひどい怪我をしている様子もなく安心できたのはここだけの話だ。

 もし言葉にしていれば不満そうな顔で見られることが分かってたので、決して口にすることはしない。

 幸いにもランカはこちらの気持ちには気付いておらず、何やら嬉しそうに向かってきた相手を縛っていた。

 

 その状況を見て、いよいよ後がないと理解できたのか、ガイガーは再び撃をしてきた

「キサマ! 皇帝のチョクシである俺様たちに対して、こんなことをしてどうなるのかわかっているのか!?」

「さあ? ここは帝国から離れた場所にあるノスフィン王国ですからねえ。どうなるのか教えてもらってもいいですかね?」

「キサマ……!!」

 返す言葉が浮かばなかったのか、ガイガーはギリギリと歯ぎしりをさせながらこちらを睨みつけて来た。

 もし魔眼なんて存在があれば呪い殺されそうなほどに睨まれていたが、あいにくそんなものはないらしく、何の痛痒も感じることはない。

 むしろこの後に及んで、皇帝の名前を出すなんて大丈夫かと心配になったくらいだ。


 そもそも何故悠長に枝根動可で縛り付けだけで終わらせているのかといえば、彼らがここに来た時点でとある仕掛けを発動していたからだ。

 それは別に特殊な魔道具とかそんなものではなく――、

「おやおや。力自慢のSランクも形無しねえ。で動けなくなるってどんな気分?」

 そんなことを言いながら同じSランクの『激流』――ヒルダが入ってきた。

 それ以外にも警ら隊を通して子爵からは騎士を派遣してもらっているはずだが、少し到着が遅れているらしい。

 ヒルダを呼んだのは、同じSランクとしていざ戦いになった時の戦力として呼ぶようにと言われていたためだ。

 

 ある程度こちらの力を知っているヒルダは、そんな必要はないと言っていたらしいが一応形式というものがある。

 王国が折角用意してくれた戦力なので、後々のためにもこの場に参加してもらう必要がある。

 政治的な思惑が絡んで面倒ではあるが、むしろこちらにとって必要になることなのでありがたく来てもらった。

 あとは騎士の皆さまが来たところで詰みとなるわけだが、ここで相変わらずの口を聞いていたガイガーがギロリとヒルダを見ながら言った。

 

「おい、お前! 『激流』! 自分の力ってどういうことだ!!」

「はあ。これだから頭でっかちは。その蔦か枝かは分からないけれど、あんた自身の魔力を使って強化しているのよ。つまりは魔法を使えば使うだけ、締め付けが強くなるってわけ」

「ああ~。ヒルダさん。できれば種明かしは最後にしてほしかったんですがね」

「おや。それは申し訳なかったわ。でも、あなたならこの程度のこと明かしても問題ないでしょう?」

「確かに、そうですが……」


 ヒルダと二人でそんな呑気な会話をしていると、何故かガイガーがニヤリと笑ってこちらを見て来た。

「そういうことかよ。おい、お前! 種さえわかってしまえば、こっちのものなんだよ! ……ンギギギギギ!!」

 なにか分かったような顔をして突然力み始めたガイガーがだったが、当然そんなことで解けるような拘束ではない。

 一応ヒルダの言葉に従って身体強化をせずに肉体の力だけでやろうとしていたようだが、そんなことは無駄なことだ。

「――――何故だ!? こんな植物程度、ほどけないはずがないだろう!」

「あ~。ヒルダさん、お願いいたします。一々説明するのも面倒です」

「ここで私に振ってくるわけね。私も面倒だからパス。――というか、よくもここまで面倒なことができるわよね」

 ヒルダは、そう言いながらガイガーに巻き付いている植物たちを感心した様子で頷きながら見ている。

 

 ガイガーに巻き付いている枝根動可で発生した植物は、柔軟性は勿論のこと丈夫さや耐熱耐冷性までなんでもありの耐性を持っている。

 なんだそれはと思われそうだが、そもそももとになっているのが世界樹なのでそれくらいの芸当は出来て当たり前だと思う。

 そうでなければ、爵位持ちの魔物を押さえることなどできるはずもない。

 そんな性質を持った植物を人族の力だけで引きはがそうなど、無理な話なのだ。

 

 そんなことも理解できないのか、ガイガーは未だに自力で引きはがそうともがいているが、もはやそんな相手に構う必要もなくなっている。

 ヒルダも同じ気持ちなのか、完全に無視をしてこれから先どうするべきかを話してきた。

「――それで? このあとどうするつもり?」

「どうもこうもありません。騎士を呼んでいるので、引き渡して終わりですよ。ちゃんとした幕引きをしてくれるのであれば、こちらから言うことはありません」

「そう。てっきりこれを機に国から何かを引き出すのかと考えていたのだけれど?」

「しませんよ、そんなこと。どうせ政治的な色々があるでしょうから、こちらが口を出せばより面倒になるだけですし」

「それは間違いないわね」

「できればこれ以上関わってこないようにしてくれればそれが一番ですが……その辺りのやり取りはお任せです」


 どうせ国家間のやり取りになることは間違いないので、今後について口出しをするつもりはない。

 そもそも今回は色々な理由があってヘディンにいたけれど、別に常駐しなければならないというわけではない。

 いざとなればヒノモトに逃げてしまえばいいだけなので、敢えてヘディンにこだわる必要もない。

 今回の件で建物自体に何かしらの仕掛けをすることもできないと伝わっているはずなので、俺自身がいなければ意味がないことも理解できるはずだ。

 それが理解できなければ少し面倒なことになりそうではあるけれど、そもそも転移装置を置いている建物が王国にある以上は帝国が国として直接何かしてくることは難しいはずだ。

 

 とにかくあとは経過を見守るだけで、個人でできることは何もない。

 あとは少しばかり子爵と話をしてちょっとした仕掛けを帝国に対してしたいところだけれど、それを王国が取り入れるかは分からない。

 できない――というかやらないならやらないで、別に構わない。その程度の策でしかないので。

 ガイガーが口にした皇帝は、どの程度本気で転移装置を狙っているのかは分からないので今後の対策のしようもない。

 

 二度と手出しをしてこないように眷属たちを使って反撃をしてもいいとは思うけれど、今のところそこまでする必要性も感じない。

 そのことを含めて『策』を一つ王国に進言してみるつもりだけれど、何度も繰り返すが使うかどうかは王国次第ということになる。




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m(__)m

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